持続的農業技術確立のための普及システム強化

背景と目的

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問題分析ワークショップの様子

ヨルダン川西岸地区東部のヨルダン渓谷地域は、農業が基幹産業で、労働人口の7割が従事しています。

しかし、JICAが実施した調査結果から、この地域では、農家の技術レベルが充分でないこと、水管理が不徹底であること、肥料・農薬が不足しており高価格であることなどの問題点が指摘されました。また、パレスチナでは、農業技術の普及を担う農業庁普及・地域開発局と、研究機関である農業研究所の相互の連携が充分ではないこと、さらに、農家のニーズがこれら関係機関によって十分に把握されていないことも分かりました。

このような背景から、まず、農業技術の研究能力を高めること、研究成果を普及活動によって農家へ広めていくこと、そして研究と普及との連携を実現するための体制基盤を整えることを目的とし、本プロジェクトが実施されました。

事業概要

  • 協力期間:2007年3月31日〜2010年3月30日
  • プロジェクトサイト:ジェリコ及びヨルダン渓谷地域
  • 実施機関:パレスチナ農業庁普及・地域開発局、農業研究所(NARC)

1.参加型研究の実践

農業技術レベルの向上や、地域に合った農業のためには、試験研究活動が欠かせません。そのために、農業技術の試験研究を担っている農業研究所の研究者の能力向上を目指しました。具体的には、普及員、農民を取り込んだ参加型農業研究普及手法を導入しました。この手法を基に、循環型の農業技術や、節水農業、環境配慮型の技術について圃場レベルでの適応性試験を実践しました。また、接木技術導入や、新品種の検討などもこの参加型研究普及手法をとおして導入され、研究者の能力向上につながりました。

2.普及員の能力向上

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接木苗研修

適正技術やシステムを、農家に普及し、実践していくことが重要です。本プロジェクトでは、農業庁普及・地域開発局と県農業局の普及員の能力向上のために、農業技術やその普及のための教材やガイドラインを改良し、それらを基に様々な研修・技術訓練を行いました。延べ280人の普及員が普及技術研修や、地域に合った栽培方法について、日本人専門家から指導を受けました。例えば苗の生産業者へは、接木(つぎき)苗生産に係る技術移転を行いました。

研修を受けた普及員たちは、デモファームの運営などOJTの手法によって実践の経験を積みました。

3.小規模農家によるデモファーム運営支援

研究・普及の制度・基盤整備を、実践を通じてより確実にするため、参加型農業研究普及手法によって農業研究・普及関係者が農家と連携して運営する5つのデモファームを設置しました。運営を行っていく中で、研究者と普及員とが連携して農家のニーズや課題を明らかにし、栽培方法の改善や新品種の導入を図りました。

この結果、デモファームは農業技術の参加型研究・普及のプラットフォームとして機能し、この手法を積極的に活用していくことが確認されました。

事業ハイライト

スイカの復活

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接木接ぎ木苗の生育状況について農家に指導する日本人専門家と農業庁職員苗研修

かつて、スイカはパレスチナにおける主要な農産物のひとつであったが、病害虫の発生により、一度はパレスチナ産のスイカは市場から消えた。以来、イスラエル製の安価なスイカが市場に出回り、パレスチナではイスラエル産のスイカに依存するようになった。

プロジェクトで紹介されたスイカの接ぎ木苗は、病害虫に強く、苗を導入した農家はかつてのような品質の良いスイカを収穫できるようになった。パレスチナ産のスイカの復活である。