長岡の醸造を世界に発信しよう!

日本海と山々に囲まれ、冬場は一面の雪景色となる新潟県長岡市は、日本有数の酒蔵数を誇ります。10月30日、地域の自然環境や資源を生かした産業、酒造りを留学生に紹介することを目的として「地域理解プログラム」を開催しました。

2021年11月4日

長岡のお酒の歴史を学ぶ 

 新潟県長岡市は、国内最長の信濃川が市の中央を流れ、日本海と山々に囲まれた自然豊かな地域です。長岡市は古くから「発酵・醸造のまち」として知られ、越後杜氏を輩出してきました。
 本プログラムは、長岡の日本酒を題材として、地域にある自然資源・気候・風土を生かしたモノづくり、高度な発酵技術を用いた日本酒の醸造技術を学ぶと共に、地域を代表する酒造会社の商品やマーケティングについても学ぶことを目的としたものです。10月30日、新潟県長岡市市民センターで開催し、JICAの留学生12名と長岡工業高等専門学校のタイ人留学生4名が参加しました*。オンラインを主としたセミナーでしたが、一部の長岡市在住の研修員は会場から参加しました。
 *アルコールに関する内容のプログラムであるため、伝統文化の継承として理解いただいた留学生を対象としました。

長岡市国際交流センター「地球広場」 羽賀 友信センター長

 冒頭、長岡市国際交流センター「地球広場」 羽賀 友信センター長より、長岡での日本酒発展の歴史について、信濃川氾濫による洪水を克服し湿地帯を改善することで良質なコメ栽培が出来るようになったことや冬場の農閑期に全国へ出稼ぎに行った杜氏集団の活躍等、元来厳しい気候・風土を住民の協働や逆境から立ち直るレジリエンスの心で乗り越えてきたことについてお話いただきました。

 留学生より「米百俵」精神や日本人の特徴について質問が上がり、羽賀氏より、講義内容と絡め、幕末期に旧体制側についた長岡藩は全てを失ったもののレジリエンスの心を持ち、食べ物(米)ではなく教育への投資を図ったことを指すとの説明があった他、稲作文化を背景とし日本人にとって協働作業は重要であり、自然災害が多い中で皆で参加し合意形成を図ることにより円滑に物事を進めてきたという点、紹介がありました。

お酒について学ぶ

酒造りに欠かせないコメづくりや酒蔵の様子(朝日酒造株式会社ご提供)

 続いて、「久保田」の銘柄で知られる朝日酒造株式会社 海外事業部 長本様によるプレゼンテーションです。酒造の歴史、麹作りやもろみ発酵といった日本酒独自の醸造過程、純米/吟醸酒の違いや酒エチケット、日本酒ブームの背景(日本食や日本文化の流行、日本政府の後押し等)、海外マーケティング状況について説明が行われました。醸造過程は動画による製造工程の紹介もあり、硬軟取り混ぜ、長期研修員が日本酒について深く理解を深める機会となりました。

 留学生より、厳冬期に日本酒醸造を行うことが出来る理由について質問が上がり、温度が低い方が雑菌が繁殖しづらく寧ろ醸造発酵には適していることについて説明がありました。その他、日本酒の保存方法やアフリカ市場進出可能性等多くの質問が寄せられましたが、朝日酒造海外販売チームより丁寧な説明がなされ、活発な意見交換となりました。

海外マーケティングを学ぶ  

長岡技術科学大学 准教授 ブライアン先生によるプレゼンテーション

 最後に、長岡技術科学大学准教授ブライアン ドライヤー先生による海外マーケティング、と題したプレゼンテーションです。外国人(米国人)の立場からブライアン先生がどのように日本酒と出会い魅力を感じたのかを伝えるとともに、「日本酒」を切り口として、産品の市場展開を図る際には産品に対する知識を身に着け、顧客の嗜好を把握することが必要であることや、様々な切り口での売り出し方があること(醸造工程や単位が尺貫法であるといったユニークさ、精米歩合や製法の違い、酒器や燗酒といった様々な楽しみ方等)が紹介されました。
 日本酒に馴染みの薄い留学生にとって、日本酒の多種多様な側面を知る良い機会となり、参加者からはぜひ酒蔵見学ツアーに参加したいとの声が上がりました。

地域の歴史、文化、特性を学び、共に考える    

 今回のプログラムは、長岡市から、日本酒の価値再考や国内外での今後の市場展開について、産官学連携(朝日酒造株式会社、市、大学・高等専門学校)で参加者と共に考えることで地域活性化に繋げたいとのご要望が上がり企画したものでしたが、まさに長岡市に関わりのある様々な立場の登壇者の長岡への想いが伝わってくる場となり長岡の歴史や魅力が溢れるプログラムとなりました。実施後、参加者からは、日本酒の発展・海外展開に触発され自国の伝統的産品を同様に輸出に繋げ雇用促進を図りたいといった声が上がっています。
 また、折しも2021年10月15日には「伝統的酒造り」が登録無形文化財に登録されました。参加者からは、日本で留学生活を送り日本人を知る上で食文化を把握することは重要との声が聞かれ、本プログラムを通じ、留学生に日本人の暮らしや文化に密着して発展してきた日本酒について、理解を深めて頂く機会となりました。
 今後も、このような地域理解プログラムを展開して行きたいと考えています。

報告者名:長期研修課 今沢 優子