所長あいさつ

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ヨルダンは、多くの日本人にとって身近と言える国では無いかもしれません。また、「中東の国」ということから、「危険な地域」と見られることも多いと思います。しかし、ヨルダン王室は日本の皇室とも非常に親密な関係があり、映画「インディジョーンズ」のロケ地となったペトラ遺跡を始め、誰でも浮くことができることで有名な「死海」や、砂漠の美しさを堪能でき、今でもやはり多くの映画のロケ地として使われているワディ・ラム、その他、歴史的な価値の高い観光名所が多数ある魅力的な国です。また、2011年のアラブの春以降近隣国では不安定な政治情勢が続く中、欧米の国々とアラブ諸国との間で絶妙なバランスをもって安定した国家運営を続ける数少ない国の一つです。

しかし、ヨルダンの面積は日本の約4分の1(北海道よりやや大きい)、天然資源は非常に限定的で、エネルギーの殆どを輸入に頼っています。水も常に不足しており、首都アンマンにおいても週50時間未満の給水しかなく、一人当たり水使用可能量は世界最低水準です。産業も、製造業、金融、サービス、観光業以外に目立った産業が無く、外貨収入源も限られています。そのような中、2011年以降約130万人の難民がシリアから流れ込みました。ヨルダンの現在の人口が約950万人であることを考えれば、そのインパクトの大きさは想像に難くありません。また、難民の多くは難民キャンプの外でヨルダン社会に混ざって生活しており、ヨルダン政府にとって、水・エネルギー供給、社会サービスの提供等、大きな財政負担ともなっています。このような状況もあり、国際収支や財政収支は常に赤字状態、国際社会の経済支援に頼らざるを得ない状況が続いています。

このような中、JICAは、「安定の維持と産業基盤の育成」を基本方針として、
1)自立的・持続的な経済成長の後押し
2)貧困削減・社会的格差の是正
3)地域の安定化
を3本柱とした対ヨルダン支援を進めています。

例えば、年間80万人を超える観光客が訪れるペトラに博物館を建設し、遺物の保管、展示、遺跡の歴史や遺跡保存の重要性に関する情報などの提供・発信を支援すると同時に、コミュニティも恩恵が得られるような能力強化プロジェクトを行っています。観光分野は外貨獲得や雇用創出につながる将来有望な産業であり、観光資源の有効活用と、それが地域の発展に繋がるような支援を行っています。

また、水・エネルギー分野でも長期に渡って協力を続けています。産業発展には水とエネルギーの安定供給が不可欠ですが、ヨルダンにおいては、水源が非常に限られており、アンマンに供給する水も、世界で一番低い土地に位置する死海北部のヨルダン渓谷(海抜下226m)から4つのポンプで標高880mの高地に引き上げています。そのため、水供給に大きな電力が必要になります。このような地理的制約と給水システムが、水公社や電力公社に大きな財政負担を強いています。JICAはこういった分野においてもマスタープランの作成や技術協力、無償資金協力を実施し、また、最近は再生可能エネルギーを推進するための投融資といった協力を推し進めています。

貧困削減や地域間協力の分野では、パレスチナ難民やシリア難民を対象とした生計向上支援を行うとともに、難民を受け入れるホストコミュニティへの支援、障害者支援も実施し、ヨルダンの脆弱層へのサポートも行うことにより、JICA支援が難民を含め広くヨルダンの人々にも届くようにしています。2017年からはシリア難民に対し、将来のシリア復興に不可欠な人材となっていただくために日本の大学院への留学機会を提供する支援も行っています。また、地域内の信頼醸成も視野に、ヨルダンに周辺国研修員を招いて、電力や農業分野の研修事業なども行っています。

以上の事例は、我々の近年の活動のほんの一部ですが、これまでJICAがヨルダンに対して行ってきた支援は、ヨルダンの人々から高く評価され、日本への信頼を高めることに貢献してきました。これは、単に資金や技術を右から左へと提供するのではなく、これまでヨルダンでの協力に携わってきた専門家、技術者、ボランティア、また日本国内での研修事業に携わってきた多くの関係者が、ヨルダンの人々とともに考え、ともに活動するという、日本ならではのアプローチで臨んできた成果だと思います。

中東地域安定の要となるヨルダンへの支援。ヨルダンが混乱すれば、それは地域の混乱にもつながり、同地域からエネルギーの80%を輸入している日本への影響も計り知れません。一見、遠い国ではありますが、密接に繋がる両国の双方にとって良いインパクトをもたらすことができるよう、事務所一丸となって取り組んでいきます。

JICAヨルダン事務所長
宮原 千絵