2022年3月24日
2021年9月16日(木)から、3回シリーズで、サイクロン・イダイで甚大な被害の出たベイラ市の大工さんや技術訓練学校の教員、およびベイラ市職員、計20名を対象に、木組み研修を開始しました。今回現地に導入する「木組み」技術は、日本の伝統的な工法で、釘や金物を使わず、木材に切り込みを入れ嵌め合わせる技術です。ARPOCでは、この木組み工法を、サイクロンで被災した魚市場の売り場再建に導入すべく、木組みによる屋台の加工・組立研修を実施しました。現地の人々が自力で加工し組み立て、将来的にサイクロンの接近が分かった時点で自力により解体・撤去し、サイクロンが去った後にはすぐに組み立て直すことで、魚市場全体を迅速に復興へ導く効果を期待しています。また、釘などを使わず、木材は再利用が可能なことから環境への影響にも配慮した技術です。
この日本の伝統的技術木組みは、研修でも「KIGUMI」として紹介され、現地普及を推進しています。
本研修では、組み立てと解体に優れ、環境にも優しい木組みという技術を現地の大工さんに習得してもらうことを目的としています。参加対象者はベイラ市で木工を生業とする大工さんおよび技術訓練学校の教員など、今後木組み技術を普及するに欠かせないベテランの方々、計20名です。3週間に渡って、週1回朝から夕方まで、日本の木組み職人とオンラインでつなぎ、遠隔で講義・指導を実施しました。研修では、魚市場の強靭化に貢献でき、かつ木組みの構造を理解しやすい「屋台」を取り扱いました。研修初日と2日目で、木材加工の練習をし、最終日に加工された木材で組立と解体を練習しました。本研修を開催するにあたっては、Praia Nova魚市場の関係者や周辺地域の木工職人、ベイラ市役所のメンバーで構成されるワーキンググループ(WG)にて、何カ月も前から検討・意見交換を重ね、準備を進めてきました。そもそも遠隔でどこまで身に着けられる研修ができるのか、内容の範囲と難易度、対象とする参加者はどんな人で、準備は何が必要かなど、非常に多くの議題がありましたが、WGメンバーの積極的な意見交換のおかげで実施にこぎつけることができました。
待ちに待った研修初日は、ベイラ市長からのお言葉や本研修の企画・計画を進めてくれたベイラ市商工課長からのお言葉もあり、現地メディアにまで取り上げてもらうなど、多くの方の注目と応援の中始まりました。
参加者も調査団側も経験のない遠隔での研修ということで、通訳のタイムラグが最小限になるよう初日は現地のローカルスタッフに進行をお願いし、事前に準備していたテキストや動画を活用し毎ステップ解説しながら進めました。研修2日目以降は、テキストや動画では伝わりきらない細かいテクニックなどを講師から直接伝えられるよう、ライブ配信を含めるなど、より双方向でのやり取りができるよう努めました。慣れない作業であるにも拘らず、休憩を後回しにするほどに参加者の参加意欲と集中力は高く、その姿勢に調査団側は圧倒されるばかりでした。
また、研修最終日には、ただ加工作業を練習し技術の習得を図るだけでなく、習得した木組み技術をどのように活用していくか、どのように普及できるかについて考え、議論する場を設けました。参加者側から出てきた意見に対し、調査団側からも質問や意見を投げかけるなど、双方向でのやりとりを意識したことで、遠隔でも参加者のモチベーションを高め、また今後の技術の展開の意識づけもできたのではないかと思います。
本研修の準備から実施まで、実に様々な障害がありました。言語の壁・識字率はもちろんのこと、現地のインターネットの不安定さや、関係者への限られた連絡手段など、連絡一つとるために毎度多くの問題に悩まされました。
中でも、遠隔研修中の臨機応変な対応が最も難しいと感じました。木組み技術の教材(テキスト、動画)作成にあたっては、WGメンバーに意見を聞きつつ、現地大工さんでも分かりやすい構成を心がけ、現地と日本でそれぞれに流通する木材や工具の違いなど配慮した内容にしていました。しかし研修本番では、現地木材の製材および工具の精度や、建築などの構造物の根幹である「部材の芯で考える」という考え方の違いなど、事前調査では把握できなかった点が浮彫になり、研修中に急遽研修内容を変更・追加するなどの対応が必要となりました。遠隔の状態では、こういった大事な相違に気づくにも時間がかかり、気づいてから調査団側でどこまでをその場で教え方向性を修正するか検討し、また最も効果的な教え方を考えつつ通訳や多角的な視点からのライブ配信を試みるなど、限られた時間、遠隔というハンデの中複雑な対応を迫られることになりました。本番での急な変更対応はつきものですが、遠隔でのそれはレベルが違うと痛感しました。
これを極力回避し、参加者に最も効果的・効率的な研修を実施するためには、参加者と調査団がどんなささいなことも話し合える関係を研修前や研修中にでも構築できることだと考えます。画面越しで話す言語も違う相手に対し、いかに距離を縮められるか、それが遠隔研修で問われるスキルだと気づくことができました。本来、現地に渡航できたなら容易に乗り越えられたものかもしれません。
自分が望むのは、木組み技術を現地の大工さんが習得し、それを生業にして行けることです。今回の研修参加者には、モザンビークにおける木組みの先駆者として、意識高く技術・知識を磨いていくと共に、将来的には自らの力でモザンビークの復興や強靭化に貢献していくことを願っています。