【インタビュー】キルギス日本センター 前業務調整員・ 西川直子さん−現地職員と手を携えて新規事業を推進

2015年7月16日

7000m級の山々や美しい湖、豊かな水に恵まれ、「中央アジアのスイス」とも呼ばれるキルギス。その一方で、アクセスの悪さや埋蔵資源の少なさが成長への課題となっており、同じく資源の少ない日本のノウハウには強い期待を抱いています。2013年5月〜2015年6月まで、キルギス日本センターの業務調整員を務めた西川さんに、在任中の取り組みと、今後に向けたセンターの見通しを聞きました。

−キルギスでは「日本人とキルギス人は同じ先祖から分かれた」といわれていると聞きました。

インタビューに答える西川前業務調整員

書道などの日本伝統文化を伝えるのも、センターの相互理解促進事業の一活動

お約束の言い伝えですね。キルギス人は、日本人を歓迎する際に「知っているか、かつて私たちは兄弟で、肉が好きな人々は山に登ってキルギス人になり、魚が好きな人々は海に渡って日本人になったんだ」という話をすることで親近感を表現することがあります。

確かにキルギス人は日本人と外見や年功序列を重んじる伝統が似ており、親日国家です。キルギスは多民族国家でありキルギス人以外の民族も共存していますが、概して素朴で開放的な気質の人、あまり悪巧みはしない人が多く、付き合いやすい人々が多いです。

その一方で、ロシアと中国という二つの大国に挟まれ、両国の争いに翻弄されてきた小さな国でもあります。そのため、刹那主義というか、あまり長期的な将来の予定を立てず、今のこの時、この場を大切にする傾向があります。人口は550万人、若者が多く、これからも人口が増えていくことが期待されている国です。学生結婚をする若者もいるなど、比較的若い年齢で結婚し家庭を持つ人が多く、町ではいつも子どもを見かけます。また、女性が省庁などを中心に活躍していることも少なくありません。

−現地ではどのような仕事をなさっていたのですか?

業務調整員として、センターの運営・管理全般を担当していました。キルギスの日本センターには常勤の現地職員が12名、その他非常勤スタッフが10名以上いますが、センターの三本柱事業「ビジネスコース」「日本語コース」「相互理解促進事業」の各担当スタッフが、新しい取り組みにも積極的に取り組んでいます。かつて社会主義国家だった影響で、私の赴任当初は日本人専門家からの業務指示を待っている、若干消極的な姿勢が見られました。そのため2年間の任期中、現地職員の育成に力を入れました。

地元との交流はセンターの役割の一つ。5月にはさつき祭りが行われる

具体的には、キルギス日本センターの組織的自立を目指し、現地職員が、€'自分で業務目標を作ること、・業務目標をタスクに落とし込むこと、・タスクの達成度を自分で評価すること、を推進しました。その結果、職員は少しずつ自分で業務を工夫するようになり、例えば図書館の担当者がサービスの改善案を出すなど、積極的に自ら提案する人も出てきました。

キルギスでは、小さな行き違いやトラブルが原因で物事が予定通りに進まないことは日常茶飯事です。人々は、物事が予定通りに進まないことの責任を問うこと、謝罪を求めることもあまりせず、そういった寛容的なメンタリティーは、日本人と異なると感じます。とはいえ、予定通りにできないことを開き直って放置したり、手を抜いたりするわけではなく、できるだけ予定通りに物事が進むように努力は惜しみません。また、ぎりぎりのタイミングになっても人脈などのつながり、ネットワークを駆使して何とか解決してしまう、土壇場の才能、火事場の馬鹿力のようなものを持っています。

キルギス日本センターの現地スタッフは、素直で新しいことを積極的に学び取り組んでいく姿勢を持ち、スタッフ間で業務補完する協力体制ができあがっており、それが、センターの活動を円滑にしていく上での強みになっています。

−こうした現地スタッフの成長により、センターの業務に影響はありましたか?

ビジネスコースの様子

スタッフが積極的に取り組んでいるおかげで、センター全体の業務の幅も広がりました。ビジネスコースに関しては、従来の3ヶ月ミニMBAコースに企業から派遣される受講生が出てきており、キルギスの企業が人材育成の重要性を意識し始めた証拠ではないかと思います。女性の受講生も多く、今後、女性企業家の更なる活躍も期待されています。企業別オーダーメードも新規コースが増えています。また、新事業として隣国タジキスタンでの活動も始まりました。日本語コースに関しても、新コースがいくつも立ち上がっています。相互理解促進事業では、日本の大学生向けに夏期学生研修を開始しました。相互理解事業の一環として、3週間に亘ってロシア語・キルギス語とキルギスの文化を体験する異文化理解研修を2014年に実施し、2015年も9月に日本の大学生を受け入れる予定です。毎年恒例の日本留学フェアは参加大学に好評であり、2015年のフェアに参加を表明した大学数が増えました。こうした活動を通してセンターの収益は増大し、将来のセンター自立に向けて、財務状況の改善が進んでいます。

−キルギスの経済的な見通しは。

夏期異文化理解研修でキルギスの文化に親しむ学生たち

この国は自然が美しく、全土の9割を占める山や美しい湖など、魅力あふれる景観があることは、一部の登山家には知られています。しかし、観光立国を目指すにしても自然だけでは人を集めることはできません。旅行客に対するサービス業の質もあまり高いとはいえません。また、2005年と2010年に政変が起きた際にそうだったように、一旦政治的に不安定な状態になると、海外からの旅行客は激減し、観光業は打撃を受けます。海外だけでなく、国内や近隣国の富裕層向け観光業など内需を意識した産業発展も重要だと考えています。

更に、企業にとってはキルギス進出に不安要素があるのも事実です。隣国ウズベキスタンと比べて知名度が低く、アクセスが悪いことから輸出入のコストが高くなってしまうなどの壁もあります。一方、識字率は高く、考え方が柔軟で語学に長けていることから、ビジネスそのものの土壌としては決して悪くありません。特に縫製業については、優れた伝統があり、地方の女性が作る縫製製品には独特の風合いがあります。

−キルギス日本センターの、これからの役割は。

盆踊りは毎年恒例の行事となった

キルギス日本センターは、今年20周年を迎えました。キルギスでの日本ファンは着実に増えています。センターの業務の中では、日本語や日本文化に触れ合える毎月の文化行事はもちろん、ビジネスコースを通した日本的経営の普及も重要な役割です。

キルギス人と日本が触れ合う草の根レベルの地道な交流は、現地で高く評価されていると感じます。これからも「キルギスの中で日本を感じられる場所」として、継続的なサービスを続けていくことが大切だと考えています。