教育改革の原動力となる授業研究(Lesson Study)を学ぶ〜国際開発センターによるインドネシア国別研修「教員養成機関指導者育成研修」〜

研修員の皆さんと「協同的学びと授業デザイン」の講義をして下さった、北田佳子先生(写真中央/埼玉大学)

インドネシアの11大学より、教員養成学部等、指導的立場の研修員20名が参加。授業研究の発祥地である日本で、特にその歴史的・文化的背景や教育学の理論的背景を知り、授業研究を積極的に取り入れている学校の授業研究協議会を参観し、具体的な実施方法を学びました。

「協同的学びと授業デザイン」講義の様子

 

子ども同士、互いに助け合い、学び合う姿

浜之郷小学校での検討会の様子〜感想を述べるサルワントさん(写真右)、心強いアドバイスを下さる佐藤学先生(写真中央/学習院大学)

学びの共同体型授業研究を積極的に取り入れている 茅ヶ崎市立浜之郷小学校では、 実際の授業とその後の授業研究協議会を参観しました。子どもの持ち味を大切に、子ども同士が尊敬し、学び合えるように、そして、教師は学ぶことが仕事であるという考えの下、授業準備に専念できるように、様々な工夫を凝らし、学校改革を地域と共に行ってきた学校です。学校創立以来17年の間、「授業研究協議会」を1000回以上も公開で実施し、そのために不要な会議を無くし、教員同士もいつでも授業を参観し合え、参観するのみならず、サポートし合う体制づくり等を行ってきているそうです。

浜之郷小学校での検討会の様子

 

浜之郷小学校での検討会の様子

また、通常の「授業参観」ではなく、保護者や地域の方々も子どもの授業に参加するより効果的な「学習参加」にも取り組まれています。その様子を見学し、協議会の中で研修員代表としてサルワントさん(スブラスマレット大学)は「子ども同士が、互いに助け合う姿、また、先生同士が互いに学び合う時間があることも素晴らしい。貴重な時間を共有頂き感謝しています。私たちも持ち帰り、自国でも取り入れていきたいと思います。」とその感想と感謝の気持ちを述べました。

浜之郷小学校校長先生へ挨拶

 

生徒の抱える問題を少しずつ解決していきたい

東江中学校での授業参観

インドネシア国に特徴的な僻地校における学校改革の事例も見てその理解を深めるために、沖縄県国頭村や名護市を訪れ、沖縄の教育について学びました。 国頭村では教育委員会、辺土名小学校、国頭中学校を訪れ、名護市では、名護市教育委員会、東江中学校を訪問しました。名護市教育委員会では、臨床心理士・岸本琴恵さんによる学習障害(LD)とケアリングについての講話を聴き、その中で 「カウンセリングをしていると、生徒たちの悩みの8 割以上は勉強について行けないこと。勉強についていけない子どもには、発達障害や学習障害を抱えている場合が多くあり、それを理解し、救っていく手だてを日々模索している。」という話があり、全ての生徒をケアする質の高い授業の必要性を実感しました。研修員からは、「インドネシアと違って、 生徒が抱えている問題を教育に関わる全ての人たちが一緒になって解決しようという学びの共同体が導入されている。インドネシアでも実践して、生徒の抱える問題を少しずつ解決していきたい。」とのコメントがあり、さらに教育現場における協働体制の在り方を再考したようです。

東江中学校での授業参観

 

名護市市民会館での国際文化交流会

 

帰国後の活動は?

最終レポート発表会の様子

研修の最後には、帰国後の活動について、活発で具体的な意見交換がありました。例えば大学でできることとして、大学長の許可を得てプログラムに組み込み、実践し、モニタリング・評価を重ね、持続させていきたいとの声、既存の「タスクフォース」を活用し、授業研究の概念を組み込み、活性化・再生したいとの声、さらに、大学内のみならず、学外、例えば民間への働きかけを強調し、民間へも経費として組み込むよう 働きかけられる実例を紹介する研修員もいました。また、研修員同士でできることとしては、HPの立ち上げの具体化を図る声、事前研修において歴代の派遣者と交流し、日本での経験、帰国してから何をすべきか等共有したいとの声も挙げられました。一方で、「学校や大学での授業研究を周囲に(業務の一環として)強制することに抵抗がある方がいるのも事実。ボランタリーベースの方がよいこともあり、義務ではなく押し付けず、急かさず、それぞれのペースで実践していくことが大切」という意見もあり、一同、無理なく継続できるその姿勢を大切に考えていました。

教育の質の向上をめざして

国際開発センター、研修監理員の皆さんのおかげで、無事研修終了!

インドネシアでは基礎教育の質や教員の資質の低さが問題となっており、これに対しJICAは「前期中等教育の質の向上プロジェクト」を実施 (2009-2012)。授業研究や参加型学校運営改善を実施・普及するための中央行政、地方行政、教育機関の能力強化及び連携強化を行いました。この結果、授業研究はインドネシア国家教育政策である「新任教員研修プログラム」に組み込まれ、教育文化省下の全国の教育の質保障機関、宗教省下の全国の地方教育研修センターの研修にも導入されてきており、主要教員養成大学でも授業研究活動が実施されてきています。 このような背景の下、本研修は特に教員養成大学の教員を対象に、前プロジェクトで導入された授業研究に関し、プロジェクトの成果定着のため日本の教育現場での意義、実践方法を学び、質を更に向上させることを目指し2013年度から実施されています。今般、第3回を迎えた当研修は、第1回、2回に派遣された方々との具体的な連携も見えてきました。11月下旬にインドネシア(バンドン)で開かれた「世界授業研究学会 (World Association of Lesson Studies)」にも多くの帰国研修員が参加されていたと、当研修コースリーダー国際開発センター高澤氏より報告を受けました。派遣された研修員の皆さんには、まずはインドネシア国内で、ひいては日本も含めたアジア地域全体で協働し合える原動力となって頂き、共にさらなる教育の質の向上に向け尽力し合いたいものです。

【画像】人間開発課 高橋 依子 (2014年10月)