コロナ禍の選挙実施体制強化計画

2022年3月10日

木村歩美
UNDP(国連開発計画)東ティモール事務所

はじめに

"民主主義(デモクラシー)"とは、何でしょうか。民主主義を実現するために、わたしたちができることは何だと思いますか。「21世紀最初の独立国」と言われる東ティモールは、2002年に独立しました。東ティモール人が自らの決定権をもって政治を治めるようになってから20年。そんな若い国にもかかわらず、デモクラシーランキングではアジア7位を獲得(Economist Intelligence Unit 2021)、2018年に行われた議会選挙の投票率は80.86%でした。開発途上国といえども、日本の投票率55.93%(2021年衆議院選挙)に比べると、国民一人ひとりの高い政治への関心が伺えます。

UNDP CORE-TLプロジェクト

UNDP(国連開発計画)では、2022年3月から始まる東ティモールの大統領・議会選挙を多角的な面からサポートしています。日本政府の支援資金をもとに発足したCOVID-Resilient Elections in Timor-Leste(東ティモールにおけるコロナ禍の選挙実施体制強化計画、通称:CORE-TL)プロジェクトでは、1)地方の選挙管理機関のコロナ対策 2)コロナ対策に向けた選挙計画、マニュアル作成 3)効果的かつ正確な選挙と感染症対策の情報共有4)若者、女性、障害者への選挙参加の促進 5)二重投票防止のためのインク調達を支援しています。

CORE-TLプロジェクトにおいて、わたしはコミュニケーションスペシャリストとして日々活動しています。プロジェクトチームは17人と小規模ですが、、ティモール人、ポルトガル人、コロンビア人、バングラデシュ人、日本人が働く多国籍なオフィスでは、英語、ポルトガル語、そして現地のテトゥン語が飛び交っています。コロナ禍による人手不足と計画変更で目が回るほど忙しい日々ですが、ラテンや南国出身のスタッフが多いからなのでしょうか、仕事や会議に追われながらも毎日笑顔が絶えません。

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CORE-TLの選挙関連イベント準備の様子

それぞれの国に合った民主主義

東ティモールの選挙プロジェクトにおいて、一番驚いたのは選挙における"文化の違い"です。例えば、東ティモールでは二重投票を防ぐために、投票後に指に青いインクを付けます。そのためCORE-TLプロジェクトでは、12,600個のインク調達を支援し、インク説明会を選挙管理機関とともに開催しました。説明会では、インクの色は漂白剤やガソリンで擦っても消えず2週間以上色が残ることが証明され、インク使用の安全性と正当性の合意を選挙管理機関と政党から得ました。

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二重投票防止インクの被験者

また、総人口の半数以上を占める若者、女性や障害者の選挙参加を促すため、テレビ・ラジオ・SNSを使った呼びかけ、インフォメーションセンター設置、UN Womenや視覚障害者支援のNGOとワークショップを開催しました。これらの活動はSDGsの3【すべての人に健康と福祉を】、5【ジェンダー平等を実現】、9【産業と技術革新の基盤】、16【平和と公正をすべての人に】の達成に向けたものでもあります。

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視覚障害への選挙参加に向けた点字トレーニング

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大統領選挙の投票啓発のために制作したテレビ映像

COVID-19における課題

感染症対策は、選挙プロジェクトの最優先課題です。東ティモールにおいて、COVID-19の影響は社会的弱者により著しく見受けられ、社会経済へのダメージは現存する格差や脆弱性により助長されていることがUNDPの調査で明らかになっています(UNDP Socio-Economic Impact Assessment)。国民全体の積極的な投票参加を推進している一方で、混雑が予想される選挙会場では感染症対策が欠かせません。コロナ禍における初めての選挙だからこそ、プロジェクトを通した選挙管理委員会との連携、地方や社会的弱者へのアウトリーチの強化が今まで以上に重要視されており、民主主義の礎であると考えられています。

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日本政府のCOVID-19対策支援のコミュニケーション資料例

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