所長あいさつ

映画「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」のロケ地となったことでも有名なペトラ遺跡は、塩分濃度が高く身体が浮いてしまう死海と、紅海に面しダイビングも楽しめるアカバ湾との間に位置するヨルダン南部の世界遺産です。

ヨルダンの国土面積は私の出身地である北海道とほぼ同じで、人口は北海道の約2倍。東はイラク、西はパレスチナとイスラエル、南はサウジアラビア、北はシリアといった国々に囲まれた中東圏に位置するアラブ国家です。他方、石油やガスの産出に恵まれている周辺国とは異なり、国内で産出される天然資源は限定的で、そのほとんどを輸入に頼っています。

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JICAは、隣国シリアやパレスチナ、イラクから多くの難民を受け入れているヨルダン政府に対し、ホストコミュニティとしての負担を軽減し、ヨルダンの経済的安定と発展を促進するための財政支援を行っています。また、ヨルダンの政府機関と連携し、パレスチナやイラク、イエメンといった周辺国・地域から技術者を招いて研修を実施したり、国内の難民キャンプで運営されている小学校や全国各地の障害児・者施設、幼稚園、大学などに多くの海外協力隊を派遣し、それぞれの専門性を生かした活動を展開しています。

また、国土の約8割が砂漠地帯で、降雨量も少ないことから水不足が深刻な課題となっており、失業率も約22%(特に若年層は約46%)と極めて高く、雇用創出が喫緊の課題となっています。

JICAは、これまで上水の配水網整備や無収水対策を強化するための協力に加え、電力供給の安定化や効率化のための協力、そして民間企業による太陽光発電所の建設・運営事業への融資を通じた再生可能エネルギー推進等に力を入れてきました。外貨獲得や雇用創出に大きく貢献する観光分野では、死海文書を所蔵する首都アンマンの国立博物館やペトラ遺跡等、全国の観光地における博物館建設に加え、地元コミュニティへの裨益を目指す「持続可能な観光開発」のための協力に取り組んでいます。また、山口県萩市の協力を得て同市が取り組む「まちじゅう博物館」をモデルとした協力を行った結果、ヨルダン中西部の古都サルトが2021年に世界遺産に登録されました。

ヨルダン西部の死海は海抜マイナス400m(地球の最深部)であるのに対し、東部の高地は海抜1,600mと、東から西にかけて台地が大きく傾斜し、降雨等の自然の力によって大きく削られた渓谷(台地の裂け目)がところどころに存在しています。ギリシャ語で「岩」を意味するペトラ遺跡も、そんな切り立つ岩壁を削って建築されました。

南部の港町アカバからイスラエルとの国境付近を北上するヨルダン地溝帯と呼ばれる渓谷に沿って、1837年以降、4度の大規模地震(マグニチュード6~8)が観測されており、また、死海(2018年)やペトラ(2022年)では、冬に多くの鉄砲水が発生し、過去には尊い命が失われています。

JICAは、引き続き、ヨルダンの「安定の維持と産業基盤の育成」を基本方針としつつ、当地で活躍する他ドナーやNGO、民間企業関係者の皆様との共創を通じて、特に脱炭素社会の実現を軸とした持続可能な成長基盤の整備や、ヨルダン国内及び周辺地域の安定化促進のための協力を推進します。具体的には、日本が強みを発揮できる防災分野や都市交通等の都市基盤整備、水とエネルギーの連携(ネクサス)を念頭に置いた先進的な取組に加え、脆弱層(障害者、女性、難民等)のエンパワメントや教育及び精神保健分野における案件形成に積極的に取り組みます。

2023年12月18日
JICAヨルダン事務所長
森畑 真吾