グアテマラ協力隊員活動紹介1)「庭師と隊員経験を肥やしに 地元女性らと育てる夢-塚本直巳さん(2022年度7次隊、土壌肥料)」

2023年1月19日

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塚本直巳さん

棚からぶら下がるビニール袋からにょきにょきと生える白いキノコは食用のヒラタケ。袋の中の菌床はフリホール(インゲン豆)の殻を利用している。キノコ栽培室の隣は屋根付きの畑で、トマトなど野菜が整然と植わっている。その横にはぼかしやミミズたい肥などの肥料を作るスペース。「ここは宝の山なんですよ。私が必要とするものは何でもある」。うれしそうに語る塚本直巳さん(66)が地元の女性たちと活動する小さな小屋には、未来への可能性が詰まっている。

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トマトが大きく育つ畑と塚本さん

首都グアテマラ市から車で40分ほどの近郊にあるサカテペケス県サンバルトロメ・ミルパス・アルタス市。都市化が進み、かつて行われた農業や果樹栽培が少なくなったこのまちで女性のものづくりグループが立ち上がったのは2008年。野菜栽培やジャムづくりなどの活動をさらに発展させるために、JICA海外協力隊の土壌肥料隊員として2022年5月に着任したのが塚本さんだ。

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豆殻を菌床に育つヒラタケ

15人いる地元の女性たちは全員主婦で、農業の知識はない。着任したときのトマト畑は連作障害で「ありとあらゆる病気があった」と塚本さん。たい肥づくりも最初は食用のトウモロコシを材料にしていたが、「人が食べるものはだめ」と飼料用トウモロコシや捨てられていたマイシージョ(ソルガム)などに切り替えた。不要なものを再循環させる考えが活動の基本だ。キノコ栽培の豆殻もただ同然で手に入る。地元で使わない鶏ふんを使った発酵たい肥も仕込み中で、「地域で持続可能なことが大切。SDGsにもつながってくる」と語る。

この考えは前回2016年に初めて協力隊員として赴任したアルゼンチンの経験から来ている。現地では以前に日本の専門家がぼかし肥料の作り方を指導していたが、教えられた材料は高価で、作物の茎が間延びする問題も起きていた。「教えていたのは日本での作り方で、使い方も教えていない。この国でだれでも手に入るもので作らなければ」。任期の2年間でカウンターパートに自分が持つすべての知識を伝えてきた。

塚本さんの本職は造園業。静岡市で続く3代目だ。庭の手入れで出る枝葉の残廃物を「何とかしたい」とぼかしたい肥づくりを始め、約40年間野菜や苗木を育ててきた。海外ボランティアとの出合いは妻が見つけてきた南米での日本庭園づくりの案件。自身の経験を生かせる協力隊の活動に魅力を感じて応募し、翌年に現地の花き組合を支援する案件でアルゼンチンのラ・プラタ市へ。長年共に働いた職人たちに別れを告げ、家業をたたんで新たな一歩を踏み出した。

「僕も連れて行って」という当時15歳の息子と共に過ごした南米生活は「最高に楽しかった」と振り返る。職場まではバスで約1時間半の旅で、「顔見知りもできていつも会話をしていた。みんないい人だった」。現在のグアテマラ暮らしでも人とのつながりに喜びを感じている。「知らない人でも『オラ』って声をかけてくれる。一番うれしいのは組合のみんながワイワイガヤガヤと活動していること。活動の後にクレープとかを持ち寄って食べているのが本当に楽しい」

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マリアさん(左)ら組合の女性たち

メンバーの女性は「男性の力があるのは本当に助かる」と頼りにする。カウンターパートのマリアさんも「野菜栽培もたい肥作りも私たちは知識を持っていなかった。棚を作ったりと大工仕事も得意で本当に助けられている」と感謝する。ビニール袋を再利用して作った愛用のリュックをマリアさんに「それはボルサ(袋)だ」と言われ、「いじめられているんですよ」と笑う塚本さん。着任半年でグループの欠かせない一員となっている。

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おいしい手作りトマトソース

今新たに構想しているのが、グアテマラ特産のコーヒー豆を作る際に出る、廃棄物の殻や果肉を使ったぼかしづくり。「甘みがあるということは発酵する要素がある」と新たな資源再利用に期待を寄せる。目標は、ミミズ肥料とぼかしを組み合わせた「世界最高峰のオーガニック肥料」づくり。組合のキノコや肥料、トマトソースなどの販売は口コミで広がりを見せており、「女性たちの副収入となるのはまだこれから。あと1年半、いろいろと作り続けて、ここに(知識と技術を)残していきたい」と考えている。

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「マイスとフリホールを一緒に植えると豆の根粒菌で連作障害を軽減できる」とマヤの伝統農業の利点を説明する塚本さん

取材の最後に、今後の夢はと聞くと、「実はもう一回受けられるんですよ」と少年のように目を輝かせた。今回の活動が終わる年に68歳となる塚本さん。協力隊の応募は69歳まで可能だ。「キューバに行きたいですね。世界的にオーガニック農業と言えばキューバ。ドミニカ共和国も魅力がある。まだまだやりたいことがいっぱいあって、ドキドキしているんです」。日本の職人の技術と情熱を必要とする人たちは、グアテマラにも世界にもまだまだたくさんいる。

取材日:2022年12月23日
文・写真小林祐己、見出し・砂子知香