数十年先を見据えてごみ問題に対する意識変容を促す

氏名:石黒 雄資
隊次:2017年度3次隊
職種:環境教育
任地:ティカ
配属先:キアンブ・カウンティ水・環境・エネルギー・天然資源事務所
出身県:静岡県

私の任地は、首都ナイロビから北東約40kmにあるティカという街(約18万人/2012年)です。パイナップルの産地で一年を通して露店に並ぶ光景が見られる一方で、地理的に首都のベッドタウンとしての役割を担っており、活気に満ちた街のエネルギーを日々感じます。ただ、発展が著しい都市の裏を返して見れば、人口増加や都市化によりごみ排出量が増加しており、ごみ処理能力向上やごみ減量が大きな課題となっています。こうした課題を受けて、配属先であるカウンティ(日本で言えば都道府県に相当)では、ごみ減量を目的にごみ分別に取り組み始めました。ごみ問題は行政による取組だけでは限界があり、ごみの排出者である住民の協力が不可欠です。私の活動では、ごみ問題やごみ分別の手法に関する理解を深めるために学校への出前講座などを行っています。

学校での環境教育は、「エコスクール事業」と称しており、教育と実践のセットをコンセプトとしています。ごみ分別について言えば、出前講座でごみ分別方法やその意義を理解し、学校で出るごみを子供たち自身で分別しようというものです。ちなみに、出前講座の主な受講者は学校の環境クラブ(9~14歳)です。講座では、日本的な環境教育の考え方や手法を取り入れた体験・参加型のプログラムを作成し、カードを用いた模擬ごみ分別のアクティビティを行っています。ごみの分類やその特徴を解説した後に行うもので、14種類のごみのカードを用意し、グループでそのごみの特徴からごみの分類を考えます。ケニアの教育手法は一方的な知識伝達が主流で、子供は考えたり想像したりすることに不慣れですが、出前講座の中で説明を聞く表情は真剣そのもので、用意したアクティビティでは一生懸命に考えている様子が窺えます。私自身にとっても、出前講座に行って子供の反応を見られるのは嬉しく思いますし、ボランティア活動を続けていく上で「実感」を得られる機会は大切にしていきたいと考えています。

カウンティの廃棄物管理の課題を挙げればキリがありません。ごみのぽい捨て・不法投棄、ごみ収集のエリアや効率、民間収集業者の参入数、ごみ収集車の不足・管理体制、最終処分場の運営、各種データの整備状況などなど。日本と比べてしまえば、すべてが課題に感じられます。とは言え、日本の廃棄物管理の歴史をたどれば、1954年に「清掃法」が制定されてから2000年に「循環型社会形成推進基本法」が制定されるまで、ごみ等を衛生的に処理することから始まり、3R(リデュース/リユース/リサイクル)の実施と循環型社会の実現を目指して現在に至ります。日本も実に40年以上の長い時間をかけて少しずつ改善してきたわけです。カウンティの現状は、日本の1960年代~1970年代の段階といったところでしょうか。その上さらに、当時の日本では抱えていなかったごみ減量やリサイクルといった課題が複層的に並行しており、そういった意味では当時の日本よりも難しい対応を迫られています。

このような状況に対して、JICAボランティアの2年間の任期はあまりに短いと感じます。認識できる課題に対して何が根本的な原因なのか、どこから手を付ければいいのか、できることは限られ、行動に対して目に見える大きな変化はないと言っていいです。それでも、今すべきことを考え、行動する。その結果として次につながればよいと考えています。2年間の任期に何かの成果を残そうという意識は強くはありません。私にとっては2年間がすべてであっても廃棄物管理の改善の長いスパンの中ではほんの一部に過ぎず、また、同僚らは私の2年間のスパンで仕事をしているわけではないからです。環境は、社会や経済を支えるベースです。環境を保全しつつ発展しているケニアの将来の姿を思い描きながら、住民が主体的に行動するための環境意識の変容を目指して、環境教育に取り組んでいます。

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学校への出前講座で同僚と共にごみの分類を説明

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カードを使った模擬ごみ分別。日本式の体験型アクティビティに子供たちの表情は真剣そのもの

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ごみ最終処分場。むき出しのまま投棄されるごみとウェストピッカー。雨季にはアクセス道路がぬかるむ