思い出の一枚「休めない1日」

2021年10月28日

名前:古川 瞳(旧姓:尾崎)
隊次:平成17年度1次隊(2005年7月~2007年7月)
職種:エイズ対策
配属先:ムジンバ ルウェレジ地域エイズ委員会
出身地:高知県室戸市

私は、小さな村ルウェレジに初代エイズ対策隊員として派遣されました。当時派遣されていた隊員の中でも、かなりの田舎村で、もちろん電気や水道はありません。赴任初日は、近所のアママがきてくれて私のキッチン(かまど)を煉瓦と土で一緒に作るところから生活がスタートしました。
不慣れな地での新生活にただでさえ不安を抱いていたのですが、真っ暗闇の中、小道をはさんだ外のトイレに行くたびに、何処からかきこえる動物の鳴き声や風の音にドキドキした夜を今でも思い出します。

数ヶ月するとルウェレジでの生活にも慣れ、私の活動も次第に忙しくなりました。毎週、配属先であるエイズ委員会のメンバー達と一緒に、徒歩や自転車で片道3~4時間かけて学校や遠方の地域をこまめに訪問していました。
ある日、疲れがどっと出た私は体調を崩し寝こんでしまいました。発熱のためベットから起きる気力もなく、一日中ゆっくり寝て休もうと思い、オフィスに行きませんでした。
熟睡しているとかすかに「オディ、オディ…オディ!」とだんだん大きくなっていく声が聞こえて目をさましました。頭がボーとしている中、ドアを開けると一緒に活動しているメンバーの一人が立っていました。「どうしたの?何かあった?」と質問すると、「ズガンボ(私のマラウイネーム)がマラリアになったと聞いてお見舞いに来たよ」とオフィスからすぐ来てくれたそうです。
マラリアではなくただの疲れによる発熱だったのですが、よく思い出してみると、同僚たちは発熱や倦怠感が強いと「今日はマラリアだから体調がいまいちだ」とマラリア=風邪のように言っていました。

数十分同僚と会話したのち帰られたので、さあ休息をとろうとするや否や、また「オディ」と訪問者がやってきました。その後も、同僚や近所の人たちが次から次へとやってきました。お見舞の品として、ファンタやビスケットを持参してくれた同僚もいました。結局その日は、来客の対応を繰り返し、ほとんど横になることができませんでした。
たしかに、頭はボーとして、何人もの訪問者に対応するのは相当辛かったですが、病の人々に寄り添うことを重要とする村の人々の習慣に触れることができ、心がとても穏やかになった1日でした。

活動の一つとしてエイズ患者さんの支援もしていましたが、医療の脆弱なルウェレジでは、当時治療することができず多くの方が亡くなっている状況でした。自宅訪問するたび感じたのは、寝込んで動けない人を一人にはさせない、家族だけではなく村の誰かが最期の時まで寄り添い、孤独な死を迎えること事がないように思いやっていたことです。

この体調不良時の体験と同僚達との活動を通して、尊い人の命に勝るものはないと改めて村の人たちから教えられました。14年前のルウェレジでの経験は、コロナ禍の中、保健師として働く今の私の基盤となっています。

【画像】

自転車で行けない地域に数時間かけて同僚と訪問

次回は、隊員のムードメーカーだったゾマシの体育隊員、平成16年度1次隊 川口純さんの思い出の一枚です。