国際女性の日対談~第1回 美弥子所長が聞く~

2024.03.08

2024年3月1日に小林美弥子所長が新たにJICAラオス事務所に着任しました。専門家、職員、ボランティア等様々な関係者を通してJICAラオス事務所の取り組みについてご紹介します。

今回は「美弥子所長が聞く」の第1回目として、3月8日の国際女性の日にちなんで3名のJICA専門家からラオスにおけるJICA事業におけるジェンダー配慮における取り組みについて話を聞きました。

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参加者

長岡康雅専門家 (教育政策アドバイザー)
山本朋子専門家 (都市開発管理・促進能力強化プロジェクト)
菊池識乃専門家 (看護師・助産師継続教育制度整備プロジェクト)

※モデレーター:小林美弥子所長、スーサダー・パトゥムサイ職員

小林美弥子所長(以下、美弥子所長)

本日は、3月8日の国際女性デーにちなみ、JICAでの取り組みを各セクターの専門家にお聞きしたいと思います。まずは、ジェンダー平等及び女性のエンパワメントの意義と重要性について各種の調査結果を共有します。ILO(国際労働機関、2019)の報告によると、世界中で70か国、 13,000企業を調査した結果、経営層においてジェンダー多様性確保の努力をした企業は 10%から15%成長率が高いということが挙げられています。

また、貧困削減に関しては、世界銀行が2002年に出したレポートでは、女子が1年 長く初等教育を受けると、その子が将来得る収入が約10%から20%増加し、インドでは、地方自治体に女性の参加が促進されたことにより汚職が減り、 水と衛生、教育等への投資が優先的実施されたという事例(2012年)もあります。

ちなみに、世界経済フォーラムが公表している、「グローバルジェンダーギャップリポート」によると、ラオスはジェンダーギャップ指数が世界54位、日本は125位です。たしかにラオスは大臣、副大臣に女性の方が多い印象です。

他方で、数値に表れないジェンダーの問題もあると思います。そこでラオスの現状についてラオス事務所のナショナルスタッフであるスーサダーさんに実体験を伺いたいと思います。

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スーサダー・パトゥムサイ(ナショナルスタッフ)

数値に出ていないジェンダーの不平等について、個人の経験ですが、私は ラオスの地方のビエンチャン県の農家の家庭に生まれました。上の子は下の子の面倒を見る必要があり、兄3人、姉3人いますが、姉は中学校までしか進学できず、 兄は3人とも大学まで進学できたということがあり、ジェンダー不平等ではないかと感じました。他の村の家族を見ていても、家族の人数が多いので、男性が優先され、女性は学校に行けず、結果として女性は早く結婚する傾向があるように感じます。まだまだ 地方では女性の方が特に教育機会が限られていると実感します。

美弥子所長

ご家族の話も含めて、具体的なラオスの状況についてお話ありがとうございます。

それでは、三人の専門家から各分野におけるプロジェクトのジェンダーの現状・課題、それを踏まえたプロジェクトや事業の中でのジェンダーの工夫等についてお話いただけますか。

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長岡康雅専門家

ラオスには、8年在住しております。ジェンダー平等の阻害要因としては、スーサダーさんもおっしゃってましたが、家事手伝い、児童労働、風習、社会規範等が多い印象です。

JICA本部の教育セクターでは、毎年、「教育協力ウィーク」を行っています。この中の「ジェンダーと教育」の分科会では、アクセス、プロセス、結果、 この3つの観点に切り分けてジェンダーを分析しています。こういう切り口は、ジェンダーについて教育セクターを考るきっかけになると思います。

アクセス面については、女子は育児等でなかなか学校に通えない、そのための一般的には、奨学金提供、無償学校建設等の話は多いんですが、今1番大事なのは、学校で何を学び、その結果、卒業した後にいろんな機会を持つことが大事だということが議論されています。

それを受け、ラオスでは統計によると、初等教育の就学率、ジェンダーギャップ指数はほぼ達成されています。ただ、問題は前期中等教育における女子生徒の中退率です。

現場レベルでは、教育セクターで、どこにジェンダー主流化のポイントを持っていけばいいのか、日々考えているのですけが、これまでJICAでの具体的事例は、女子トイレの整備、研修への女性の参加、教科書の中身のジェンダー配慮等です。

グッドプラクティスとして、ラオスのセクター・ワーキンググループでは、テーマ別にワーキンググループを作られており、インクルーシブ教育のグループもあり、障害者等も含めた議論を実施しています。

ここは多分1番ポイントだと思うんですけども、男性が変わらないと何も進まないんじゃないかと。 日々日常の中でジェンダーの話題について 触れて、できれば議論していくことが大事だなと思っています。

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菊池識乃専門家

私は元々看護師でして、昨年末までは看護師助産師を中心にした保健人材の免許制度を創設する「ラオス持続可能な保健人材開発・質保証制度整備プロジェクト」に2年半ほど関わり、そして現在、それに続くプロジェクトとして、免許を取った看護師助産師に対する継続教育の制度を創設するプロジェクトに参画しています。

保健分野のジェンダーの現状について、WHOによると、世界の看護職の9割が女性です。 一方で地域差があり、特に女性の割合が高いのが日本、ラオス等をはじめとする西太平洋地域、女性が約95%と 言われています。最も女性の割合が低いと言われているのがアフリカ地域 で、平均で4分の1が男性であり、男性の看護師の方が多いという国もあります。日本やラオスにいる感覚からすると、珍しいという風に感じるかもしれません。

看護職を含め保健医療専門職と言われているのは、医師、歯科医師等含め様々な職種がありますが、その中で看護職の割合は世界平均で約6割と言われています。保健医療従事者の6割 が看護師、その9割は女性というのが世界平均です。保健医療分野、看護職もそうですが、女性がオープンになっている分野と言えると考えており、ラオスも同じような傾向であると考えます。

その中で、ジェンダー格差として、リーダー人材、マネージメントのポジションにある人の男女比というところに注目しました。WHOによると、世界でも保健分野のリーダー人材は男性が担っていることが多く、 女性は約25パーセントにとどまっています。女性にとっては「ガラスの天井」が存在し、男性にとっては「ガラスのエレベーター」に乗れるというのが現状です。

ラオスの保健人材については、管理職全体では男女比ほぼ半々ぐらいになっていますが、等級が高くなるほどやはり男性の割合が圧倒的に多く、ハイレベルの意思決定の権限は男性に委ねられていると感じました。

あともう1つ課題として、看護師の男女比そのもの、男性看護師が少ないことがあると思います。保健医療・看護の対象となる方は、性差に限らず様々な方がいらっしゃる中、保健医療を必要とする全ての方が支出可能な価格で受けられることを目指しているUHC(Universal Health Coverage) の視点においても、看護師が一つの性に偏った形ではない集団としてケアを提供できると、安心して保健医療にアクセスできる人が増えるかもしれません。 

保健プロジェクトとして、圧倒的に女性が多い看護職を主な対象にしていますので、プロジェクトの活動そのものが女性のエンパワメントに繋がっています。ラオスでは女性の看護職が、保健省内では要職である局長、 副局長クラス等に就いており、中央の病院では副院長に昇進しています。このような女性のエンパワメント等の活動はラオスで進んでおり、日本も学ばなければいけないところかなと感じています。

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山本朋子専門家

都市開発セクターは菊池さんとは逆で、 建設業は世界的にも女性技術者の数は少なく、日本では1割以下という数字もあります。私自身これまでマイノリティーとして働いてきた中で、ラオスはとても働きやすい環境だと感じています。カウンターパートである公共事業運輸省には女性管理職や、女性技術者が比較的多く、気軽に相談しやすい環境です。

都市開発の分野でも、女性は当然対象者であり、女性への配慮が必要です。その中で、女性の土地所有権が制限されている、公衆衛生の不備により健康面で女性に負担がかかっている、災害に対して女性が脆弱な立場になってしまう等の課題があります。公共空間としてアクセスの制限がある女性は、ジェンダーに基づく暴力を受けるリスクが高い等の事例も挙げられます。

まちづくりではいろんな人の声を聞く機会がありますが、「サイレント・マジョリティー」という声を上げない大多数の人々の声をどう救い取るかという課題があります。「都市開発管理・促進能力強化プロジェクト」で住民ワークショップ等を開いており、住民の声を聞く際は、世代間、男女比に 配慮し、工夫しています。

都市空間は実は女性の方にも多く使われています。男性は朝晩通勤してオフィスにいることが多い一方、女性は日中買い物し、子どもと公共交通機関を利用することも多い中、配慮が行き届いてない部分も多いと思います。まちづくりに女性の声を積極的に吸い上げていく努力をこれまで以上にやっていきたいと考えています。

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美弥子所長

男女だけではなく、少数民族や障害者等を含め「インクルージョン&ダイバーシティ」の観点を持つことが重要ですが、他方、この美しい言葉を使うと具体的には誰のための対策か見えなくなる懸念もあります。以前、バングラデシュで識字教育の案件に関わった際、当初女性は参加に否定的でしたが、徐々に字を覚え、算数を学ぶという機会を通し、 『自分自身、人間としての尊厳を取り戻した』との女性たちの声を今も覚えています。 一人ひとりが、性別にとらわれず、人間としての尊厳をもって、それぞれの 能力が実現できる社会を目指し、一人ひとり に目を向けていくことが大事だなと改めて思いました。本日はありがとうございました。

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