思い出の一枚「喋る机」

2022年2月10日

名前:大西 寛
隊次:平成6年度1次隊(1994年7月~1996年7月)
職種:理数科教師
配属先:マガワ・セカンダリースクール
出身地:兵庫県太子町

「お前の机は本当に喋るのか!?」校長先生に真顔でそう尋ねられた時、私はまさしく背筋が凍りました。ことの発端は1996年3月に活動していた学校で魔術師騒動が起こったことでした。1カ月ほど前に転勤してきた会計係の職員が魔術師だという噂が生徒の間で広まり、騒ぎ立てたためこの職員は他校に再度異動していくという騒ぎがありました。この1週間後、同じ学校で活動していたピースコーのケンが家に来て教えてくれました。「マラウインアンの職員の中でMr.Onishiは魔術にかけられて毎日夕方になると自転車で家の周りをグルグル回り、机と喋っていると噂になっているぞ!」

会計士の職員の家の一番近くに私の家があり、私の行動は魔術でおかしくなっていると見られていたようです。迷惑な話なので校長先生の家に、抗議を兼ねて説明しに行きました。夕方に自転車に乗っているのは近くの高台まで行って美しい夕日を眺めるためで、毎日ではないしグルグル回ってはいない。喋っているのは机に置いてある無線で毎日行われていたJICAマラウイ事務所からの定期連絡を聞いているからだ、と。

私の説明を聞いた後に校長先生が発した言葉が冒頭のものでした。それまで私はチャンセラーカレッジを卒業した優等生で、理科の教師でもある校長は魔術を信じていないものと思っていました。それが違うことが分かって凍り付いたのです。そして周囲の誰もが信じている魔術師はここにはいる、ということを認識しました。驚きと焦りがまぜこぜで必死に説明を続ける私に校長先生は言ったのです。「落ち着け!会計士は学校にいなくなったからもう大丈夫だ!!」

当時の電化率は30%程だったので、田舎では夜になると周囲は真っ暗でした。村から時々聞こえてくるドラムの音以外は静かで、それこそいろんな摩訶不思議なものが住んでいそうでした。日本に戻ると、そんな感覚になれる場所がほとんどなく寂しさを感じました。今でもマラウイにはたくさん不思議が生息しているのだろうと、そう思っています。

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無線機は事務所からの貸与。パソコンは日本から持って行ったラップトップ型。OSはMS-DOS

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次回は、キリマンジャロ山ウフルピークで普通にチョコレートを食べていた(らしい)、平成5年度3次隊 蔵田團果さん(獣医師)の思い出の一枚です。