結核患者を見つけて、適切な診断・治療に導くプロフェッショナル〜MDGs達成に向けた結核菌検査マネージメント〜

結核は過去の病?

写真1:顕微鏡で菌の数を数える研修員

「結核」という感染症についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?
日本では昔流行った病気という印象の方も多いかもしれません。たしかに、明治期から急速に患者が増加し1950年以前の日本人の死因のトップだった結核は、かつて「国民病」「亡国病」とも呼ばれ恐れられていましたが、昨今では、有効な治療薬が開発され、早期発見、服薬支援等の取り組みが功を奏して患者数は激減しました。しかしながら、2012年の日本の結核罹患率(人口10万人あたりの結核患者数)は、16.7で欧米諸国と比べ高く(アメリカ3.1、ドイツ4.9等)、世界の中では依然として「中蔓延国」と位置付けられており過去の病とはまだ言えない状況にあります(※)。一方、世界に目を向けてみても、世界保健機構(WHO)の推定では、2012年で年間に860万人が新規に結核を発病し、130万人が死亡しており、その患者の多くが開発途上国で発病しています。そして、多剤耐性結核菌、HIVとの重複感染など新たな課題が加わり、更なる結核対策強化へ向けた国際的な取組が急務となっています。

結核菌を見つける検査

写真2:スライドに検体を塗る研修員

結核は、患者のくしゃみや咳などから空気中に排出された「結核菌」を吸い込むことによって感染、発病することがあります。

早期発見や治療にあたっては、迅速で適切な検査が必要で、結核菌検出のための検査は大きく分けて(1)塗抹検査、(2)培養検査、(3)遺伝子検査があり、いずれの検査も喀痰を主な検体として用います。

広く世界中で利用される塗抹検査

写真3:検体を染色する研修員

塗抹検査は、検体(喀痰)をスライドに塗抹・染色し、直接顕微鏡で観察する検査法で、迅速に結果がわかるというメリットがある一方、ある程度病気が進行して比較的多くの菌量がないと結核菌が検出されない、また結核菌のみではなく、結核菌が含まれる抗酸菌全般を染色するため(結核菌と非定型結核菌の区別ができないため)確定診断には至らない、薬剤感受性検査には供用できないといったデメリットがあります。
しかしながら、多くの途上国では設備・バイオセーフティー上の制約があるため、複雑な機器や厳密な精度管理を必要とする培養検査や遺伝子検査よりも、塗抹検査だけで診断される場合が多いようです。
本コースでは、途上国でよく活用されている塗抹検査に加えて、培養検査、薬剤感受性検査、遺伝子検査等各種検査方法について幅広く学んでいます。

緻密な作業を行う研修員

写真4:各研修員の成績変動グラフ

先日、研修員の塗抹検査実習の様子を見学したところ、顕微鏡をじっと覗きながら結核菌の数を数える研修員(写真1)、検体(喀痰)を何枚ものスライドにずっと塗り続ける研修員(塗り方にはコツがあり、薄くても厚くても不均等でもきれいに染色できず適切な診断は行えない)(写真2)、検体に染色をしている研修員(写真3)等、みなさん黙々と各自の作業を長時間熱心に行っていました。特に検体をスライドに塗る作業や顕微鏡の作業は同じ姿勢で緻密な作業を集中して行っており、これを長時間行う検査技師という仕事は忍耐力、集中力、器用さ等が求められる仕事であると感じました。この塗抹検査の実習は同様のものを4回繰り返して、検査技術の成績変動や技術の習熟度を見ていきます。(写真4、5)みなさん、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目とぐんぐん技術が向上しているのがわかりました。

写真5:左側から、見本、1、2、3回目結果と並ぶ

10週間の長きにわたって丁寧なご指導により得られた知識・技術、そして研修員同士のきずなは、自国、そして世界の結核対策に生かされるものと期待しています。


JICA東京 人間開発課 松山美恵子 (2014年12月)