東ティモールでのボランティア活動を終えて

2020年1月24日

国立リハビリテーションセンター(CNR)
堀内 好恵(理学療法士)

1.活動先紹介

私の活動先は、首都ディリにある国唯一の国立リハビリテーションセンター(CNR)です。そのため、ディリを中心とした、13県全ての患者を対象としています。患者の疾患としては、大人では、脳卒中、骨折、切断、子どもでは、小児まひ、先天性内反足が主な疾患です。患者は、外来で受診する患者と(センターの車で送迎、もしくは自分で来院する)、センターに併設されたドミトリーに住んで最長3ヶ月リハビリを受けられるドミトリー患者がいます。部門としては、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)、義肢装具、車椅子、CBR(Community-based Rehabilitation)という6つの部門で運営されており、リハビリ診療の提供だけではなく、患者それぞれに合った義肢装具や車椅子、松葉づえや歩行器等を提供しています。国立であるので、東ティモールに住む全ての人が、全ての診療と医療補助具を無料で受けることが出来ます。

2.活動開始当初の状況

活動開始当初、PT部門は、PTが東ティモール人1名、インドネシア人のアドバイザー1名と私の計3名、PTのライセンスを持っていないアシスタントが2名(女性1名、男性1名)でした。私のカウンターパートである東ティモール人のPTがXefi(部門のリーダー)だったのですが、あまり出勤せず、出勤してもコーヒーを飲みに行く等、患者を診ない・どこにいるのか分からない事が多かったため、診療は基本的に、インドネシア人のアドバイザーと私、そしてアシスタント2名で診ている状況でした。また、他のPTと男性アシスタントは小児の診療をしようとしなかったため、小児の患者は、私と女性アシスタントの2名で全て診ている状況でした。PTやアシスタントの治療技術は高いとは言えず、とりあえず起立動作や歩行練習をしていたり、骨折した腕を無理やり伸ばしたりして、患者が泣き叫んでいるといったレベルでした。

さらに、国唯一の国立のリハビリ施設であるはずのCNRの認知度が首都ディリにおいても低く、PT部門の一日当たりの平均患者数は10人程度でした。そもそも東ティモールの医療レベルが低い事、国民の中にリハビリテーションの概念が存在しない事、病院に行っても治らない・病院に行ったら足を切られるという国民の医療への恐怖心や不信感から、伝統医療を信じ、病院受診に繋がっていない事も、患者数の少なさの一因となっていました。

3.目標設定

派遣期間中でやると決めた事は、日本の文化を現地の人に伝えたり、現地の人と仲良くなるといった事ではなく、「人の役に立つ仕事をする」という事でした。隊員の活動期間は2年間です。私は、2年間は一見すると長いようであるけれど、何かに変化をもたらすにはきっと短いはずだと思っていました。ですので、いかに効率的に東ティモールの人々にポジティブな変化をもたらす事が出来るか、という事にこだわろうと考えました。そこを踏まえ、最終目標を「PT部門の患者数・リハ数を増やすという=リハビリを受けられる人数を増やす」に設定しました。一番効率的なのは、省庁レベルに働きかけて、東ティモールの医療制度の在り方にアプローチする事や、所属先にて管理職のポストに置いてもらう事だと思いましたが、隊員の活動は草の根レベルである事から、最終目標を達成するために「PT部門の提供する理学療法の質を向上させる」、「国民へのCNRの認知度を向上させる」、という2つの小目標を立てました。

4.活動詳細

「理学療法の質を向上させる」ために、隊員自身が毎日診療を行う、スタッフの仕事に対する意識の向上を図る(アシスタントによる職場の鍵の管理、リハ室の掃除や道具の片付けの指導の実施等)、アシスタントの知識と技術向上を図る(計11回の勉強会・診療中の技術指導の実施)、そしてデータ管理(毎日の患者数を管理し、患者数が減少した際は、CBR部門と連携を図り、新患をセンターに連れてきてもらったり、来なくなった患者のフォローアップを行ってもらったりした)を行いました。センターでは、新患の評価はPTが行いますが、実際に診療するのはアシスタントという流れが確立していたため、この項目に関しては主にアシスタントに対し実施しました。また、CNRの認知度を向上させるために、CNRのポスターを増刷し、CBR部門に対し、ディリや地方のコミュニティに配布や掲示を依頼したり、隊員自ら地方に持っていき、コミュニティの人々にセンターの説明をしたり、JICA事務所のFacebookにセンターの情報を投稿したりしました。地方で、コミュニティの人々にセンターの説明やリハビリテーションの重要性を説明した際、そもそもコミュニティの人々はリハビリ診療の風景を見たことがないのでイメージをする事すら出来ず、理解が難しい様子でした。そこで、隊員活動の延長期間(3ヶ月弱)を利用し、リハビリテーションのプロモーションビデオを作成することにしました。このビデオは、JICA事務所のFacebookへの投稿・東ティモール国営放送RTTLでの放送・他隊員の活動にて使用していく予定となっています。個人的な活動としては、毎週木曜日に日本人のシスターが行っている日本語教室に参加させていただき、時折教室の生徒に対しCNRの説明をさせていただきました。

5.活動結果

2年3ヶ月の活動を終えようとしている現在、アシスタントは遅刻をせずに出勤し、5Sも徹底出来ています。診療も自分たちだけで行えるようになっており、治療内容も患者の状態を見て変化させられるまでになりました。時折、私もまねさせてもらうくらい素晴らしい治療アイデアも生み出せる程です。また、今では患者指導や家族指導も私の指示なしで行うようになる等、患者の事を考えて行動出来るようになりました。そのため、私の帰国後も、アシスタントの配置換えがない限り、ある程度の理学療法は提供し続けられると思っています。私は、活動開始当初、現地語であるテトゥン語が全く話せず、アシスタントが言いたい事も理解出来ない、こちら側が伝えたい事も伝えられない、なのに偉そうに物を言う態度であったと思います。ですので、何度も言い合ったりギクシャクしたりし、もう関係修復は無理かもと思ったこともありました。でもそんな時でさえ、いつも最後は受け入れてくれて、理解できない事も理解しようと努力してくれたアシスタント達には本当に感謝しています。何が功を奏したのか明確な理由は調査出来ませんでしたが、最終目標に掲げていた患者数・リハ数の増加も、2年前と比較し、患者数1.5倍・リハ数1.7倍に増加しました。

6.最後に

私の活動は、もしかしたら何ももたらさなかったかもしれないし、独りよがりの活動だったのかもしれません。そこは分からないけれど、私自身にとっては、たくさんの人と出会え、様々な考え方に触れることが出来、色んな感情を経験し、また、すばらしい自然にも触れられたこの2年間はとても貴重で意味のある時間であったと感じています。今はまだこの経験をどのように活かせるのか分かっていませんが、私は現職参加であるので、元の職場で働きながら、自分なりの還元の方法を探していこうと思っています。

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