キルギスに「生きる」

2024年2月20日

原 さやか(三重県出身 2022年度4次隊 青少年活動)

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ナリンの大自然と共に生きる母娘

「生きているということ
 いま生きているということ
 それはカルパック
 それは満点の星空
 それはチンギス・アイトマートフ
 それはガパル・アィティーエフ
 それは天山山脈
 すべての美しいものに出会うということ…。」

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-15℃!凍りついたアラコル湖で

 日本の皆さん、こんにちは。私はいま、中央アジアのキルギス共和国、ナリン州にあるコチコルという村の学校で英語を教えています。こちらに来てからもうすぐ10カ月、毎日たくさんの「ありがとう」に囲まれて過ごしています。学校で生徒に「髪切ったね」と言うと「気づいたの?ありがとう」、私が病み上がりで学校に行くと「元気になって良かった!来てくれてありがとう」、授業が終わると「今日も授業をありがとう」。日々のちょっとしたことに、こんなにもたくさんの「ありがとう」を言ってくれることがとても新鮮で心が和みます。


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心の支えだった大好きな日本の生徒たち

 私の前職は、中学校の英語教師です。いつも生徒たちのことを1番に考えて本気でぶつかる先生方。つらいことから逃げ出さず、自分自身と向き合い大きく成長していく生徒たち。そんな魅力的な人たちに囲まれた職場での日々は、私にとってこの上なく幸せな、まさにコンフォートゾーンでした。一方で、毎日朝から晩まで「何をしたいか」なんて考える暇もないほど忙しい日々が続いていました。


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いよいよ出発の日!羽田空港で隊員仲間と

 そんな日々を過ごしていた2019年、ふとした時に「このコンフォートゾーンを離れてみたらどうなるだろう?そういえばやりたいことあったかな。海外で働きたいな。」と思い、たまたま目に入った協力隊募集の広告を見て、締切直前でしたが「まだ行ける!」とダメもとで応募しました。運よく合格したもののコロナで延期。状況が落ち着いてきた去年になって改めてキルギスに派遣されています。

 来た当初は、同僚の先生方とのコミュニケーションがうまく行かず、授業内容の共有や、授業計画がうまく立てられなかったり、授業予定が急に変更になったり。日本にいた頃のように“授業はしっかり準備して、目指すなら100%を全力で”のやり方がうまく行かず、ストレスを感じることもありました。また、いざ来ておいて今更ですが、私には隊員としてやり遂げたいビジョンやそこまでの使命感はなく、他の隊員を見て「みんな信念をもってやっているのに、一体、私は?」と自問自答することもあります。


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9年生の授業の様子

 最近、“そもそもうまくいくってどういうことだろう?”と疑問に思うことがあります。スムーズに授業が流れること?クレームがないこと?活動計画書通りに行くこと?目に見える活動の成果があること?楽しく毎日を過ごすこと?

 うまくいっているかどうかは私の見方だけの問題で、どのような状態がうまく行っているということなのか自体、考え直してみる必要があるのかもしれません。普段、授業に集中していない生徒が笑って反応してくれたとか、わからないことを聞きに来てくれたり、一度も発表したことがない生徒が発表したり。そういう日々の何気ないことに、もっと目を向けて大事にしてもいいのではと思います。そして、うまくいかないと落ち込むことも捉え方だけの問題なのでは?とも。

 こちらでの日々を重ねていく中で、100%じゃなくてもいい、肩の力を抜いてまずはやってみようと思えるようになってきています。こちらの人とは言葉だけでなく、育った環境や物事の考え方の前提が違っているため、わかりあうのが難しいのは当たり前。最初から以心伝心で通じるわけがないんです。変えることのできない違いばかり見て無理だとあきらめたり、うまくいかなかったと落ち込んだり、ストレスを感じてばかりでは前に進めません。


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カルパック(伝統帽)がお似合いの5年生たちと

 先日、アルファベットを書くのが苦手な生徒のいるクラスに、授業支援に入りました。その日の授業は時間表現の単元でしたが、私はその生徒と個別にアルファベットを書く練習をしてみました。すると次の日、家でも練習してきたノートを生徒が嬉しそうに見せてくれました。しばらくして同じクラスの生徒たちも、その子が頑張る様子を見て、実に自然に声をかけ、一緒に書く練習をする子もでてきました。

 教師が一対一で目を合わせて声をかけ、生徒が“自分を大切に思い気にかけてくれる人がいると感じること、そして自分がそこにいていいと自覚できること”は、全ての学びの場において大切なもので、そのように感じている生徒たちによる集団作りがよりよい学習活動を支えるということを再認識することができました。


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いつも元気いっぱいの4年生たちと

 教師として私がやるべきこと、大事にしなければいけないことのベースは、いつどこにいても変わらないと気づかせてくれた出来事でした。私に気づきを与えてくれるのは、日本でも、ここキルギスでも、やはり生徒たちや一緒に働く先生方でした。

 少し道を逸れたからこそ見える景色が変わり、また私が行くべき道も見えてきました。私の中にあった、学校という場所、教師という仕事が好きという気持ちに改めて気づくことができたのは、協力隊員にならなければ出会えなかった方々のおかげです。学校の生徒たちや先生方、JICAの方々、そしてここで一緒に切磋琢磨する隊員仲間たち。彼らとの出会いが何よりの財産になっています。


冒頭の詩は、私の担当する日本語クラブの生徒たちが谷川俊太郎さんの詩「生きる」の一節を変えて朗読したものです。昨年12月に日本の先生方が教師海外研修の一環として私の学校を訪問された際に披露してくれました。

標高約2,000mの風と太陽と雄大な自然の中、すべてのものが生と直結していると感じる現実や、日本では忙殺され、忘れていた些細な感覚や感情が切々と回帰する日常を、ここキルギスで「生きて」います。


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アラアルチャ国立公園で


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隊員仲間と(タシュラバットというところ)

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キルギスで出会った方々と(羊を捌き、まさに「命」をいただいた)