地方行政制度改善プロジェクト

背景と目的

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プロジェクトが支援した地方自治体職員研修所

パレスチナでは1994年の暫定自治政府発足後、将来的な国家独立と自立的な行財政運営に向け、地方自治法の制定(1997年)や地方選挙の段階的実施(2004年)など、地方自治制度の整備と地方分権化を推進してきました。しかし、自治政府発足後、480以上の小規模な基礎的自治体(市、村などの最小行政単位、Local Government Unit:LGU)が急速に整備されたものの行財政面での機能が十分ではありません。

加えて、2000年に勃発したインティファーダ(民衆蜂起)の結果、地方財政は更に悪化しました。LGUの60%以上は自主財源も持たず、行財政上の自主性・自立性は著しく低下していました。

このような背景から、地方行政を強化するための地方財政政策と広域行政戦略を作成し、これらを実施するための基盤を整備することを目的として、プロジェクトが開始されました。

事業概要

  • 協力期間:2005年9月1日〜2010年12月31日(プロジェクト)
  • プロジェクトサイト:ラマッラ、ジェリコ、ヨルダン渓谷(パイロット事業)
  • 実施機関:パレスチナ地方自治庁(Ministry of Local Government : MoLG)

1.地方財政政策支援

地方自治体の財政状況の改善のため、地方財政政策の策定を支援しました。まずMoLG幹部や地方自治体首長を日本での研修に招聘して彼ら自身が問題分析を行い政策案を作り、その後プロジェクトの専門家とMoLGとで、パレスチナにて政策案の精緻化にあたりました。

完成した政策には、財務分権化のための法令改善、税金・手数料等の再整理を通した自治体歳入の充実化、自治体の財務管理能力の向上等が盛り込まれています。

この政策はMoLGに承認され、また主要な各ドナーや関係省庁にも共有されています。今後はMoLGが中心となり関連省庁と連携しながら実施に向けた協議が進められる予定です。

2.広域行政JC戦略策定支援

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ヨルダン渓谷コミュニティを対象とした啓発活動

パレスチナでは、小規模自治体が結集して組織する「自治体連合(JC)」が行政サービスを行っています。本プロジェクトでは地方財政に加え、JCが広域に展開すべき行政サービスについても戦略策定を支援しました。

また、ヨルダン渓谷地域がパイロット地域として選定され、JICA専門家の協力のもと、JC毎のコミュニティ・ニーズに根ざした「地域開発計画」が作成されました。これに基づき、各JCにおいてはコミュニティ・ホールを建設する等のパイロット事業が実施され、地域住民へのサービス実施場所が提供されました。これらJC毎の試験的な試みを通じ、JCがコミュニティに公共サービスを提供していく上での課題や教訓が抽出され、これらと共にJC戦略を策定しました。MoLGもこれを承認し、現在は戦略の普及や他の政策との調整を行っています。

また、パイロット事業の実施が、わが国の他のプロジェクト形成(コミュニティ開発無償資金協力や草の根・人間の安全保障無償資金協力)にも繋がっています。

3.地方行政に関わる人材への研修の実施体制強化

市町村の職員など、地方行政に関わる人材のニーズに沿った能力強化のための研修をMoLGが実施できるよう、研修施設の設立支援を実施しました。これに加え、同施設の運営改善、研修カリキュラムの策定、研修指導員の養成などを行い、MoLG職員10名の講師が自ら研修を行うことが出来るようになりました。

事業ハイライト

公共バスの運営

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ジフトリック〜ジェリコ区間を走る公共バス

地方行政制度改善プロジェクトで実施したパイロット事業として、C地区にあるジフトリック村からジェリコまでの公共バスの運営が開始された。それまで公共交通がなく、ジェリコへの通勤・通学にはいつ来るか分からないタクシーを待つしかなく、幹線道路で3時間待つことも少なくなかった。

ジフトリック村の村長でバス事業会社の責任者でもあるカッサーブ氏は「バスが走るようになって、ジェリコで働く人、勉強する学生が増えた。これまで、女性や学生、子供は何時間もタクシーを待っている間には恐い思いをすることもあったが、公共バスによって村の人々が安全に、時間通りに通勤・通学できるようになってうれしい」と語る。

バス事業は運営状況も良好で、これからも人々に安全な移動手段を提供し続けるという。