食文化の理解と食教育-食べることは生きること-

2019年10月18日

2017年度3次隊 大塚 歩美
所属:マルカラ町保健センター
職種:栄養士

背景

ペルー全土における3歳以下の約40%が貧血と言われている。日本の3倍の面積を所持し、海岸・山岳・アマゾン地域と同じ国であっても生活環境が全く異なることにより食べられている食事も異なる。私が配置になったアンカシュ州の地区はアンデス山脈が連なる氷河のある白い山脈と氷河のない黒い山脈の間にある山に囲まれた標高約3000mに位置する山岳地域である。地区は1本の国道で繋がれており、道沿いに町が点在している。町に居れば比較的不自由することはないが、町から離れアクセスの悪い山の上に住んでいる人々も多くいる。そのため小さな診療所は点在しているが、アクセスが悪いため病院に来ず、健康状態の把握が難しい等が問題となっていた。貧血対策は国が政策を出しているが、対策は一過性のものになっており課題も多い。

ペルーはキヌアやアボカド、ハーブなどといった栄養豊富な食材が数多く存在し、食文化も奥深い。特にジャガイモのイモ類やトウモロコシはバラエティ豊かで昔から食べられてきた食材でありペルーの食には欠かせない。そんな食習慣は一回の食事で芋類・米・穀類やトウモロコシと言った炭水化物に偏り、微量元素であるビタミン・ミネラルを含む野菜の摂取量が少ない。砂糖・塩や油を大量に使用する調理法・文化であり栄養バランス不良・エネルギー過剰であるが栄養の質が悪いことによる栄養不良や貧血問題の一要因となっている。生活習慣病も同様であるが、大きな病院や首都でないと精密な血液検査が出来ず、地方では適切な診断そして治療は難しいのが現状だ。そのため住民は病気に対する予防意識は漠然とはあるが、危機感はなく行動が伴わないのが実情である。

また、その背景のひとつとして教育施設や必要な場所に栄養士は居らず、地域の母親たちが交代で調理し栄養バランスが偏った給食が提供されているところが多い。給食の栄養教育をされてきていないため、食習慣の形成は全て親次第になってしまっているのが現状だ。そのため、なぜ栄養が重要であるかは教育されず、好きなものだけを食べ野菜嫌いする子も多い。所属先にも現地栄養士は居らず、栄養指導等は同僚による簡素指導に限られてしまっていた。

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街からアンデス山脈を目の前に見ることができる。

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地域学校の給食。炭水化物の過剰な料理が主流。

課題ならびに目標

  • 国の貧血対策として鉄分の多い食品の摂取や栄養剤の配給などが主となっており、栄養バランスといった基盤づくりの浸透がなっていない状態であった。そのため基礎となる栄養バランスよく食べる習慣作りを目標とした。
  • 食習慣の形成には食教育が重要であるが現状食教育をされる機会がない。そのため教育施設での給食内容の見直し、地産地消の強化に取り組むこととした。子供達に栄養について学習してもらう食育の機会を設けることとした。

活動の介入内容

1年目は主に1.での活動であったが、2年目より2. 3.にて食育活動を中心に活動した。

  1. マルカラ町保健センター並び近隣コミュニティ
    • 同僚と共にコミュニティや地域住民への疾患、貧血予防啓発活動として栄養教室の実施。
    • 同僚と保健センターに来ない住民に対し山岳地域の自宅へ往診と指導。
    • 地域の教育施設にて子供達に向けて出張栄養教室の実施や給食室で調理者に対する指導の給食内容の改善実施。
    • 保健センターの管轄内5つの保健所で栄養教室の実施。
  2. 学童保育・高齢者デイサービス施設
    • 給食提供にて、炭水化物の過剰な重複の回避ならびに野菜が入るメニューへ変更。バランスを整えることを最重要視。
      またここで多く生産されている、クイ、チョチョ、クシュロ、キヌア等を使用した食材をメニューに取り入れる地産地消活動。
    • 子供達への食育の講座、給食メニューでの栄養バランスの理解、給食配膳下膳時の挨拶やお礼などといった社会性マナーを身に付ける教養。掲示物の設置、定期的に栄養に関するテストにて理解度の確認。
    • 両親に向けた栄養豊富食材を使用したおかし作り教室の実施。
    • デイサービスに通う高齢者達に歯磨きや衛生指導の実施。
  3. 特別支援学校
    • 保護者に向けて栄養教室の実施。
    • 身体計測、ヘモグロビンの把握による栄養状態不良の子の抽出、摂取状況の把握。

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集団栄養指導でのワークショップ

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バランスのとれた給食へ試行錯誤しながら改善中

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栄養に関するテスト

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栄養教育活動

活動の介入結果

  1. 数値測定が難しいため、結果に結びついたかは定かではないが、住民や子供たちが知らなかった情報・知識であり幅広い世代への栄養に関する必要性や知識の共有に繋がった。継続的にコミュニティへ集団指導を行ったことにより知識が深まった(初回介入時よりも栄養に関する問いかけに答えられるようになった)。学校給食で野菜をつけるメニューが増えた。
  2. 栄養バランスを整えるメニューへの変更。しかし食育がされてこなかった為に野菜嫌いする子も多くおり、また調理側も野菜が食べ残しをされる為に野菜は基本、すり潰ぶしたスープで提供し固形物での提供を拒んでいた。子どもたちへ食育の強化と調理側への理解、少量ずつ固形物の野菜で提供し食教育、今まで通りのすり潰した野菜スープでも提供継続しながら野菜の提供をアセスメントし、現地食材も取り入れたメニューの導入と合わせ同僚と共にメニュー改善を重ねている。
    児童が給食時での挨拶やお礼が促さなくても身についてきた事、それを見ていた同僚も子供達に声かけをしてくれるようになった事。
    テストや給食時での問題提示の正答率が上がってきたことによる理解度の上昇。現地食材への関心、興味の上昇。
  3. 保護者や同僚に栄養教育ができ、意見交換の場となった。栄養不良のリスクがある子を洗い出したことにより、焦点を絞りサポートを継続している。

JICAボランティアとしての学び

異国の地で2年間現地の人々と暮らし活動すること自体が大きな学びと忍耐、そして障害を乗り越えて行く力を養う期間であったと思います。これは長期に滞在して問題と向き合わないと出来ない経験だと思うのでJICAボランティアでの学びは大きいです。
特に活動は現地栄養士が居なかった為、栄養指導の基本となる食事調査だけでもペルー料理や習慣を理解するのに時間を要し苦労しました。ですが、国が違っても共通していたのが、食べることは生きること、そして心身を豊かにするものであり、生活の主となるものであると再確認出来ました。
大人になって形成された食習慣を変えることは容易ではありません。だからこそ自身の食習慣を認め受け入れ、個々が少しずつでも知識を備え、自ら行動変容に持って行くようにサポートすることを最優先として考えました。これは日本で働いていた際も心がけていたことだったので、異国でも少数ですが共通して出来たことは自分の中でも大きな収穫でもありました。本来であればもっと目に見えた結果が求められるかもしれませんが、2年だけの活動では中々難しいということも身をもって痛感しました。ですので、誰か一人でも心の片隅でも伝えたことが残ってくれていればそれでもいいのではないかと思えるようになりました。CP、現地栄養士が周りにいないこともあり、活動は私主体でやることが多く、自分がやる事に意味があるのかと思っていましたが、信念を持って活動していれば、いつのまにか見て興味を持って協力してくれる人が周りに居るということ。言葉でうまく伝えられなくても行動に示していくことが協力者を生み出していくことが出来るのだと感じることもできました。

また教育としてバランスのとれた食習慣が身につくように食教育していくことが、将来無理なく健康な身体づくりへと繋がり、またそれを自分の子供達へ伝えていくことが長期的な病気の予防へと繋がると考え、2年目は思い切って食育を主とした活動場所へ移行し、自分がやりたいと思っていた活動を形に出来た事で行動してよかったと思いました。ただやはり食教育は親の影響力も大きい為、子供の教育だけでは不十分であること。今後の課題も見つけることもできました。

今後への願い

ペルーは栄養・食教育の機会がないため、教育施設であってもお菓子や好きなものだけ食べられる現状です。上記にも記載した通り、人の習慣を変えるのは容易ではありません。習慣が形成される子供の時に正しい食習慣を身に付けることが将来の病気の予防に繋がって行くと考えます。その為、教育施設で食教育を受けるシステムや必要な施設に現地栄養士が配置されるようになってもらえたら今後ペルーの食習慣も良いところは残しつつ、健康な食習慣へと変化していくのではないかと思います。もちろん親の影響力は大きいため、その教育も必要であると思いますが、日本も同様に中々難しいのが現状です。
ペルーは恵まれた現地食材が数多くあります。その食材を現地の人たちが誇りを持ってこれからも地産地消としていって欲しいと思います。

任期も残りわずかですが、任期満了まで今の活動を続け、現地職員により継続していってもらえるようにしていきたいです。また、この2年間の経験を生かし、食を楽しむと共に病気を予防できるような食育活動を通して、健康寿命増進に関わっていけたらと思っています。