ミャンマーの銀行業務の向上のために:課題別研修「銀行業務改善」コース

いまは銀行ブーム

近頃、TVドラマで銀行系のものが続きました。2013年に大ヒットしたドラマ「半沢直樹」(最終回の視聴率42.2%)をはじめ、今年放映されたドラマ「花咲舞が黙っていない」も好評だったようです。視聴者を惹きつけるため、実際よりもかなり脚色されていると思いましたが、それでも、普段は預・貯金や住宅ローンなどの窓口業務、またATM以外に馴染みの無かった私たちにとって、ドラマの中で触れられていた企業融資や与信業務について、存在を知る良い機会になりました。銀行員役の主人公を通じて、業務の一面を垣間見ることができた点は大きな功績と言えそうです。
さて、華々しい主人公の大活躍とは別に、日々の業務は、実に堅実性が求められるものと思われます。ドラマのように大事件がいつも起こっている訳ではなく、実に地味であったりするのです。

ミャンマーの銀行のために研修を実施

<2014年度(2014年6月実施)の研修>
日本の中央銀行である日本銀行も行きました。
1896年に建設された日本銀行旧館(国の重要文化財に指定)の中庭にて

そのような堅実な業務を遂行する人材を育成するため、JICA東京では銀行に関係する研修を実施しています。株式会社三菱東京UFJ銀行と三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に研修業務を委託し、2012年度から2014年度の3ヶ年で実施した課題別研修「銀行業務改善」コースがその一つです。
研修の対象はミャンマー1ヶ国に絞っています。これは2011年にミャンマーの政権が表明した“民主化の推進”や“市場経済化の推進”を、日本政府が積極的に後押しするという方針に基づいているからです。近頃やっとATMが設置され始めたミャンマーのようですが、多くの市民は銀行窓口に何時間も並んでお金を引き出し、またお金を送金するのも電子取引ではなく、紙媒体中心の処理が行われているようです。このため時間もかかり、ミスが生じるリスクも高いと言えます。そこで、ミャンマーの銀行が国の経済をしっかり支えられるよう、日本はミャンマーの中央銀行のICT(情報通信技術)システムの構築、銀行間取引の技術専門家の派遣とともに、人材育成の研修を実施しています。

日本の金融の教訓をミャンマーに伝えたい

<2014年度(2014年6月実施)の研修>
三菱東京UFJ銀行にて、支店業務について説明をいただきました

さて、最近の日本での研修は、2014年2月(2013年度向け)と2014年6月(2014年度向け)に実施しました。いずれも、ミャンマー中央銀行、ミャンマー経済銀行(MEB)、ミャンマー投資商業銀行(MICB)、ミャンマー海外貿易銀行(MFTB)、ミャンマー農業開発銀行(MADB)からの計6名の参加です。初めての海外研修という方もおり、初日の顔合わせの際はかなり緊張した面持ちでしたが、その日の午後に実施したオリエンテーションあたりからだいぶ緊張もほぐれたと思います。

<2013年度(2014年2月実施)の研修:三菱東京UFJ銀行のATMの講義の一コマ>
ATMの多機能に驚くとともに、研修員からの質問途切れず。

講義「銀行業務の変遷」では、日本の金融市場に精通し、かつ様々な銀行の変遷を間近に経験された講師からは、日本の銀行が歩んできた苦難、日本金融界が経験した成功事例、失敗事例が紹介され、研修員にとって感銘を受けた講義の一つとなりました。
また、期間中、三菱東京UFJ銀行の支店を見学させていただく機会もありました。最初に紹介されたATM機は、日本人にとっては町の何気ない機械ですが、ミャンマー人とっては、かなり興味が高く、停電の際はどうなるのか(ミャンマーは停電が多いそうです)、いくら現金が入っているのか、ATM一台いくらするのかなどの質問を行いました。2月に実施した研修では、予定時間10分を越え20分近くを費やし、それでも質問が足りないようでした。また、窓口業務も離れた位置から拝見することができました。特に関心を示していたのは、窓口コーナーの裏に設置されている入出金機です。一万円札の束が何百も格納されている機械を見るだけで、かなり緊張するものでした。

10日間弱の短い期間であったものの中身が詰まった研修であり、研修員は集中的に取り組んでいました。決済業務、国際金融業務、リスク管理、コンプライアンス、与信業務、銀行の人材育成などの各種講義に加え、ディーリングルームの見学も盛り込まれました。融資をする際、常に担保を取るミャンマーと比較し、企業の信用や業績に基づき、融資している点も研修員にとっては、驚きの様でした。また、与信業務の大切さを講師が全身で研修員に伝えようとしてくれたというコメントが聞かれるなど、講義していただいた三菱東京UFJ銀行の熱意が感じられる研修であったと思います。

これからのミャンマー

<2014年度(2014年6月実施)の研修:最終日のアクションプラン発表>
研修員は前夜2時まで準備をしていたそうです。

さて、多くの研修員からは、もっと学びたかったといったコメントが多く出されました。残念ながら日本での研修は今回で最後となりますが、現地ミャンマーでの支援はまだまだ続きます。JICAは、今後より多くの研修を企画し、銀行の強化、また人づくりを進めていく予定です。

<2014年度(2014年6月実施)の研修>
閉講式の様子です

現在、ミャンマー政府が進める市場経済化は、一時期停滞していた同国の経済を刺激しています。その結果、実質GDP成長率7.5%(IMFによる2014年4月の推定値)となるなど、今、目が離せない国の一つになりつつあります。この銀行業務改善コースで学んだ研修員が活躍し、将来、ミャンマー経済を支えることになれば、案件を担当した者として、うれしい限りです。

(JICA東京 産業開発・公共政策課 野口伸一、山本紀子)(2014年)

(追伸)

第1回目(2012年)と第2回目(2013年)のコースは、日本の真冬2月に実施しました。冬がほとんどないミャンマー(年間平均気温が27.4℃、ヤンゴン)なので、薄着、サンダルで参加しようとした研修員にとっては辛い時期になってしまいました。そこで、第3回(2014年)は2014年6月下旬から開始することができ、一安心でした。冬に来られたミャンマーの研修員の皆さん、ごめんなさい。