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プログラム概要

コンゴ民主共和国における職業訓練の重要性

コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)では失業率が8.9パーセントながら、不完全就業者(注1)が81.7パーセントと推定されています。また、失業は特に都市部、若年層に集中しており、都市部の治安悪化の一因になっています。一方で、コンゴ民主共和国の東部地域では、今なお紛争により大量の国内避難民及び除隊兵士が発生しており、同地域の安定化に向けて彼らの自立及び社会復帰支援が喫緊の課題となっています。このような環境においてコンゴでは職業訓練を通じた能力開発及び雇用促進支援が政府の重要課題となっています。

また日本政府も、上記状況を踏まえ職業訓練分野の支援を対コンゴ支援の重点課題として位置付けています。

注1 「不完全就業」:就業はしているが、仕事の量が著しく少ないためなどの理由で低収入に甘んじている状態。半失業。(広辞苑より)

「国立職業訓練校(INPP)」について

コンゴの職業訓練を担う機関の一つに「国立職業訓練校(Institut National de Preparation Professionnelle)」(以下、INPP)があります。INPPは1964年に労働力強化を目的に設立され、現在では全国11州に訓練施設を持つコンゴ国内最大規模の職業訓練機関です。現在では、年に約25,000名(2011年実績)の訓練修了生を労働市場に輩出しており、その数はここ数年で急激に伸びてきています。

INPPは首都キンシャサ市に本部(Direction General)を置き、全国に約20か所(注2)の訓練校を持っています。INPPの訓練校の中で最も大きいのがキンシャサ校(Direction Provinciale de Kinshasa)です。キンシャサ校には、技術(訓練)部門として、電気学科、電子学科、自動車学科、機械学科、板金・溶接学科、冷凍・空調学科、建築土木学科、縫製コース、ホテル・レストランコース、美容コース、事務コースがあります。職員は全員で約200人、その内の約150人が指導員です(2010年現在)。

なお、INPPは国家からの予算に加えて、企業からの分担金を主な資金源としています。コンゴで活動を行う企業は、企業形態・従業員数に応じて人件費の1〜3%を分担金としてINPPへ納付することが義務付けられており、この分担金により、INPPは企業で働く従業員に対する在職者訓練を実施しています。

注2 2012年現在。地方校(Direction Provinciale)の他、規模の小さい支部(「antenne」や「Liaison」)も含める。

INPPが抱える課題

INPPは、コンゴの職業訓練において重要な役割を担っていますが、以下のような課題を抱えています。

  • 若手指導員の必要知識・技術が不足
    内戦中後に指導員が大量採用されましたが、適切な指導員養成及び再研修が行われていなかったため、若手指導員の中には指導員として必要な知識・技術を十分に備えていない者が少なくありません。ベテラン指導員が高齢化する中、後継人材の育成が急務となっています。
  • 施設の老朽化など
    INPPの訓練校においては、窓ガラスが割れていたり、天井が落ちかけていたりと、建物の老朽化も進んでいます。また、訓練生や訓練コースの増加に伴い、その都度増改築が繰り返されており、その結果、教室に訓練の実施に必要な十分なスペースが確保されていない、照度や遮音性が確保されていないといった問題が生じています。
  • 機材の老朽化、教材の不足
    職業訓練においては、理論に加えて、特に技術を習得するための実践・実習が重要であり、その意味では、訓練機材・教材の有無・稼働状況が職業訓練の質を左右すると言っても過言ではありません。INPPで現在使用されている機材の多くは、かつて日本を含む外国からの援助で提供されたものがほとんどで、適切な維持管理の上に活用はなされているものの、全体的に老朽化しており、修理不可能な故障や、部品の不足によって一部十分に稼働していない状況にあります。また、測定具や工具を始めとする基本的な教材は大幅に不足しています。
  • 未熟な訓練運営能力
    企業からの委託により限定的に実施する在職者訓練が多く、また各訓練コースの定員を定めていないこともあり、受入能力を超えた訓練生の受講、統一的なカリキュラムの不足など、職業訓練校として効率的・効果的に実施されるための訓練運営能力も十分とはいません。
  • 産業界のニーズと訓練内容の不一致
    上記の課題に加えて、技術革新にともない変化する企業のニーズを汲み取ることを十分に行ってきていなかったため、INPPが提供する訓練内容が産業界のニーズに応えられていないことが指摘されています。実際に、INPPの職業訓練に対する企業の満足度は高くなく、訓練修了後に企業に難なく就職できる訓練生は少ない、という状況にありました。

日本とINPPの関係

日本とINPPとの協力の歴史は、1980年代に遡ります。日本は、コンゴが「ザイール」と呼ばれていた頃に、専門家派遣、機材供与、研修員受入を通してINPPに対する技術協力を行っていました。しかしながら、90年代に内戦が勃発し治安が悪化したことに伴い、日本のINPPに対する援助は途絶えました。

その後、2004年以降民主化プロセスの道筋が示され、平和の定着に向けた取り組みが進められる中、INPPへの協力再開に向けた動きが進められました。協力再開の検討を進める中で、INPPは内戦による空白の20年を経た中でも、過去に日本人専門家から指導を受けた指導員の多くがINPPの幹部になって、かつて指導を受けた理念を引き継いでいること、また日本から供与された機材を適切に維持管理して今なお訓練で有効活用しているなど、日本の支援が根付く職業訓練機関ということが確認されました。このような経緯をうけて、INPPに対する協力再開が決断されました。

協力の再開にあたり、JICAは2008年に「職業訓練局支援計画フォローアップ協力」を実施し、INPPの現状調査、および自動車、電気、電子、冷凍・空調学科に対する機材供与を行いました。そして、2009年9月には、これを包括的な協力へと発展させるべく「職業訓練プログラム協力準備調査」を実施し、1)指導員の指導技術強化を目的とする技術協力プロジェクト、2)INPPキンシャサ校の施設・機材の整備を行う無償資金協力、3)INPP本部の能力強化を目的とした個別専門家派遣を組み合わせた「職業訓練プログラム」がINPPと合意されました。

JICA協力プログラム「職業訓練プログラム」

上述の通り、現在JICAは、「INPPが産業界のニーズに合致した質の高い職業訓練を提供する」ことをプログラム目標に掲げ、以下の事業を実施しています。

1)技術協力プロジェクト「国立職業訓練機構能力強化プロジェクト」
2)無償資金協力「カタンガ州ルブンバシ市国立職業訓練校整備計画」

また、長期的には、INPPがコンゴ国内のみならず、中部アフリカ地域の職業訓練分野における中核拠点になることを目指しています。