東ティモールの都市給水支援

2019年7月30日

櫻井 俊彰(JICA専門家、千葉県企業局)

1.給水改善アドバイザーの概要

日本政府による東ティモールへの都市給水(都市における給水のこと)支援は独立以前の2000年から実施されており、ディリを含む複数の都市区域で、取水施設や浄水場、井戸施設の新設やリハビリ、及び管路の新設や補修などハード面の支援の他、ソフトコンポーネントによるトレーニングや能力向上プロジェクトなどのソフト面の支援も手厚く行われてきました。

それにも関わらず、東ティモールの給水状況は十分に改善されたとは言えず、むしろ、人口増加や都市発展に起因する水需要の増加、違法接続等の違法行為の横行による施設の損傷、水道局(DNSA)の能力不足による不十分な運営・維持管理などにより、浄水場が適切に運営されていない、損傷した施設が放置されている、2~5時間の時間給水のエリアが多く、また水が全く来ない無給水のエリアも存在するなど、状況は酷くなる一方でした。

このため、2012年から個別専門家として給水改善アドバイザーが派遣されており、重要課題の分析やパイロットプロジェクトの実施、能力向上などを通して給水改善に向けた支援を実施しており、私はその3代目として2017年8月から2019年8月の2年間にわたり活動を行ってきました。

2.ディリにおける都市給水の課題

ディリにおける都市給水の最も大きな課題は「無効水」です。無効水とは漏水などにより水が有効に使われていない水のこと、つまり、無駄になっている水のことです。DNSAが設定した東ティモールのひと一人が1日に必要な水の量は120L(日本ではざっくり300L程度)ですが、これは、蛇口を全開にして0.2L/秒で水を流すと、たったの10分で消費される量になります。

ところが、東ティモールでは違法接続などにより蛇口がそもそもなく、常時、水が管路から直接垂れ流しになっている場所が少なくありません。もし垂れ流し状態で24時間水を流しておいた場合、1日で17,280Lになり、ひと一人が必要な量(120L)の144倍の水を消費していることになります。それに加え、小規模大規模含めた管路の漏水箇所の放置や、停電やポンプの故障などによる浄水場・井戸施設の断続的な稼働停止などもあり、時間給水や無給水というのが当たり前の状況となってしまいました。その給水状況の悪さが更に違法接続等の違法行為に拍車を掛けるという悪循環となっています。この結果、DNSAは水質を無視して浄水処理を施していない原水の直接配水や、浄水とのブレンド配水を行ったり(水道水からオタマジャクシが出たという話を聞きます)、更には排水されている雨水を配水管に繋いで水量を確保したりしています。また、水道料金は支払いシステムの不便さもあり、未払い率(いわゆる無収水、NRW:Non Revenue Water)は98.8%(2016年時、DNSAの資料による)というほぼ誰も払っていないという圧倒的な高さとなっています。

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違法行為により滝と化した漏水

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畑に向けて垂流し続ける水

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雨水側溝水の配水

3.活動内容

ベモスパイロットプロジェクト

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管に穴を空けホースを突っ込む住人

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給水ポンプで水を汲み上げる住民

ここでは私が2018年に実施したベモスプロジェクトについてご説明します。このプロジェクトは、ベモス浄水場から水が配水されることになっている直下のエリア(ディリ市内のLisbutac、Mundo Perdido、Lemcariと呼ばれる地域、ここではベモスエリアと呼ぶ)に住む約600世帯(2018年1月末時点のディリ全域の給水家屋数は約14,000世帯)に対し、ブロック給水と呼ばれる手法を用いて給水改善するプロジェクトになります。ブロック給水は、2015年に実施したベナマウクプロジェクトにより給水改善に有効であると確認されており、バルブ等でエリアを分割(ブロック化)し、水の流れをエリア内に留める手法になります。

当初、ベモスエリアでは、2016年に実施したDNSAのリハビリプロジェクトの甲斐もなく、その後の2年弱の間、半分ほどのエリアで水が全く出てこない無給水の状態となっていました。住民は長期の断水に苦しみ、給水管を分解する、配水管に穴を空ける、給水ポンプで管内の水を汲み上げるなどの違法行為が横行していました。違法行為が更に給水状況を悪くするという悪循環に陥っていましたが、違法行為を止めなさいとはとても言える状況ではなく、むしろ、住民は高額な水を民間企業から購入せざるを得ない、DNSAは何もしてくれないと非常に強い不満を抱いておりました。

DNSAのリハビリはこのエリアへのバイパス管路の布設、漏水修理及び全戸宅へのメーター設置でした。それにも関わらず、給水状況が改善されなかった理由は、標高の低い地域に殆どの水が流れてしまい、標高の高いベモスエリアでは水が留まることが出来ていないためでした。違法行為はディリ全域で蔓延しており、その結果、標高が低いなど条件の良い地域では水が良く出て、標高が高いなど条件の悪い地域では水が出ないという状況になっていたのです。

そのため、ブロック給水の手法により、バルブを設置するなどにより給水エリアのブロック化を行いました。現場レベルでは、管路の位置を示した管網図の精度が不十分で、職員の記憶もいい加減だったため、水が標高の低いエリアに流れ抜けている管路の特定に大変苦労しましたが、最終的にはブロック化に成功し、ベモスエリアにも水が確保されるようになりました。

水が来るようになって住民は喜んでくれましたが、次に、エリアの人々は水を無駄使いし始めました。ベモスエリアで水の無駄使いがあると、プロジェクト外のエリアに影響を与えるため、節水に向けた活動を行いました。具体的には、全戸宅へのバルブの設置及び啓発活動、漏水修理と流量調整による水圧の調整を行いました。

最終的に、無給水のエリアは1日5~6時間給水、一部エリアでは24時間給水が実現するなど、大きな成果が得られました。このプロジェクトの教訓はDNSAとも共有し、必要なノウハウは後述のトレーニングプログラムで技術移転を行いました。

2019年8月現在、DNSAは大規模なタスクフォースチームを結成し、各戸へのメーター設置及びディリ全域の漏水修理を実施しています。ベモスプロジェクトを通して得られた知見も活かし、無駄になっている無効水の削減及び給水改善に向けて日々頑張ってくれています。

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流量調整のためのバルブの設置

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各戸宅との対話

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タスクフォースとして活動するDNSA

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水が来て喜ぶプロジェクトエリアの子どもたち

トレーニングプログラム

  • 短期専門家を活用した浄水場の運転・水質・維持管理研修
  • 第三国(インドネシア)を活用した配水管路研修
  • 水道施設の設計研修(マッピング含む)
  • 配水管路の管路特定・漏水管理研修

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浄水場で使用するポンプの修繕研修

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インドネシアでの配水管路研修

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水道施設の設計研修

その他の活動

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UNTL大学へのプレゼン

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国会議員へのプレゼン

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公共事業省大臣へのプレゼン

2年間を振り返って

東ティモールで2年間、都市給水を支援してきました。日本では水道局員として働いていますが、24時間365日、水が出ることが当たり前の日本に対して、東ティモールではそれがこれほどに困難なことかと強く思い知りました。日本でも高度成長期に布設した水道インフラが一斉に寿命を迎え、難しい舵取りの時代が来ます。

-いつでもそこに飲み水がある-

私は日本の水道局員に戻り、日本で当たり前の日常をこれからも変わりなく維持し続けるとともに、東ティモールでもその当たり前がいつの日か来るよう、日本から末永く見守っていきたいと思います。

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DNSA職員と筆者(左端)