作業療法士としてケニアで何ができるか

氏名:荒川 拓也
隊次:2018年度3次隊
職種:作業療法士
任地:ナクル
配属先:ナクルヒルズ特別支援学校
出身県:東京都

首都ナイロビから車で約3時間移動すると、配属先ナクルヒルズ特別支援学校に到着します。学校には180名以上の生徒が在籍しており、ほとんどの生徒が学校に隣接している寮で生活しています。学校に入ると、笑顔で出迎えてくれる生徒、芝の上で寝転がっている生徒、牛を追いかけている生徒など、様々なキャラクターをもった生徒たちがいます。ここで私は学校で唯一の作業療法士として活動しています。

配属先からの要望は、「生徒の日常生活を自立に繋げてほしい」、「可能であれば生徒が職に就けるように支援してほしい」といった内容です。この要望に応えるために、私は日本で培ったスキルを存分に発揮できる肢体不自由児のクラスで生徒のケアに努めています。しかし生徒の人数に対して明らかに少ないスタッフの人数不足によって、生徒たちの身辺処理に追われる毎日で、同僚への専門的な技術移転に踏み込む機会が少ないのが現状です。一方で、学校の生徒たちは互いに助け合って生活しており、歩ける生徒が車椅子を使っている生徒を介助したり、トイレへ誘導したりと私自身が感心する文化がここに根付いています。またボランティアとして配属先に手伝いに来てくれる現地の方々や、近隣の病院から理学療法士が協力しに来るなど、<Harambee(力を合わせて働こう)>という国家の掲げるスローガンが国民に浸透していると感じます。

配属先が抱える課題はスタッフの人数不足を含めて数多くあります。その中で私が注目していることは「地域」についてです。ケニアの特別支援学校は学期休みが一年を通して約4ヶ月あり、その期間中生徒たちは家庭で過ごすことになります。学校で生徒がある程度の日常生活や運動スキルを身につけても、自宅に帰ってからは家の中で過ごし、学校でのスキルを利かすことや身体を動かす機会さえも少なくなる生徒がいるため、配属先の要望に応えることに時間がかかってしまいます。したがって、保護者に向けて生徒へのリハビリメニューを提供し、実際に家庭訪問もしました。しかし多くの家庭では仕事や家事に追われ、生徒に十分な時間を充てることが難しいことを知りました。ある地域の中には経済面から子供が支援学校に通うことができず、自宅で閉じこもった生活を送っている子もいます。また日本にあるような児童館やデイサービス等の社会資源は十分とは言えず、あるといっても費用の課題も出てきます。そのため、学校は生徒たちにとって貴重な遊び場となり、学ぶ場所にもなるので、私自身も小さなことでも頑張ろうと思えます。

支援学校から地域に出ると、道端では両手にサンダルをつけて床上移動し不自由な身体をアピールする人や、障害のある子供を車椅子に乗せてお金を求める人を見かけます。このような社会背景から社会制度などの課題も残っていると思います。こうした状況から日本の作業療法士がケニアでできることは支援学校や病院以外でも数多く残っており、活動できる幅の広さを感じます。
私のように、首都から離れた支援学校で作業療法士として活動するにあたっては、ナイロビに比べて、リハビリ機器やリハビリで必要とされる道具があることは期待できないかもしれません。それでも、現地にいる大工に頼めば廃材で立派な道具を作ってくれますし、清掃スタッフが損傷の激しく不使用になった車椅子の部品を再利用して、車椅子の修理を手伝ってくれます。こんな光景を見るたびに、何かがなければ他の何かで補うといった技術の高さを感じます。今後も現地の人々が考えて解決していけるようなキッカケが作れるように、同僚の要望を聞きつつ支援を継続していきたいと思っています。

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学校の日常風景の写真。生徒たちは互いに助け合いながら生活しています。

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職業訓練クラスで教員にニット帽の編み方を紹介した後、教員が生徒に編み方を教えている写真。

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普段活動しているクラスの生徒たちとの写真。