インドネシア 社会保険制度の確立に向けて──

インドネシア国別研修「社会保障制度強化」の最終日に行われたディスカッションの模様を取材しました。

日本の社会保障システムを学んで

労働省、BPJSほか関連機関のキーマンによるディスカッション

 インドネシア社会保障制度強化プロジェクトでは、JICAから専門家やセミナー講師をインドネシアに派遣し、日本の年金制度や社会保険制度、雇用保険制度について学ぶセミナーを開催しています。また、日本でも同様に研修を行い、社会保険事務所や年金事務所を視察するなどして、日本の社会保障システムの紹介を行ってきました。
 ここで学んだことを活かして、今後どのようにシステムを一本化していくか、そして加入率をどこまで増やせるかが焦点となります。
 インドネシアが掲げる社会保障制度の理念は、労働者が安心して働ける環境づくり、被保険者本人とその家族に対して安定的な保障を行うことでの経済成長、そして安定した社会保障制度のもとでの労働規律の改善と生産性の向上、この3つを柱としています。
 インドネシアは、人道的観点や社会的な公平性を保つため、全国民の強制加入を目指しています。政府は、支払能力がない人へのサポートや、保険料を徴収できない場合の損失や積み立て運用などの運営に関して、今後はよりコミットしていく方針を打ち出しています。
 インドネシアでは、政府のもとに公的法人団体があり、Distribution(社会保障に関する情報の拡散)、Education(教育)、Social Awareness(社会意識の向上)とAdvocacy(擁護)の4つの観点から情報収集、啓発活動やさまざまな指導を行っています。実際の登録、支払手続きなどのオペレーション業務を行うのはBPJS(労働者社会保障機関)であり、ここが日本年金機構のような役割を果たすことになります。このBPJSのメンバーがJICAの研修に参加し、日本の社会保険制度について学びました。

政府の強い公約と国民の理解や責任感がポイント

プロジェクトリーダーの高崎真一さん

終了式を終え、JICA職員たちと

 プロジェクトリーダーの高崎真一さんは、今後のスケジュールについて、「これまでBPJSに行ってきた研修をもとにしてパイロットプロジェクトを行い、事務組合制度や社労士制度の仕組みを検討していきたい」と話します。
 また、「社労士の認定機関や報奨金制度の構築を進め、中小企業の事業主もしっかりと取り込むシステムの確立を目指したい」とのことでした。
 今回の最終ディスカッションに参加したインドネシアの社会保障審議会のアフマド・アンショリ氏は、日本の印象について、「もともと日本とインドネシアは長い友好の歴史があり、インドネシアの人々は日本人に対して大変敬意をもっている」と話します。
 そして、「日本では多くの国民が年金に加入し、働くうえでも雇用保険という制度があることで安心して働けている。また、医療の面でもお年寄りがどの医療機関にかかっても治療費が非常に低く、それにも関わらず質の高い医療サービスを公平に受けることができると聞き、大変驚きました。それを可能にしているのは、日本独自の質の高い社会保障制度にありますが、それ以上に、政府の強いコミットメントと国民一人一人の理解や規則を守ろうとする責任感の強さが深く関係していると思います。インドネシアでも3年後に全国民が医療保険に加入できるよう取り組みを進めています。日本とインドネシアの国民性の違いもありますが、日本人の精神的な成熟度を今回の研修であらためて感じました」と、日本をとても高く評価していました。
 最終ディスカッションに参加した代表団がインドネシアに帰国したのち、さまざまなステークホルダーが参加するフォーカス・グループ・ディスカッションが開かれます。
 ここでは、政府関係者をはじめ、地方政府、労働者団体や事業者団体が集まり、新しい社会保障制度の基本的な枠組みを確認します。これをもとにして、2016年9月にはパイロットプロジェクトを始動する予定です。

JICA東京 人間開発課 定家 陽子、境 勝一郎 (2016年5月)