想像する感性/多様性

氏名:佐野 剛成
隊次:2018年度2次隊
職種:障害者支援
任地:ナイロビ
配属先:ケニア特別支援教員養成校
出身県:静岡県

ケニア特別支援教員養成学校(Kenya institute of special education:以下KISE)はケニアの特別支援教育の要となる機関で、特別支援教育への専門性を深めることを目的とし現職の教員が講義を受けたり教育実習を行ったりしている。KISEでの活動は発達障害や実態把握のための講義、ナイロビ周辺に住む保護者からの教育相談、教育実習でのスーパーヴィジョンがある。学生たちはある程度の教員経験を得てから、あらためて障害児へ教育方法や考え方を学びたいと思いKISEに入学してくる。学生の中には家族を地元に置いて、単身でKISEのドミトリーに入寮し、学んでいる者もいる。休憩時間に雑談をすると地元に戻って家族の料理を食べたいとか自分の子どもに会いたいなど故郷を離れて勉強することの寂しさを吐露するなど、自分の身に重ねて共感することも多々ある。そのような学生達に学んでいる動機を聞くと、身の回りでも発達障害の傾向を持つ児童に気づき自閉症をもっと知りたいからとか、また自分自身に障害がありそのことを通して特別支援教育を学びたいと思うようになった、自分のキャリアアップに役立つからなどの返事が返ってきた。基本的にケニアでは障害のある子どもと通常の子どもが一緒に学ぶインクルーシブ教育を推し進めている。障害の子どもと一緒に学ぶことで、子どもたちは多様性や寛容の心、差別をしない態度を自然と身に着けることができる。またインクルーシブ教育はピア・スタディなど成され学力の向上にも良い影響があるという研究成果もある。一方で現場の教師には障害のある子どもにも対応できるような知識や見方が必要となってくる。そのような背景があって特別支援教育を学ぼうという風潮が強まっている背景がある。

KISEの特徴として、障害を持った講師や職員を採用している。講師は約40人中2人が障害を持っている(約5%)。職員では150人中12人が障害を持っている。(8%)(参考:日本の障害者の法定雇用率は民間2.2%、国・地方公共団体2.5%)スタッフ同士が手話で話をしている様子や、目の不自由な職員の手を引いている姿もよく見られる。

このような障害者の社会参加を通じて、私たちは多くの気づきを与えてもらえる。「彼は手話があればわかるんだ」「彼女は車椅子だからスロープのある経路で一緒に行こう」これらの発見は私たちの想像する力を高め、結果として社会の豊かな在り方を考える機会を与えてくれる。そのように想像すると、”今”自分自身が歩くこともできるし、会話もできるし、映画も見られるし、美味しく食事もできるけれど、いつまでも、そのような健康で“あり続ける”ことはできるのだろうか?そのような保証はどこにもない。例えば高齢になれば誰しも何かしらの体の問題が生じてくるだろう。体も動かなくなれば、視力も聴力も低下する。また不慮の事故でこれまで持っていた能力が突然欠けてしまうということもあるかもしれない。それらの機能的な障害だけでなく、心理的な部分でもふとした瞬間に欠落してしまうこともあるかもしれない。障害者に対する想像力は他者を助けたいとか親切でいたいなどの利他的なものだけでなく、自分自身を一歩深く“振り返らせて”、(本当に)豊かである社会の在り方も考えるきっかけとなる。このような見方を通して人間を決して一面から見たいわゆる生産性・経済性だけで評価せずに、一人ひとりの存在そのものを大切に世界へと繋がっていくと思う。想像する感性は自分だけの気づきや問題意識ではなく、もっと多くの人がそれぞれに気づき、感じていくことで、これからの社会の在り方を議論し合い、自然・環境・文化・人間が持続していける世界へのステップとなると思う。KISEでのこのような共生への試みはもっと多くの場所や時間に広がっていって欲しいと願って止まない。

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教育実習 Kajiad地方の小学生

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教育相談の様子(左が同僚のカウンセラー、右がクライアント、鏡に映っているのが自分)

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学生同士がディスカッションを行っている場面