持続可能な開発プロジェクトの実施のために:課題別研修「ODAにおける環境影響評価」コース(2016年度)

 開発途上国では経済成長を実現するため、発電所や港湾、道路等の様々なインフラ施設が必要とされています。一方で、こうしたインフラ整備プロジェクトの実施に伴う、大気汚染や水質汚濁等の環境汚染、周辺住民の非自発的な移転、生計手段の喪失などには適切な配慮が必要ですが、開発途上国では環境影響評価の制度が十分でなかったり、その運用などの実務に課題のある国が数多くみられます。そこで、持続可能な開発に向け、日本での公害の克服や環境影響評価制度の仕組みとともに、他国での課題や取組を教材にして環境影響評価の実施能力を向上することを目的として2014年度から本研修を実施しています。3回目となる2016年度は、5月11日〜14日に名古屋市で開催された世界環境影響評価学会(IAIA16)への参加をカリキュラムの一部として、5月2日〜27日の間で実施し、アフガニスタン、カンボジア、エチオピア、ガーナ、インドネシア、ヨルダン、ラオス、リベリア、マラウィ、ミャンマー、ナイジェリア、ペルー、セルビア、ソロモン諸島、スリランカ、東ティモール、ウズベキスタンの17ヶ国から、21名の環境影響評価の審査機関や事業の実施機関及び資金運用機関等の行政職員が研修に参加しました。

理論から実践まで包括的に環境影響評価制度を理解する 

演習(グループワーク)の様子

IAIA16の様子

 このコースでは、環境影響評価制度の必要性、環境影響評価のプロセスと実際の運用等について、日本の環境影響評価制度に関する講義、実際のプロジェクトや環境保全対策の視察、JICA環境社会配慮ガイドラインの講義、演習などとともに、研修員の国の環境影響評価制度を比較することなどによって包括的に学べるプログラムになっています。さらに本年は国際環境影響評価学会に参加することで、環境影響評価に対する世界中の動向や課題について体感することができました。
 2016年度は各国の環境影響評価制度についての議論の時間を多くとり、国々の制度の共通性、相違点、課題等について理解を深めることができました。
 またIAIA16では、4日間すべてのスケジュールに全員が自ら選択したセッションに参加して、アジアを対象としたセッション、戦略的環境アセスメント(SEA)、社会影響評価(SIA)、蓄積影響(CI)、住民参加の重要性等における世界水準の動向、議論にふれることができ、とても有意義な機会となりました。

施設見学から学ぶ

クリーンプラザふじみ視察の様子

 東京近郊の施設見学では東京電力株式会社川崎火力発電所と、調布市と三鷹市の境にあるふじみクリーンセンターを見学しました。
 川崎火力発電所では、最先端の発電効率をもつガスコンバインドサイクル発電と環境保全施設のしくみを見学し、その規模感や配置を体感するとともに、見学終了後にはJICA環境ガイドラインの環境チェックリストを用いた振り返りを行って、環境審査のポイントについて学びました。
 クリーンプラザふじみでは、周辺住民に配慮したゴミ処理施設として、ダイオキシンの発生を抑制する最新式ストーカ炉や廃熱の有効利用、焼却残渣の有効利用方法について学ぶとともに、プロジェクトの全段階を通した住民参加についても学ぶ機会となりました。

開発と環境保全のバランス、環境教育について理解を深める 

漫湖水鳥・湿地センターでの講義

 このコースでは「開発と保全のバランス」への理解を深めるため、豊かな自然を有し、様々なインフラ整備事業が進行する沖縄を研修旅行の対象としており、環境省の施設であるやんばる野生生物保護センターとラムサール条約登録湿地の漫湖水鳥・湿地センター、那覇港臨港道路整備事業や新石垣空港における環境保全対策等の視察と、WWFジャパンしらほサンゴ村でのNGOによる環境保全への取組、沖縄県の環境評価制度、サンゴ礁の生態系サービスなどに関して講義を受けました。
 やんばる野生生物保護センターでは、ヤンバルクイナの保全活動の詳細とその意義やロードキル対策とともに、外来種対策や貴重種保護の取り組みについて学びました。また、漫湖水鳥・湿地センターでも干潟と水鳥の飛来環境の保全と同時に拡大するマングローブの管理について学び、開発と保全のバランスについて学ぶいい機会となりました。
 新石垣空港では、計画地の選定における住民参加と、コウモリやカエルなどの生息場保全の取組について学び、開発と保全の実際を体験することができました。また、しらほサンゴ村ではNGOが自然保護に対する役割について学ぶことができました。
 沖縄での最後の講義となる生態系サービスの講義では、サンゴを例にした生態系サービスの役割と保全の意義について学ぶと同時に開発と保全に関わる議論が行われ、視察と講義のすべてが「開発と保全のバランス」でつながり、理解を深めることができました。

アクションプランの発表と今後への期待

アクションプラン発表の様子

 プログラムの最後に、各研修員が自国の環境影響評価制度の課題を解決するためのアクションプランを作成し、発表しました。各国の課題分析をベースに、日本で得た知見・経験を反映して、個人や組織、省庁間などの階層や、短期、中期、長期といったタイムスケジュールも加味した具体性のあるアクションプランが作成されており、その実現が期待されます。

このコースに参加して(研修員からのコメント)

閉講式

このコースに参加した研修員から、以下のような感想が寄せられました。
・日本の環境影響評価の導入の歴史と課題から、環境影響評価の重要性を学ぶことができた。
・国際影響評価学会(IAIA16)に参加することで、他国の環境影響評価を学ぶ非常に良い機会となった。
・新石垣空港の視察により、事業実施時の周辺生態系への配慮の重要性に気づくことが出来た。
・日本の住民参加を学ぶことでその必要性に気づくことができたため、大変役にたった。

受託機関 :いであ株式会社、株式会社 Ides
担 当 : JICA東京 経済基盤開発・環境課 高垣 隆博 (2016年5月)