思い出の一枚「寄り添い、リスペクトすることの大切さ」

2021年9月24日

名前:森田 加奈子(旧姓:田中)
隊次:19年度1次隊(2007年6月18日~2009年6月17日)
職種:エイズ対策
配属先:エイズ対策委員会 ルウェレジ
出身地:大阪 熊取町

大阪のテレビ局で入社8年目の中堅ディレクターとして、日々、時間に追われていた28歳の私が、「一生に一度人の役に立つことだけを、一生懸命集中してする時間を持ちたい」と思いたち、熱い思いを胸に会社を休職して、現職参加制度を使いエイズ対策隊員として派遣されたのは、マラウイ共和国北部にある地域ルウェレジでした。

電気も水道もないこの地域でする活動内容は、HIV陽性者をサポートする十数の小さなボランティアグループのコーディネート。
各グループにどのような活動をしたいかを聞き、それを実現させるためのアイデアを出したり、講習を行ったり、グループ間の連携を強めたりすることが私に与えられた仕事でしたが、赴任当初はとにかく何もうまくいかず、熱い思いだけが空回り、グループのメンバーたちとのコミュニケーションもうまくいかず失敗ばかりでした。

赴任してすぐのころ、まだ日本でのテレビ仕事の感覚がぬけず、ボランティアグループ同士で意見交換を行うミーティングに大きく遅刻してきた男性メンバーに、私は偉そうに「どうしてミーティングに遅刻するの?これはあなたたちの活動でしょ。遅刻は日本ではダメなこと。タイムイズマネーなんだよ。」と多くのメンバーのいる前で先生のような口調で彼を注意してしまいました。
その結果、注意された彼は、ボランティアグループの活動に来なくなってしまいました…。
私は来なくなった彼が心配になり、他のメンバーに相談すると、彼に会いに行こう、ということになりました。

はじめて訪れた彼の家。
そこはミーティング会場から自転車で2時間以上かかる場所でした。自転車をもっていない彼がミーティング会場に来るには、徒歩4時間以上はかかる道のりです。
家まで訪ねてきた私に彼は、「あの時は遅刻してごめん、けど、今の時期は畑仕事で忙しくて、急いで畑仕事を終わらせて、そのあと一生懸命歩いてミーティング場所に向かったけど、開始時間に間に合わなかったんだ。そしてあのミーティングで沢山の人の前で注意されたから、そのあと恥ずかしくてグループ活動に参加できなかったんだ」と伝えてくれました。

この時私はなんて彼に失礼なことをしたんだ、彼の事情を把握せず、彼の気持ちに寄りそえていなかったと本当に反省しました。仕事のあとに一生懸命歩いてミーティングに参加しようとしてくれたのに、しかも彼は無給のボランティアスタッフ。そんな彼に私は偉そうに遅刻したことを人前で責め、彼のプライドを大きく傷つけていたのです。

帰国して10数年たった今でもあの時の出来事をよく思い出します。プライドというのは、日本人もマラウイ人も同じように持つものです。「地域の事情を把握し、寄り添い、リスペクトする」ということの大切さをあらためて実感しました。

そのあと、私は彼に心から「ペパーニ(ゴメンネ)」と伝え、そして彼を含めたグループメンバーたちとたくさん話し、ルウェレジのことを教えてもらいました。生活のこと、農作業のこと、雨期や乾季の過ごし方、村のおかれているHIV/AIDS問題のこと。
そうして少しずつ、村の状況を知りながら、彼らに寄り添い活動をしていくと、不思議とメンバーたちとの関係もよくなっていきました。

およそ2年間のルウェレジでの活動では、村から村へと自転車や徒歩でグループメンバーと回り、HIV陽性者への支援や予防啓発活動、時に地域を盛り上げるため、サッカー大会や演劇コンテストを開催。そして免疫をあげるためには栄養の摂り方が大事ということで、モリンガや、大豆の普及活動にも力をいれるなど様々な経験をさせて頂きました。

結局、私がいた2年間で、ルウェレジにどれだけ役に立ったかは、残念ながらわかりません。やり残したと思うこともたくさんあります。けど、泣いて笑ってまた泣いてと、自分なりにとにかく村の人たちとたくさん話して、一生懸命向き合った2年間でした。

帰国してすぐにテレビの仕事に復帰した私は、その後約8年間テレビ局で働き、結婚・出産を経て、いろいろとあり、今はなんと自家焙煎の珈琲屋さんです。移動販売の車に焙煎機を載せて、全国に珈琲豆をお届けするべく日々奮闘しています。
もちろんマラウイの珈琲豆も仕入れています。私の中で一番大事なお店の看板珈琲豆です。

今の夢は、いつか自分でマラウイに珈琲豆の買い付けに行くこと。
少しでもマラウイの雇用や、マラウイの人たちの収入に直接かかわっていけたらいいなと夢見ています。

帰国してから約13年。
マラウイのルウェレジで過ごした2年間で経験した様々なことは、今も私の大事な財産であり、今後も忘れることのない、忘れてはいけない思い出として大切にしていこうと思っています。

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大切なことを教えてくれたカウンターパートたちと

次回は、19年度1次隊のエイズ対策隊員として、大豆普及活動を共に行ってきた頼りになる仲間 中村雄弥隊員です。