日本の魅力を発信する 大使館広報・文化班長として

2019年8月10日

田坂尚子

2016年7月から2019年7月までの3年間にわたり在東ティモール日本国大使館広報・文化班で勤務しました。広報・文化班での職務の一つに、日本の魅力発信や日本文化の紹介があります。東ティモール人にとって「日本」とは、「発展」「勤勉」や自動車やバイクのメーカを挙げる人が多く、文化面では五輪真弓さんの「心の友」という楽曲が有名です(恥ずかしながら、私は東ティモールで初めてこの曲を聴きました)。また、「ナルト」や「ドラえもん」などの漫画やアニメを挙げる若者も多いのですが、現在東ティモールでは日本の書籍やビデオ等の入手も困難で、TVのチャンネル数も少なくメディア等で取り上げられる機会も多くありません。そのため、日本のポップカルチャーの知名度も高くなく、日本文化等に触れる機会はあまりありません。そんな中で、大使館から日本文化紹介や日本の魅力を発信する役割は大変大きいと思います。

日本大使館からの東ティモールに対する日本の魅力の発信の取り組みとして、例えば、1)Facebookやホームページ等での情報発信、2)日本文化紹介イベント等の実施、3)JENESYSプログラム(対日理解促進プログラム)等や国費留学生等の送り出しを通じた人物交流事業、4)日本語教育機関支援等があります。

1.Facebook等での情報発信

まず、東ティモールで、特にディリの若者にとって、Facebookは重要な情報ツールになっています。彼らはFacebookから情報を得、また自ら発信もします。その情報は、政治、事件事故、イベント情報から個人の近況まで種類も多岐にわたり、また情報入手の早さや拡散の量などに驚くことも多くあります。SNSであるため情報の信ぴょう性等には慎重になる必要もありますが、TVや新聞等のマスメディアでの情報量が限られていることもあり、東ティモールではFacebook等のSNSが情報共有手段として大変有効となっています。また若者のFacebookでの友達数が1000人を超えることも珍しくないようです。他のSNSツールであるTwitterやInstagram等と比べてもFacebookの利用者は非常に多い印象です。そこで、日本政府の東ティモール政府に対する経済協力支援活動等も含め日本大使館からの様々な情報発信にもホームページに加え、Facebookを積極的に活用しています。在東ティモール日本大使館のFacebookページのフォロワー数も増加し、多くの東ティモールの人々また当国に関わる人々と繋がることができました。

2.日本文化紹介イベント等の実施

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浴衣姿の東ティモールの子どもたち

東ティモールは、人口約120万で在留邦人が120人ほどと日本人コミュニティーも小さく、当地で日本文化にふれる機会も少ないため日本で活躍するオペラ歌手のコンサートや、日本映画上映会、柔道デモンストレーション等の日本紹介イベントは、多くの人々に楽しんでもらえました。東ティモールの人たちは、音楽好きで、ダンス好きです。イベントでは在留邦人の方々からの協力も大きな助けとなり、活動中の青年海外協力隊員等の協力を得て様々な機会で披露した「YOSAKOIソーラン」では会場が盛り上がります。文化紹介・体験イベントでは、シャイな東ティモールの人たちも、はじめは遠巻きに見ていますが、次第にうちとけ、子ども達だけでなく、若者の浴衣の試着希望者も大変多かったのが印象的でした。また好奇心旺盛な子ども達は、折り紙、書道体験等にも熱心に取り組んでいました。

東ティモールには図書館、美術館、博物館等の文化的施設もほとんどありません。子どもの頃の経験は大人以上に大きな意味を持つため、子ども達には、日本文化に触れることのみならず、自国の文化を含め様々な文化を知る環境が今後もっと整えば良いと思います。

付け加えれば、当国での子ども達への教育環境は十分というものからは程遠いと思います。教室不足等により、一日の授業時間数は2~3時間のみで、学校の施設・設備も整備されておらず、教科書や教員、言語問題等の課題もあり、毎日学校に通う子ども達は十分な教育を受けることができていません。私自身も教育分野においてもう少し取り組めることがあったのではないかと考えていますが、今後、東ティモールの子どもたちが、将来を切り開くことができる力を育む教育を受けられる環境が整えば、と切に願います。

3.人物交流

日本の外交政策や魅力発信のための「JENESYSプログラム(21世紀東アジア青少年大交流計画)」では、若者を東ティモールから日本に招へいし、また日本から東ティモールに派遣しています。同プログラムでの東ティモールからの招へい者は既に1,000人を超えています。約10日間のこのプログラムでは、様々な体験・交流や施設見学等を行います。日本から帰国後の参加者から声を聞く機会がありますが、日本人の礼儀正しさや、時間規律、また公共の場の清潔さなどが特に印象深いようです。また、東ティモールと日本の大きな違いに驚きつつも今後の自身および自国発展のヒントを得た、と話す参加者も多くいます。ホームステイでは、ステイ先の家族と涙で別れを惜しむ参加者も少なくありません。東ティモールの人たちとの交流は、受け入れる日本側でもたくさんの気づきがあったのではないかと思います。JENESYS参加者による組織「JENESYS Alumni Timor-Leste」も一昨年に設立され、環境活動などの企画・実行を精力的に行っています。日本で、また東ティモールで多くの草の根レベルのつながりも生まれました。国民の約74%が35歳以下と言われ、加えて外国旅行など未だ一般的ではない東ティモールにおいてこのような若者を対象とした交流プログラムが持つ意義は大きいと感じます。

4.日本語教育機関支援

東ティモールでは日本語学習ブームが起こっているのでは?と思うくらい「日本語がアツい!」と感じます。これまで2つしかなかった日本語教育機関は、2019年の6月時点では、把握できているだけですが、4機関となりました。学習者は大変熱心です。しかし、日本のような学習設備は整っておらず、DVDやCDプレイヤー等の視聴覚機器のない教室もあります。先に触れましたが、日本語の教材等の書籍を取り扱う書店もなければ図書館もありません。また、インターネットの接続料金が一般的には高額で速度も速くないため、オンライン学習もままなりません。日本大使館では国際交流基金と協力して日本から教材等を送る等の助成を送っていますがまだまだ十分ではありません。そんな中、昨年は東ティモール初の日本語スピーチコンテストも開くことができました。多くはありませんが、日本語が大変堪能な東ティモール人の日本留学経験者等や熱心な日本語学習者もおり今後の日本語学習者の広がりも楽しみです。

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第一回日本語スピーチコンテスト受賞者

おわりに

広報・文化担当の職責とは、日本の魅力を発信すること、また、様々な形を通じて日本と東ティモールの縁を「つなぐ」事だったのではないかと思います。3年間の職務を通じ、国同士だけでなく、人と人を「つなぐ」一助となることができたとしたら幸せです。また、私自身3年の任期を無事務めることができたのも、日・東ティモール両国の多くの方との「つながり」があったからだと感謝しています。

振り返れば、日々の業務に追われてあっという間でしたが、東ティモールで生活して改めて気づいたことも多くあります。東ティモールの人たちののんびりした国民性に時に歯がゆい思いを覚えることもありましたが、JENESYSプログラムに参加したある東ティモール人が「日本人は時刻表に管理されて生活しているようだった。」と話した言葉が印象に残っています。私たち日本人はあまりに計画や時間を守ることに縛られ、その真の目的、すなわち何のためにそれを行っているかを時に見失ってしまっている気がします。特に、最近の日本社会には、東ティモールのようなおおらかさと寛容さが欠けているのではないか、とディリでの生活を通じて感じることもありました。私自身もおおらかさと寛容さを忘れず、これからも東ティモールでのつながりを大切にしていきたいと思います。

今後も日本と東ティモールの「つながり」がますます深まることを願っています。