パナマでのJICA協力隊活動を通して

2021年10月13日

2018年3次隊 三尾 裕樹

私はJICA海外協力隊、防災・災害対策隊員としてパナマに派遣されMEDUCAに所属しチリキ県、ボカスデルトロ県で約1年2ヶ月現地職員と共に防災教育を行ってきました。
私が政府から要請された主な任務は、学校を巡回し生徒や教師に対して防災指導をすることでした。活動を始めるにあたって最初にパナマの防災手法を知る必要があると考え、学校の避難訓練を見学し日本との違いを観察しました。
避難手順は日本で行われているのと大きな違いはなく、とても効率的に素早く避難しており驚きました。その中で一つ興味深いものを見ました、パナマでは避難後すぐに人員確認や負傷者の有無を確認するのではなく、生徒が手をつなぎ輪になり歌を歌っていた。これは子供たちの不安や恐れる心を落ち着かせる為にしており、この様な精神面での対策は日本にはなかった行為なので実施する際優先順位は最後になるが取り入れるべきだと思いました。
このように任国で活動していくにつれパナマの防災を少しずつ理解していきました。
約3ヶ月間、様々な地域を訪問し活動を始めるにあたっての情報収集をして、日本と比べ自然災害が少ないパナマであるが防災意識が高いと感心すると同時に、首都とのインフラ整備の格差が大きい地方で、現状の防災対策をさらに強固なものにできると思った点がソフト面対策とハード面対策でそれぞれありました。
まずソフト面対策では「住民間の近隣コミュニティ組織」を創設することで現状の災害対策をより強固なものにすると感じました。
日本には、各地域を分けたグループ「町内会」という近隣住民によるコミュニティ組織があり、この町内会には地域全体の諸問題を皆で解決していく多様な役割がありますが、災害発生時がこの組織の力が最も発揮される時だと個人的に思います。
なぜなら、災害のような個人や家庭内では対応できないことでも、人員が集まる事で問題を乗り越えることができるからです。
日本の場合、大災害時、要救助者を地域住民が救出した割合は全体の約8割、残り2割は自衛隊や消防などの公共機関や通行人でした。
この違いは公共機関が救助活動を開始するまでに寸断された被災地までの道を越えるだけでなく、現場到着後、情報収取、安全確認や後方支援(補給)などの活動に必要な環境を整える必要があるため最短でも2日を要します。一方、地域住民たちは地域の状況を完全に把握しており、町有の防災器具を使用し人員さえ集まれば即応できる体制がとられているからです。この様に災害時に即応できる地域コミュニティ組織を、都市部から離れた災害時に隔離される可能性のある地域(例えばボカス、ノベブグレ自治区)などから創設することで、防災対応力が格段に向上すると思いました。
そしてハード面対策では、自然が豊かなパナマの特徴を利用する事ができると考えました。
農村部や国境を隔てる河川で多発する氾濫対策として、岸沿いに根の強い木を植林することで濁流に川淵が削られ堤防決壊するのを防ぐことができます。実際日本では、防災林として至る所にあります、また水防工法として危険個所に木の枝を設置し決壊を防ぐ昔からの防災技術があります。このように自然の力を利用した防災は日本では古来より取り入れられており様々な水害を回避してきた実績があるためパナマでも効果的だと思いました。

これら2点をパナマでの活動目標とし実現すべく、最初にソフト面対策に取り組みました。地域コミュニティ防災は災害時、まず自分たちの身を守り安全を確保しないと機能しません。そのため巡回防災指導では様々な災害時での身の守り方を指導しました。2年目に地域コミュニティ防災を地域住民に紹介するとともに創設に向けた活動も計画しておりました。
ハード面対策は大きなコストかけずに自然環境に配慮した対策ができるという点があり、ボランティア活動でも取り組めると感じたためこれら実現に向けてのきっかけづくりや具体的な計画をカウンターパートと相談しすすめていこうと考えていました。
しかし、コロナウイルスの世界的な感染拡大により残り任期約1年を残し日本へ緊急帰国となり私の活動は終了しました。
この経験を通して私は、2年間の任期を想定した計画的な活動ではなく、短期完結型の活動を重視し毎日確実にパナマ人へ技術を残していくべきだったと感じました。
帰国後、私の任地であったボカスデルトロがハリケーン被害を受けた事を知り、肝心な時に自分が何もできない事がとても辛く、パナマの人々に申し訳なく思いました。
私はパナマに技術協力し援助するために派遣されたにもかかわらず、逆に私がパナマ人に助けられたことの方が多かったと思います。
パナマの防災対策、パナマ人への恩返しをしないまま終わるわけにはいきません。
私の人生にもう一度チャンスができたらパナマに戻り今度こそ防災対策で貢献したいと思います。

【画像】