夢の実現のためにたゆまぬ努力を続ける女性リーダー —障害者能力強化研修の研修員に聞く—

【画像】今から31年前、ひとりの女の子がコロンビアの郊外で誕生した。「障害者権利条約実践のための障害者能力強化」研修コースに参加中のレイディーさん(Ms. HERRERA ESPINOSA Leidy Andrea)である。コロンビアパラリンピック委員会で働くレイディーさんは、全盲の視覚障害者であるが、同時にパラリンピック出場をめざすアスリートでもある。そんなレイディーさんに話を聞いた。

絶望から希望への転換

【画像】彼女が初めて視覚の異常を疑われたのは1歳半の時。とても活発な女の子であったがよく物にぶつかり、転倒した。しかしその時は医師からは何も診断が下されず、そのまま成長した。ところが、彼女が14歳の時、衰えていく視力について網膜色素変性症との診断が下された。遺伝性の病気で未だ治療法は確立されておらず、当時の彼女と両親はその診断を受け入れられずにいた。「目はまだ見えている。そんな診断は忘れてしまおう」というのが家族の本音だった。
しかし17歳で学校を卒業した時、現実と向き合わざるを得なくなった。ついにほとんど見えなくなったからだ。友人達が大学へ進学する中、彼女はひとり家に閉じこもってしまった。これまで成績はトップで学校でも多くの賞をもらってきたレイディーさん。パーフェクトをめざしてきた自分が視覚障害者になった。「他の人は自分をどんなふうに見るのだろう。」将来への不安、外に出ることの恐怖、自分のやりたいことができないことへの悔しさから、9ヶ月間誰とも話さずひとり家に閉じこもり、失望に耐え切れず食べ続けた。
そんな彼女を救ったのは近所の靴屋からの仕事の誘いだった。自分がいない間の店番をしてくれないかという小さな依頼だったが、ほんの数日から始まり1年半もの間続いた。「見えない自分でも誰かの役に立てる。」9ヶ月ぶりに外へ出て働いたレイディーさんは、そこで初めて自分の姿に気が付いた。家に閉じこもって食べ続けたせいで、体重は大幅に増えていた。「目が見えないことと姿がみすぼらしいことは違う」とレイディーさん。「あの子は見えないからやっぱりみすぼらしいのね、と他の人に思われたくなかった」という。
そこで始めたのがエクササイズだった。なんと15キロの減量に成功したのだ。誰もが羨むような引き締まった体型を手に入れたことは、大きな自信に繋がった。「今まで目が見えないことで何もできないと思っていた。自分で自分が可哀想な人だと思っていた。でもそれは大きな間違いだった。目が見えないことと何かができないことは違う」とレイディーさん。

新たなステップへ

大阪研修旅行中にエクササイズを披露

そして英語とフランス語の通訳になりたいとコロンビアの大学に入学した。すぐ下の妹の助けもあり学生生活を送ることはできたが、言語の学習は大変だった。多くの教師たちが絵やジェスチャーを使って言語を教えるため、視覚に障害のあるレイディーさんにとっては明らかに不利な状況だった。何人かの教師には無視をされ、英語を話すことさえもためらったという。
そんな時スウェーデンの大学への交換留学の話が舞い込んだ。現地では生きていくために英語を聴き、話さなければならない状況に陥ったが、その状況が彼女を変えた。絶体絶命に追い込まれることで語学力は格段に上がったのだ。また、障害のある人に対する周囲の配慮や態度も彼女を変えた。スウェーデンでは自分が主張をしなくても音声教材が提供され、通学や住まいのサポート等あらゆる面で配慮がなされた。「ここでは誰一人知り合いがいない。誰も目が見えないことを可哀想だとは思っていない」と初めて白い杖を使って一人で歩いてみることを決断した。
短期留学を終えコロンビアに戻った彼女だったが、外出への不安は常に付きまとった。ある程度の自信はついたが、やはり人に見られることは恐怖だったという。あるとき運動のためにプールへ行きたいと思った。しかし、連れて行ってくれる人はいない。意を決した彼女はついにコロンビアでも白い杖を使って一人で歩いてみることを決断したのだ。
こうして大学を卒業する前もう一つのチャンスが舞い込んだ。今度はカナダでフランス語を学ぶ機会を手に入れたのだ。スウェーデンの時とは違い、自分で依頼しなければ障害への配慮はなされなかった。しかも時にそれは有料のものもあり、苦戦を強いられた。幸いクラスメイトや理解ある教師に恵まれ、カナダでもフランス語を習得することができた。「なんでも整えられた環境は理想的だけれど、整っていないこと、自分で切り開くことは自分を成長させてくれるものだった」と振り返る。

障害者リーダーとしての新たな歩み

グラウンドゴルフに挑戦

大学卒業後、子供たちにフランス語を教える仕事に就くのと同時にパラリンピック委員会にも関わるようになり、スポーツの世界へと目覚めていった。「コロンビアには紛争で傷ついた多くの障害者がいる。彼らは自信を失い、かつての自分がそうだったように何もできないと思っている。だから自分はスポーツを通じて彼らの力になりたい。」
そんな時JICAコロンビア事務所で実施されたリーダー養成研修に参加した。「自分の障害を知り、他の人の障害を知り、多くの障害者がかつての自分のように家に閉じこもっていることを知った」と語る。そこでの出会いが契機となり今回の研修に参加した。

パイオニアとしての更なる努力と挑戦

【画像】そんなレイディーさんに今後の夢を聞いた。「見えないからできないことなんて一つもない。見えないからこそ人に見られる仕事に就きたい。そしていつもその信念を持って行動し、パイオニアとして道を切り開くことが、他の障害を持つ人たちの自信へと繋がる」と力強く語ってくれた。
将来はモデルか、コロンビア初の女子タンデム自転車選手としてパラリンピック出場をめざすという。アスリートとしての体型を維持するために、毎日1時間を超えるエクササイズを欠かさないという彼女の努力は続く。
「目が見えないからと言って自分で可能性を狭めないことが大事」とレイディーさん。今後の活躍に期待したい。

2017年9月28日 − 11月8日
「障害者権利条約の実践のための障害者リーダー能力強化」研修
ブータン、コロンビア、フィジー、レソト、モンゴル、ミャンマー、南アフリカ、タジキスタンより計8名参加



人間開発課 2017年11月