東ティモールに対する日本の支援

2019年6月24日

樋口 洋平

1.東ティモール概要

在東ティモール大使館にて専門調査員として約3年間業務に従事する中で、大きく開発協力(いわゆるODA)業務と経済業務の2つを担当させていただいたのですが、今回は東ティモールの経済発展において日本がどのような役割を担ってきたか簡単にご紹介させていただきます。

2002年に独立を回復した東ティモールは、近海で採掘されている石油と天然ガスを原資とする石油基金と他国からの支援を受けて大きく発展してきており、世界銀行によると、2017年のGDPは約30億ドルとなっており、2002年の約6倍となっています。また、道路や電気などの基礎インフラも少しずつではありますが改善してきており、総じて国民の生活は向上しています。加えて、2015年に実施された国勢調査では、約118万人の国民のうち50%以上が20歳以下となっており、今後多くの労働人口が確保可能であるなど、経済発展において前向きな材料がみられます。

2.発展における課題

他方で、経済発展に向けての課題も多く、東ティモール政府としては抜本的な取り組みが必要でもあります。まず、東ティモールの経済発展は、石油基金からの繰り入れによって成り立っている政府予算からの財政出動を推進力として発展してきており、特に都市部では政府歳出に頼った経済構造が形成されています。その証拠に、2017年及び2018年に同国の国会にあたる国民議会議員選挙と大統領選挙等により、政府歳出の執行が停滞した際には経済成長が減速し、商店の閉店や建設会社が倒産する等の影響があったと聞いております。

次に、国民の教育水準が低いこともあり、人材育成の時間がかかることが挙げられます。24年間にわたる紛争によって30代より上の世代では適切な教育を受けることができなかった国民も多い一方で、独立後も学校の教室といったハードの不足と教育の質といったソフトの両方において課題が残っています。その結果、単純労働者としての人材は豊富にある一方で、高いスキルを身に着けた管理職となる人材の不足が顕著にみられます。

3点目に、豊富な労働人口をどのように組み込んで育てていくのかという点も課題です。2015年の国勢調査結果によると、2015年以降の5年間で労働人口(15歳以上64歳以下の人口)に15万人が流入してくることがわかります。一方、国内で毎年創出されている雇用機会は多くはなく、今後豊富な労働力が流入するにあたり産業の育成が課題の一つとなっています。しかし、同国では、現時点で国内に産業と呼べるようなものはありません。国民の70%が従事しているといわれる農業もほとんどは零細農業であり、家庭で消費する程度の農作物を作り、余剰分を市場で販売している程度です。また、主要輸出産品であるコーヒー栽培も国土の一部で栽培されているのみであり、かつ、木の老齢化が進んでおり生産性が低下していることから、主要産業として育てていくには大きなテコ入れが必要です。

最後に、国家の収入をどこから得ていくのかという点も今後考えていくべき課題です。同国は近海で採掘される資源から得られる収入を原資として石油基金の運用を行っています。当初の計画では運用で得られた利益相当の金額のみを政府予算として利用することで半永久的に利用できる資産となるはずでしたが、近年は運用益以上の金額を基金から支出しています。また、現在採掘及び生産しているガス田の採掘が2022年前後には採掘を終えることになっており、今後基金への収入が途絶えてしまうのではないかといわれています。

3.日本の取り組み

上で述べたような課題は東ティモール政府も認識しており、人材育成のために積極的に職業訓練を実施したり、海外への留学を促進したりして人材の育成を進めています。また、天然資源以外からの収入を得るべく、外資の誘致や国内企業が発展しやすい環境を整えるため、道路や港といった基礎インフラを整備し経済の活性化を進め国内からの税収を増にも取り組んでいます。

一方で日本はどのような支援を実施してきているのかというと、実は、日本は1999年以来支援を継続してきており、これまでに交通インフラの整備等や日本人の専門家を派遣しての人材育成等を進めています。近年は首都ディリにおける橋梁の建設、港の整備、給水施設の整備等を実施してきており、基礎インフラが整うことで経済活動が活発になり産業発展の基礎作りに貢献しています。さらに、インフラ建設関連の事業においては東ティモール国内の大学から積極的にインターンシップを受け入れたり、重機の操縦訓練を行ったり等、インフラ整備と人材育成の両方を支援してきています。青年海外協力隊の派遣も行われており、これまでに100人超の隊員が派遣され、首都や地方都市にて現地の方と協力して人々の生計の向上に取り組まれています。

最後になりますが、個人として3年間に及ぶ大使館員勤務の中ではできることは限られていましたが、地方の開発のため現地や日本のNGOの方々の協力を得て行った給水施設の建設や学校建設、医療や農業技術の支援等が今後の東ティモールの方々の生計向上に寄与することを望んでいます。

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