チリ・国立サンティアゴ大学でのJICAチェア(JICA日本研究講座設立支援事業)講義終了

2021年8月13日

国際協力機構(JICA)と国立サンティアゴ大学との協力覚書(本年3月締結5ヶ年計画)に基づき、7月1日に開講した「日本の近代化を知る7章」の講義が8月13日(日本時間、チリ時間では前日12日)に終了しました。

初回のJICA北岡理事長による講義から始まり、第6章を除き6回の講義はそれぞれ、執筆された方々が登壇するという初めての試みとなり、参加した学生、教員、研究者、公的機関関係者、及び地方自治体関係者(登録者数140人)から好評を得て成功裏に終了することができました。

チリは、2018年にDACの途上国リストから外れましたが、1999年に日本とのパートナーシップ・プログラムを締結し、第三国への三角協力を進めるなど援助卒業国としての道を歩みだしています。日本とチリがより良いパートナーとなるためにも、チリのエリート育成の一環として本事業が一助となることを期待してます。

主な講義内容は次の通りです(日付は日本時間、チリ時間では-13の時差から前日の実施)。

第1章 7月1日(木) 講師:北岡 伸一・JICA理事長

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7月1日第1章北岡講師

「明治維新:日本の近代化の原点」

初回講義では、北岡理事長がチリと日本との関係、「日本の近代化を知る7章」を作成するに至った背景と意図、そして「明治維新の意味」について講演し、質疑応答では、事前講義を受けた受講者からの質問に丁寧に回答頂いた。JICAチェアの背景や目的を連続講座の最初に解説できたことは、大きなインパクトがあった。また、受講者や主催者にとっては、日本の近代化の導入でもあり核心部分の一つでもある第1章を講師と共に深堀できたことは、第2章以降の理解の促進に大きくつながる重要な機会となった。

第2章 7月8日(木) 講師:五百旗頭 薫・東京大学教授

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7月8日第2章五百旗頭講師

「政党政治の盛衰」

この講義で五百旗頭教授は、明治時代に始まる政党政治の進展、地方の利益となるインフラの充実、その過程での汚職や腐敗、その後の衰退と第2次世界大戦につながる軍部の台頭を概説し、受講者の質問の回答の一つでは、1990年代の政治改革のその後の影響、政権交代、経済成長の停滞と並行して団体や組織の弱体化などの最近の政治状況について簡潔に説明した。その他の回答の中で、軍事費を少なくし、格差是正の予算を拡大し、複数の政党が競争することにより汚職などの弊害を少なくすることの重要性についても強調した。また、政治改革の説明では、歴史は繰り返される傾向があり、歴史から学ばなければならない点について強調し、現在のチリの憲法改正を目指す変革についても言及した。

第3章 7月15日(木) 講師:田中 明彦・政策研究大学院大学学長

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7月15日第3章田中講師

「戦後日本の政治外交」

第3章の講義は、JICAの前理事長でもある田中学長が担当し、長い研究キャリアと政治学における豊富な知識に基づいて、日本の戦後の復興プロセス、象徴天皇制、日本の地政学的歴史、防衛費を抑えた政策モデルと経済発展、日本憲法第9条の議論、日本の安全保障のための日米関係の強化、1970年代後半までの経済政策と社会福祉政策、日本と東南アジアの国々との関係といった広範囲の質問に丁寧に回答した。国際協力における信頼関係の構築の重要性について強調した。

第4章 7月22日(木) 講師:伊丹 敬之・国際大学学長

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7月22日第4章伊丹講師

「経済成長と日本的経営」

第4章の講義は、企業戦略、ビジネス経済学、企業システムなどの分野で長い学術研究キャリアを持つ伊丹学長が担当し、日本企業の生産的発展と日本の経済成長の基本的な要因を強調した。そして、お金を中心とする伝統的な資本主義システムとは対照的に、人を中心とする日本の企業システムを指す「人本主義」の重要性を強調した。また、英語で講義が行われ、大学院プログラムのみを提供するユニークな国際大学の特徴についても説明し、同大学への応募を勧奨するとともに、受講者の一人が来年9月に大学院生として入学する予定であることも紹介した。

第5章 7月28日(水) 講師:萱島 信子・JICA理事

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7月28日第5章萱島講師

「日本の近代化と教育」

本講義では、日本の教育の歴史に造詣の深い萱島JICA理事が担当し、日本の教育システムの進化と近代化のプロセスの歴史を概説し、この教育システムが、日本の人的資本の発展に影響を与え、日本の高度経済成長の基本的な一因となったことを説明した。受講者の質問に対する回答の中で、性別を問わず全ての児童、生徒、学生に対する普遍的な教育を達成するために日本が実施した努力、戦前、戦後の文化的背景の中での女性の教育目的の変遷、知識・道徳・体育を含めた日本の教育モデルの特徴、障害者及び特別なニーズを持つ子供たちへの教育などについて言及し、今後、創造的でリーダーシップを持ったイノベーション・スキルを持つ人材を生み出すための教育システムの見直しの重要性を強調した。

第6章 8月5日(木) 講師:César Ross サンティアゴ大学教授・副学長、及びRodrigo Alvarez教授

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8月5日第6章Alvarez講師

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8月5日第6章Ross講師

「『アジアと日本』から『アジアの中の日本』へ」

第6章の講義は、本JICAチェア主催者であるサンティアゴ大学のRoss副学長とAlvarez教授が担当した。日本とASEAN諸国との経済・貿易・政治関係の進展、米国及び中国との外交政策のバランス、1977年の福田ドクトリンに基づく東南アジアへの外交政策、ASEAN諸国と中国に対する日本の直接投資、日本にとってのアジア地域の重要性、1997年のアジア通貨危機、中国経済の成長と日本経済の減速について説明した。COVID-19による深刻な財政赤字は人民元に対する脆弱性を生み出す可能性があるが、それに対処する外交政策の重要性を強調するとともに、チリにとってもアジアに対して展開する日本の外交が参考になることに言及があった。

第7章 8月13日(金) 講師:加藤 宏・国際大学教授

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8月13日第7章加藤講師

「日本の国際協力」

最後の章となる本講義は、元JICA研究所長である加藤国際大学教授が担当した。日本のODAの特徴が、人材育成、インフラ整備、制度開発であり、その基礎は、国際協力にアプローチする際の基本的な柱である、誰も置き去りにしない人間の安全保障であることを説明した。この特徴は、国連の持続可能な開発目標SDGsと強い親和性を持ち、日本は、東南アジア諸国に対する協力のように、受益国と共同で実施し、信頼関係と安全保障を構築することに努力してきた点、日本は現在、広範で無限の可能性につながる協力のために様々な関係者取り込む官民連携を推進している点、協力実施と何が日本の国際貢献となるか明確にするために、日本国民の承認を得ることが重要である点に言及した。更に、チリにおける協力の経験を共有し、例として、地域の国々と知見を共有して目覚ましい発展を持つチリとの三角協力であるキズナプロジェクトを挙げた。

以上で、各講師がその専門分野から日本の発展と近代化に関する知識を共有する「日本の近代化を知る7章」の講義が成功裏に終了しました。来年は、7つの講義のいくつかに関する修了書または大学院の学位を提供し、日本の知識を共有しチリの発展に貢献することが期待されます。