ビジネスフォローアップセミナーの開催

2019年6月3日

 2019年5月25日、経営塾(※1)の同窓会組織である経営塾クラブとベトナム日本人材開発インスティチュート(以下VJCC)の共催により、ビジネス・フォローアップ・セミナー(以下BFS)が開催されました。BFSとは、経営塾の修了生や現受講生が講師と共に修了生の企業を視察し、経営に関する情報共有や意見交換を通して学びを深める場です。

TOMECO社のロゴの下に飾られた銘板

経営塾からの認定書を手にするTOMECO社の皆さん

 今回のBFSは、経営塾第8期修了生のQuynh社長が1994年に設立したTOMECO社にて開催され、戸田講師をはじめとする約60名の経営塾関係者が参加されました。 

 まずはじめに、経営塾のロゴが刻まれた銘板の除幕式が行われました。この銘板は、年々高まる経営塾の知名度に伴い、日本式経営を学び、それを実践している証を示すために作成されました。日本式経営の実践に誇りを持ち、展示会等で使用し他企業との差別化を図ったり、日系企業にアピールしたりすることが期待できます。銘板を自社の看板として設置するのは、TOMECO社が4番目となります。銘板は、正面入り口に掛けられ、経営塾クラブ幹部と共に除幕され、皆で設置を祝いました。

 その後、TOMECO社についての概要説明が行われました。同社は、集塵機などの工業用製品の設計・製造を行う企業で、従業員は約8,000名にのぼります。ベトナム国内だけでなく欧米にも製品を輸出しており、世界市場の厳しい水準に応えられるよう、常に技術開発と品質改善を行っています。日本やアメリカから導入した検査機器で検査を行うなど品質を徹底しており、ISO規格である品質マネジメントシステム(ISO9001)を獲得しました。また、VJCCをはじめVCCI、JETRO、ハノイ工科大学などから協力を得ており、持続可能な製品を提供すること、世界各国の提供者となることを目指しています。

講演を行う戸田講師

講演の様子

 そして、JICA専門家の戸田講師による講演が行われました。戸田講師は、Panasonic(当時は松下電器)の初期時代から欧米における事業を統括され、幅広く活躍されてきました。現在はVJCCにて経営塾の講師として日本式経営を教えておられます。

 「米中貿易摩擦」をテーマに行われた本講演(※2)では、はじめに、近年世界情勢が著しく変化していることについて述べられました。グローバル化や科学技術の進化に代表されるパラダイム変化が絶えない世の中で、その変化に対応する経営を実践し、また経営者として正しいことを正しくタイミング良く対応するかが問われる。そして、米中貿易摩擦の根本原因は貿易不均衡にあるが、その背景として、Establishmentへの反発、将来が読めない不安、格差の拡大があるということを指摘されました。米中間では社会制度も含め基本的な違いがあり、原理原則の解決は難しいが、項目別、段階的な解決はあり得る、としながらも、中国は、共産党革命100周年となる2049年に覇権国家になる野望があり、そのために、国有企業を補助金で強化し、ハイテク分野を各種施策で強化することは譲歩しないであろうとの見解が示されました。

 また、世界情勢が大きく変化している現在、ベトナムには大きなチャンスがある一方、同時にリスクも伴っています。チャンスとは、米中貿易摩擦を機にチャイナプラスワンが加速し、拠点を中国からベトナムへ移す企業が増えること中国の対米輸出を代替すること、リスクとは、アメリカへの輸出が困難になった中国が対ベトナム投資、輸出を増やす可能性があること、などが挙げられました。その上で、ベトナム企業は、原材料供給国から脱皮し、原材料、部品から完成品まで一気通貫で製造し付加価値を取り込むべきだと指摘されました。

質疑応答の様子

 続く質疑応答や意見交換では、聴講者の「ベトナム企業を強くするためには」という質問に対し、戸田講師は「ヴィジョンと人材育成を柱に自社を強くし、そして経営塾クラブのコミュニティを育てることが必要。」、「お互いの企業実態をを把握してサプライチェーンの各局面で連携し、切磋琢磨して共存共栄してはどうか。」との助言をされました。また「得た収益の運用はどうあるべきか、ドル、ベトナムドン、それとも金に替えるべきか。」という問いに対しては、「新しい価値を創造する従業員教育、人材確保に力を入れるなど、人材に投資するべきだ。」との人材第一の経営塾の基本理念が示されました。

 今年は経営塾10周年にあたり、今後も月一回のペースでBFSの開催が予定されています。経営塾を卒業した企業が、BFSにより経営塾の繋がりを再認識し、情報共有などを通じて切磋琢磨し、ベトナム経済の発展を支えていくことが期待されます。


(※1)経営塾とは、ベトナムの企業経営者・幹部を対象に行われる日本式経営の研修。ベトナム産業界を牽引する経営者の育成を目的としており、月5日間の授業及び実践が約10か月にわたり行われます。2009年から始まった本プログラムはVJCCの看板事業でもあり、今年で10年目を迎えます。
(※2)戸田講師による本講演は、前日24日にも貿易大学にて行われ、講師や生徒をはじめとする約30名が聴講されました。

【画像】

戸田講師を囲んで記念撮影