独自の「SDGs」で輝く~森の町、北海道下川町の挑戦~

国内外の深刻な自然災害が相次ぎ、環境と経済、社会の調和が求められている今、課題別研修「REDD+実施に向けた政策立案(行政幹部職員向け)(*)」)では、自治体独自の「SDGs」を制定し、持続可能な地域社会の実現に取り組んでいる北海道下川町の経験をオンラインで研修員に伝えました。研修員の感じたことは?

2021年10月11日

人口減が緩和、その理由は…

北海道の道北に位置する下川町。人口約3,200人。そのうち約4割は高齢者が占めています。今、面積の約9割を森林が占めるこの小さな町の取組みが注目されています。下川町は1901年に本州から初めての入植者が入り、60年代は約1.5万人まで人口が増えましたが、その後、鉱山の閉鎖、鉄道の廃止など様々な環境変化が生じ人口の減少に転じました。しかし、今、人口減の緩和が見られ、移住者が増え始めています。研修員たちの出身国でも、雇用機会の不足等から農村から首都や大都市への人口流出は広がっています。研修員たちは、この小さな町で人口減の緩和ができていることに高い関心を示しました。2018年、下川町は2030年における町のありたい姿を「下川版SDGs」としてまとめ、「SDGs未来都市」の宣言をしたことでも知られています。町の存続の危機を感じ、地域の回復力を目指し、持続的な森づくり、森林資源を余すことなく活用する産業育成、バイオマスエネルギーの導入など様々な取り組みを地道に重ねてきた成果が実を結びはじめているのです。

限界集落が再生

「下川版SDGs」について語る谷一之町長の動画を見る研修員・研修関係者

研修における下川町に関する内容としては、最初に約30分間の動画「下川町の循環型森林経営と町づくり」を研修員に視聴してもらいました。動画に出演した谷一之町長は、「下川版SDGs」について「子どもからお年寄りまで、町民の誰一人取り残さない町を作りたかったから」と熱く語りました。下川町では切り出された木は、丸太としてそのまま販売せず、大きさや状態に応じて様々な使い道を用意し、付加価値をつけていきます。太い良い木は建築用材、そのまま使えない木は炭などに。冬場はマイナス25度になることもある厳しい寒さの下川町。間伐材や端材を細かく砕いたチップを原料とする木質バイオマスによる熱供給の仕組みは、学校や役場等の施設運営面で、灯油に比べて大幅な経費の節減にもつながりました。また、この熱供給システムは、存続が危ぶまれた地域の再生にも一役買いました。暖房システムが整い冬場も快適に過ごせる高齢者用の集合住宅、そして町の雇用に繋がるシイタケ栽培所、民間企業の研究所等もできました。

60年1サイクルは長い?

下川町農林課主査森林づくり専門員の斎藤丈寛さん

この動画視聴の後、下川町農林課主査森林づくり専門員の斎藤丈寛さんが講義を行い、その後、研修員からの質問に応じました。下川町では森林産業に関わる多くが下川町以外の出身者です。持続的な森づくりが知られるようになり、移住者が増えてきたのです。埼玉県出身の斎藤さんもその一人で、約20年前に移住し、町の職員になりました。下川町では60年を1サイクルとした循環型森林経営を行っています。原木を切り出したら、また植える。間伐をしながら木を育て60年たったら伐採する。50ヘクタールずつ、そのサイクルが回るように計画的に山に手を入れてきました。研修員の一人から質問がありました。「60年とは長いですね。それでは生きているうちに成果が見られません。この仕事のモチベーションは何ですか?」。それに対し、斎藤さんはこう答えました。「下川町は1953年に当時、町の財政が1億円規模のなか8,800万円を投じて約1,200ヘクタールの国有林の払い下げを受け町有林として管理を開始しました。こうした先人たちのおかげで我々は今、この森から様々な恩恵を受けています。それをぜひ未来の世代のために繋げたいのです」。

木製の家具を選ぶ消費者に 

画面越しに質問をする研修員

多くの研修員から共感を得た下川町の取組みが森林環境教育でした。2007年から実施しており、未就学児から高校生までを対象にしています。子どもの成長に合わせ、また、学習指導要領の内容も反映しており授業の一環として行われます。未就学児は月1回森に遊びに行き、森を好きになってもらう。小学生は森林の動物、昆虫などへの関心を育む。中学生は炭焼き等の仕事体験。商業高校の生徒には木工製品の販売やビジネスについて考えてもらう機会を作っています。「将来的には下川町から出ていく子どものほうが多いのかもしれない。でも、どこに住んでいても自然に関する感性が豊かな大人になってほしい。例えば消費者として、木製とプラスティック、2種類の家具を購入する選択肢があったのなら、その商品の背景を考えて木製を選んでほしい。そうした賢い消費者になってほしいという町の思いがあるのです」。そんな斎藤さんの言葉に画面越しから多くの研修員がうなずいていました。「ぜひ自分たちも森林環境教育を取り入れたい。英語版の資料を共有してほしい」。そんな要望が複数の研修員から斎藤さんに寄せられました。(報告者:経済基盤開発・環境課 岩永有美子)

(*)<事業・研修概要>
研修名:「REDD+実施に向けた政策立案(行政幹部職員向け)」
実施期間:2021年9月27日~10月8日
参加国:カンボジア、カメルーン、エチオピア、パプアニューギニア、ソロモン
参加数:12名
研修委託先:公益財団法人国際緑化推進センター(JIFPRO)