大学という学びの場を超えて

2019年12月20日

JICA事務所インターン
杉本 恭助

1.はじめに(私が東ティモール事務所に来た理由)

私は2019年10月より12月中旬まで2ヶ月半にわたりJICA東ティモール事務所へインターンとして派遣され、広報業務の一端を担いました。昨年度までごく普通の学生であった私がJICA在外事務所のインターンシップに参加した理由は、三つあります。一つは、在外事務所のインターンシップをする事で、将来そこで働く際のイメージを持てるのではないかと思った事。二つ目は、JICAの各事業に係る多様なアクターの姿を垣間見ることで、国際協力の世界をより広い視野を持って見る事が可能だと考えた事です。そして何よりも、東ティモールのこれからを考えるきっかけを求めていました。増え続ける若者、有限な天然資源、高い失業率、多様化の必要な国内産業、私はこの国が将来どうなるのか長い間気になっていました。しかし、私はテトゥン語の母語話者ではないため、所外に出る際はナショナルスタッフの助けが必要という状態でした。派遣期間僅か2ヶ月半という制約はありますが、私が居心地の良い日本の環境から抜け出し、東ティモールでインターンシップを行う中で失敗した事、そしてそこから学んだ事を中心に若者の視点からご紹介します。

2.活動内容(広報業務について)

私は、広報業務として1)事務所広報スペースの模様替え、2)ODA20周年記念年表制作、3)事務所カレンダー及びグリーティングカードの作製、そして4)Facebookからの情報発信業務(東ティモールではFacebookが重要な情報ツールとのこと)を主に担いました。広報業務活動をする中で意識していたことは、私の帰国後も「持続可能な成果物」の作成です。

1)事務所広報スペースの模様替えは計画設定から行い、まずは広報スペースにあるモノを把握した上でこれからの広報スペースに持たせる機能を検討しました。こうして必要な機能を把握し、熟考した上で模様替えを実行しました。そして、模様替えを進める中で所員からのフィードバックを頂けたからこそ、現在の広報スペースの形を創り上げる事が出来たのだと思います。形に残る成果品としては、JICAロゴ・SDGsロゴのアクリルボード、スタンディングバナーの3つが挙げられます。JICAロゴとスタンディングバナーは訪問者が東ティモール事務所に来た記念に写真を撮れるように、SDGsロゴはJICA東ティモール事務所がSDGsに取り組んでいる事をアピールする役割を果たします。また模様替えでは、将来的な模様替えを容易にするため、部屋の見取り図をデータ化しました。

2)日本による東ティモールに於けるODA開始20周年ということもあり、JICAの東ティモールにおけるODA支援活動の記録を年表にしました。様々な年表スタイルの調査を始め、作成にあたっての料金見積もり内容の把握等を行い、そこから得たものをデータ化することで将来的に継続して活用できる物作りを行いました。この年表は現在事務所二階広報スペースに掲示してあります。

3)毎年行っている事務所カレンダー及びグリーティングカードの作製にも携わらせて頂きました。今年は方針を抜本的に変え、「思わず手に取りたくなるモノ」を目指しました。まずは、様々なカレンダーのサンプル調査を行い、デザインを考案した後、所内からJICAの活動を代表する写真を募りました。これは、私の活動を組織の方に知って頂くと同時に、所員の方々と共により良い物を作り上げていけるのではないかと考えたからです。流れの中核部分をナショナルスタッフに担ってもらい、私はサブで関わりつつ綿密なコミュニケーションで、彼らの更なるオーナーシップを確保しました。年内にはカレンダーが配布されると思いますので、是非手に取って見てください。

4)フェイスブックでの英語を用いた情報発信はデイリーなタスクであり、英作文の能力が試されました。また、JICAは政府系機関という事もあり情報発信の際は、つい文章がフォーマルになりがちです。しかし、投稿を閲覧する人達は一般人であることを考慮すると文体はカジュアルとフォーマルの間を取るべきだと考えました。私はプロジェクトサイトでの写真撮影を多くこなす中で、情報発信に必要な情報収集・取捨選択能力を磨きました。他にも、広報担当のナショナルスタッフと連携や又イベントの参加者にインタービューをする中で学んだ事は数え切れないほどあります。

3.広報活動の意義と課題(広報活動を通して学んだこと、苦労したこと)

私は広報活動を行う中で常に「デザインはシンプルで且つインパクトのあるもの」を意識していました。私達の活動を認識してもらう上で広報活動の果たす役割は大きいと思います。しかし、SNSからの情報発信であれば長文や詳細な説明・情報は不要だと考えています。何故なら、情報はまず読み手の目に留まる必要があり、そのために情報はシンプルである必要があるからです。例えば、博物館等に行った際に展示物1つ1つの説明書きに目を通す人は多くないと思います。同様に、SNS上で情報を読み取る際もまず文章ではなく、写真等に目が行くでしょう。だからこそ、広報活動も常に見る側の視点に立ち、シンプルであるべきだと思うのです。私は所内のナショナルスタッフと協働するなかでこのセンスを磨いてもらおうと奮闘しました。しかし、センスは一朝一夕には磨けません。私が伝えたことを元に彼らが自身の発想で広報業務を徐々に改善できたら良いと考えています。

このように私がナショナルスタッフに伝えた事もありますが、実際には彼らと関わる中で苦労し、そこから学んだ事の方が多いと感じています。一番苦労したことは、ナショナルスタッフとの共同作業です。所内で一番若いインターンが、どのように自分の考えを伝えながら彼らと一つのモノを作り上げていくかという事です。無論、在外事務所で働く上でナショナルスタッフとの連携は必須です。とはいえ、異なる文化・社会・政治経済的バックグラウンドを持つ人達と年齢や社会的ステータスの垣根を超えて1つのモノを作り上げるのは容易ではないと思います。実際に、一回り以上年上のナショナルスタッフとポスターやカレンダー、そして事務所広報スペースの模様替えに係る掲示物作成を行う中で、彼らとの意思疎通が上手くいかない場面が多々ありました。例えば、依頼した仕事が全く進んでいない、リマインドしても後回し、急を要する業務でも「明日でいいよ」と言われた事に加え、酷い時は私の話を聞いていないこともありました。

このように、苦労しつつもインターンシップ中に学んだことの1つは、職員としてのナショナルスタッフとの関わり方です。私は自身が考えていた以上にナショナルスタッフは職員同士でコミュニケーションを取りたいと考えている事を知りました。派遣開始直後からナショナルスタッフと打ち解ける事が出来た私は、ある日彼らの一人に「私はもっと皆と口頭でのコミュニケーションを取りながら仕事がしたい。君はよく口頭でコミュニケーションを取ってくれる。」と言われました。以来、私は効率性を考える余り全ての連絡がメールを通したモノになっていないかを意識するようになりました。顔と顔を合わせて考えを共有する。そんな当たり前の事の大切さを再認識した瞬間でした。更に言えば、広義のコミュニケーションは人間関係を円滑にする役割も果たすのではないでしょうか。仕事とは一見無関係なプライベートの話でも人間関係構築上重要な役割を果たしていると思います。私は、「週末はどうだった?」「最近、調子はどう?」等の会話を自然と出来る風潮が日本にもたらされたら良いと感じています。

ナショナルスタッフとのコミュニケーションの取り方に加え、如何にオーナーシップを持って取り組んでもらうかという点での学びもありました。つまり、如何に日本人だけではなくナショナルスタッフを巻き込み、学んだ事を彼らのモノにしてもらうのかという事です。インターンシップ初期の私は結果を残す事だけに着目し、指導担当者と私の間でタスクを進めていました。しかし、次第にナショナルスタッフが持つ学びたい・レベルアップしたいという気持ちを無視しているのではないかと思うようにもなりました。以来、時には悩み、周りに相談しながら試行錯誤し、自然とナショナルスタッフを巻き込みながらタスクをこなしていく事が出来るようになったのではないかと思います。そこから私は2つの事に気付きました。1つはナショナルスタッフがレベルアップする事に喜びを感じている事、そして2つ目は彼らとのコミュニケーションが更に増えたことです。ナショナルスタッフが自ら挑戦し新しい事を覚えた喜びを感じている瞬間は、彼らに華を持たせる黒子的立場の楽しさを覚えた瞬間でした。これらは全て、日本の大学という限られたコミュニティの中で私達が主役である活動を行うだけでは学べない事であったと思います。

4.東ティモールの生活と文化

東ティモールは綺麗な海があり、自然豊かな山もあり週末の過ごし方には困らない国だと思います。東ティモールに来たら一度は訪れるべき場所として、ラメラウ山(標高2,986m)が挙げられます。私も雨季に入る前にラメラウ山登頂に挑戦し、山頂からの雄大な景観を望むことが出来ました。更に、インターンシップ派遣期間中がシーズン真っ只中という事もあり、ホウェールウォッチングもしました。結果として、海中でクジラの姿を捉えることはできませんでしたが、ダイビングの楽しさを垣間見た瞬間でした。他にも、事務所ナショナルスタッフの結婚式や街がゴーストタウンと化す祝日も経験し、東ティモール人の文化・歴史・礼儀作法へのリスペクトも示す事が出来たと思います。

また、私は東ティモールで12カ国目の国外滞在であり、半数以上が開発途上国であっため断水、南京虫、電気の停電等が発生してもさほど動じなかった覚えがあります。多数の国外滞在経験があったからこそ、それらは日常茶飯事であるため一々気にしていては仕事にならない上に体に悪いだけだと割り切る事が出来たのでだと思います。しかし、1つ気をつけていたこととして、規則正しい生活を送ることが挙げられます。途上国経験があっても、日本とは違う環境にいると知らぬ間にストレスは溜まっていくものです。また、夜更かしやバランスの悪い食生活を続けていると、直ぐに体調を崩してしまいます。更に、気候上東ティモールの気温はとても高いため、私は日中に行動し体力を消耗しないように運動は朝に行い、休日の昼間も自宅にて勉強を、そして夕方から活動再開という規則正しい生活を送っていました。結果として、派遣期間中1度も体調を崩す事は無かったことを考えると、やはり体調管理は大切だと思います。

5.終わりに(インターンシップの経験を活かして)

Steve Jobsが生前残した言葉に「Keep looking. Don’t settle(好きな仕事を探し続けろ、止まってはいけない)」があります。この言葉のように、私は長い間誇りを持ち続けられる仕事を探し、走っては止まりを繰り返してきました。しかし、インターンシップを通し私が好きで誇りを持ち続けられる仕事は国際協力の分野に在り、暗がっている人々の顔に笑顔を灯すことだと再認識できました。だからこそ、慣れない環境で慣れない業務をこなす中で自らの力不足を痛感し、悔し涙を流しながらもそれらを補うため日々前向きに業務に取り組めたのだと思います。

私がこれから進む国際協力の世界ではどれだけ学術的知識を蓄積しても「現場は現場であり、例え実務スキルを身につけたとしてもそこには沢山の学びが待っているでしょう。その道中こそ今回学んだ事・反省すべき事を活かす機会だと考えています。こうして振り返って見ると、何となく就職活動、社会人生活を始める手前で踏みとどまる事が出来た事が今回1番の収穫かもしれません。この国でお会いした皆様、人生観やキャリアパスをお聞かせ頂きありがとうございました。広く長い目でキャリアパスを考え、人々の顔に笑顔を灯せる人材になります。それでは、又いつか東ティモールで会う日まで。

【画像】

職員送別会にて所員と筆者(後列右から二番目が筆者)

【画像】

事務所広報スペース(模様替え前)

【画像】

事務所広報スペース(模様替え後)

【画像】

ラメラウ山登山(頂上からの眺め)

【画像】

事務所受付(模様替え前)

【画像】

事務所受付(模様替え後)