2019年12月10日
株式会社Ides
松浦 榮一
東ティモール民主共和国の首都に位置するディリ港は、日本により種々の改善計画が実施され、唯一の国際港湾と機能してきました。
近年の経済活動の拡大により取扱貨物量が右肩上がりで増大し、外貿貨物等の取扱い対応をする新港をディリの西に位置するティバールに建設中です。ティバール新港開港後は、ディリ港は「旅客専用港」として機能させる計画です。
このような背景から、東ティモール政府はディリ港での貨物と旅客の動線の輻輳解消や将来の旅客専用港としてのディリ港拡張の基盤を作ることを目的に日本に対し、2013年11月に無償資金協力「ディリ港フェリーターミナル緊急移設計画」(以下、「本プロジェクト」という)を要請しました。
本プロジェクトの計画地は厳しい海底地形条件に加え、隣接する桟橋の稼働を妨げないなど工事実施上の課題が多く難工事が想定されましたが、関係諸機関等の支援により、2019年10月末に予定通り無事故で完工することが出来ました。この機会に本プロジェクトが無事故で完工するための工夫と、今後の本プロジェクトがもたらす効果について、共有したいと思います。
計画予定地に堆積した砂を除去するため、その原因となる擁壁を撤去し、桟橋及びプラットフォームは杭形式の透過構造とし、先端位置は漂砂移動を阻害しない配慮をしました。
計画地の沖合はすぐに海底が急激に落ち込んでいる海域であり、異常気象時に衝撃砕波が発生することがある可能性を考慮し、プラットフォーム上のコンクリート床板を厚くし、その自重により衝撃砕波に対応することとしました。
フェリーターミナルの24時間稼働を実現するためには、海の潮位に対応することが課題でした。ディリ港では、潮位差が最大で約2.8mあるため、桟橋のランプが固定していると、潮位の状況によっては船が桟橋に接岸できなくなります。そのため、可動ランプ構造を採用し、潮位の変動に追随してランプを上下に可動させることにより、フェリーが24時間桟橋を利用することができるよう工夫しました。
桟橋の梁(はり)の部分はPC桁を採用し、品質の確保と杭打設本数の削減を行いました。プラットフォームの可動橋の水中部分については、常時海中にある構造であるため、海中での施工が必要でした。海中部の一部を事前に成形し持ち込む形(プレキャスト化)で進めました。成形部材は非常に重量があるもの(30トン以上)であったため、一般道路を通行することはできず、先方と交渉・調整を行い、夜間に港内で船に仮積みして据付を行いました。
可動橋の水中部分は高密度配筋のRC構造であるため、水中不分離性コンクリートを使用しましたが、その充填性と品質確保が重要でした。この水中不分離性コンクリートの採用は東ティモールでは初めてであったため、日本からコンクリート専門の技術者を派遣し、実施試験を行いました。施工にあたっては、現地コンクリートプラント会社社員への技術者育成も並行して行い、施工を実施しました。
現場作業においては、「働く仲間に怪我をさせない」を合言葉に、写真によるヒヤリハット事例を繰り返し紹介した結果、現地職員も自ら現場不安全行動を写真で撮って朝礼時に紹介するなど、安全意識の向上がみられ、無事故工事を達成することができました。
また、JICA専門員による安全講習の事故事例の紹介なども現地職員の安全意識の向上に大きく寄与しました。
現場が稼働中の既設ディリ港に隣接しているため、APORTIL(港湾公社)やハーバーマスターとの船舶ルートの明確化、船舶航行時の台船クレーン作業の一時中断、船舶航行日程・現場作業の連絡調整など定期的に協議会を開催しました。
現場事務所や本・支店からスマートフォンでも常時現場が確認できるようにCCTVを設置して、随時アドバイスを受けるネットワーク体制を構築しました。
国内フェリーターミナルの誕生により、旅客専用港としての拡張基盤が整備されました。突堤式の桟橋の両側に、フェリーが2隻同時に接岸可能になることと、可動ランプの採用により24時間稼働フェリーターミナルの利用が可能となり、今後、複数隻導入される予定のフェリーのオペレーションの自由度と効率の向上が期待できます。
既存のフェリーターミナルは、フェリーの乗客とコンテナ貨物の動線が輻湊しており、危険な状態にあると言えます。新フェリーターミナルが供用されますと、このような状態は解消され、旅客の安全が確保できます。
フェリーのランプ勾配と斜路勾配が適合しておらず、潮位や波浪によって不具合が発生しています。可動式ランプによりこれら不具合が解消されます。
現在は、斜路によるランディング形式で安全性に欠ける係留が行われており、高波浪時には船首があおられる可能性が高く、乗降の安全性が確保しにくい状況です。また、ロープが錯綜する危険な配索となっており、係留時に絶えず波浪と潮流の影響を受けるため微速エンジン稼働状態での係留を余儀なくされています。突堤式桟橋によりフェリーが接岸固定されるため危険な係留方式が解消されます。
最後に本プロジェクトが無事竣工できるようご尽力いただきました日本大使館、JICA、施主(APORTIL)、その他多くの工事関係者の皆様に、紙面をお借りして、心より感謝申し上げます。