2024年8月6日
ビーバーズ 侑(兵庫県出身 2021年度2次隊 デザイン)
展覧会の会場にて
どこまでも高く広がる青い空に地面を照らす強烈な太陽、30度を優に超える日も日陰にいると乾燥した空気のおかげでどことなく涼しさも感じる首都ビシュケクの夏。ちょうど1年前の今日、ビシュケク市内にある国立歴史博物館で総勢40名になる地元アーティストたちと「再起」をテーマにしたアート展覧会を開催していました。広島の原爆の日に初日を迎え1週間の予定で開催、その後はビシュケク市内の大学とキルギス第二の都市にあるユネスコ世界遺産スライマン=トー聖山にある国立歴史考古学博物館でも展覧会を開催し、約2000人を超える方々に来ていただき大盛況を得ました。
初日の賑わいの様子
展覧会メイン作品の前でアーティストたちと
皆さんこんにちは。中央アジアにあるキルギスという国でグラフィックデザインを教えていたユウ(YU)です。たった一人の外国人にここまで大きな規模の展覧会を開催することができたのは、周りの人々の強力なサポートのおかげでした。私の前に立ったことがある人で、私に頼まれ事をされなかった人はいないのでは?という自負(笑)があるほど、とにかく多くの人に助けていただきました。展覧会は帰国直前まで続き、その後の片付けやあいさつ回りに忙殺され、まさに帰国便の搭乗口まで駆け続けるような思いで帰路につきました。日本までの飛行機の中で、2年間の協力隊活動が終わるさみしさと共に、「このままプロジェクト(再起展)を終わらせるのは寂しいなぁ」と考えていました。そんな時、広島出身であるJICAキルギス事務所長の計らいもあって、JICA中国や広島平和文化センターの方々から再起展を広島でも紹介する機会をいただきました。
JICA中国での展示
JICA中国でプロジェクトの実物作品の一つ(原爆と平和をテーマにした鯉の滝登り)の展示、そして平和記念資料館でプロジェクト紹介のパネル展示、また「ヒロシマ・ピースフォーラム」というイベントで再起プロジェクトについてお話ししてきました。直接広島の方々に、キルギスにもヒロシマのことを知っている人、興味を持っている人がたくさんいることをお伝えでき、またキルギスでやってきたことについて知っていただけて大変うれしかったです。プレゼンをする中で去年のことが「あの時助けてくれたのはこの人だったなぁ」と、いろんな想い出と共によみがえってきました。
キルギス人アーティストの作品
キルギス人アーティストの作品
キルギス人アーティストの作品
「再起」というコンセプトをキルギスのアーティストに説明した時、なかなかこのコンセプトが伝わらない人が少なからずいました。「何か問題が起きても、気にしない。あるもので生活し、無ければ周りに助けてもらう。ただ、毎日を生きていくだけなんだ。」そんな言葉を聞いて、万国共通だと思い込んでいた「再起」というのは、日本のメンタリティなんだと気づきました。遊牧民族として、自然を受け入れて生きてきたキルギス文化。起きたくなければ起きなくていい、「再起」とは反対とも言える彼らの考え方に救われることもよくありました。提出された作品に、「これが再起?」というものが含まれていたのも、今となってはすごく「キルギス」を表していたように思います。ただあるがまま、無くしたものを再生するのではなく、それを受け入れた延長上に人生と社会が続いていく、今目の前にある物を自然と受け入れていく生き方です。
ロシアの影響を強く受けているキルギス。国内にはロシア人もいますし、ウクライナに友達がいるという人も少なくありません。複雑な思いで胸を痛めている人たちが、展覧会に何度も来てその思いを話してくれたりもしました。そして、「誰も苦しまないでほしい」と願う気持ちに出身国など関係ないのだと、このプロジェクトを通して自分が学ぶ機会にもなりました。展覧会から一年が経った今。「去年の夏は、すごかったね」とキルギスにいるアーティストからお便りをいただくことがあります。喧騒の後の静けさに残る余韻を、海を越えて同じように感じてくれる人がいるという、こんなに嬉しいことはありません。
熊野町の路上にて
2023年12月に帰国して、いま私は広島県で地域おこし協力隊をしています。これまで本業としていたグラフィックデザインではなく、より広い範囲でクリエイティブな経験はできないかと悩み、見つけたのが地域おこし協力隊でした。地域おこし×アートと漠然と検索して見つけたのが、熊野筆で有名な広島県安芸郡熊野町でした。キルギス派遣前に聞いた被爆者の話と原爆展プログラム、キルギスに行ったらJICA事務所長も日本大使も広島出身、戻ってきて見つけた仕事が広島にあった、という不思議な広島つながり。広島に来てから、被爆者の方々に真摯に向き合い、平和のために活動されている方々からお話を伺う機会もあり、見えない力に「ヒロシマから学びなさい」と言われているような気持ちになったりもします。この経験が、またどこに繋がって行くのか…
ブユルサ(キルギス語で「神が望むなら」の意)の精神で流れに任せていこうと思います。
再起展で展示した様子、原爆展コーナーに飾られた折り鶴
私の町
熊野筆製作の現場を取材