プロジェクト通信(第6号)コミュニティ主体の沿岸資源管理・利用による生計向上のためのアドバイザー

2020年9月15日

飯沼光生(アイ・シー・ネット株式会社 シニアコンサルタント)

新型コロナウィルスの影響で、2020年3月末に現地業務の継続を中断して、やむなく緊急帰国いたしました。その後、他のJICA専門家やボランティアと同じく、日本で待機しながら、現地業務の再開に備えています。なかなか現地業務の再開の見通しが立たない状況ですが、幸いにもソロモン諸島国内ではコロナウィルスの感染者は未だ報告されていません。早期にソロモン諸島の現場に復帰して、残された現地業務にあたりたいと思います。

今回は遅ればせながら、昨年後半に実施しました「バヌアツ-ソロモン諸島間の技術交換プログラム」についてご紹介いたしたいと思います。2019年10月29日から11月4日までの1週間に、豊かな前浜プロジェクトに従事するバヌアツ水産局職員3名と日本人専門家1名(総括の世古明也氏)がホニアラを訪問して、ソロモン諸島側の関係者とのコミュニティ主体の資源管理(CBRM:Community-based Resource Management)に関する技術交換を行いました。また、バヌアツチームの訪問に合わせて、CBRM経験共有セミナーの開催、パイロット活動サイトのティアロ湾へのスタディツアーなどを実施しました。

第2回CBRM経験共有セミナーの開催

ソロモン諸島漁業省とJICAが取り組んでいる、生計向上活動と資源管理活動を組み合わせた「統合型CBRMアプローチ」のパイロット事業の中間報告と、バヌアツ豊かな前浜プロジェクトの進捗報告を目的として、10月31日にホニアラにて「第2回CBRM経験共有セミナー」を開催いたしました。ソロモン諸島のCBRMプログラムに係わる、漁業省、NGO(WWF、World Visionなど)、関連省庁(環境省、森林省、観光局など)、国際機関(UNDP、FFAなど)、パイロット活動対象のコミュニティなどの代表者約50名が当セミナーに出席いたしました。
当方からの漁業省・JICAの活動報告に加えて、他の関係機関からもCBRM活動の進捗状況を発表して頂き、ソロモン諸島全体でのCBRM推進に向けた活動連携について意見交換しました。ソロモン諸島のCBRMに取り組む上で、海域と陸域の両方の自然資源を統合的に管理・利用するアプローチが重要です。今回のセミナーでは、有機農業普及に取り組むNGO(Kastom Gaden)やJICA森林管理プロジェクトから、陸域の資源管理・利用の取り組みや考え方を発表して頂きました。
さらに、技術交換の一環として、訪問中のバヌアツチームから、バヌアツでのCBRMの取り組みを発表して、ソロモン諸島の関係者とのCBRMに関する経験共有や意見交換も行いました。

バヌアツチームのティアロ湾コミュニティの訪問

漁業省とJICAの協力事業として、2018年からガダルカナル州西部のティアロ湾にて、統合型CBRMアプローチのパイロット事業を実施しています。バヌアツ水産局チームは、11月1日から2日までの一泊二日で、ティアロ湾を訪問・滞在して、コミュニティ住民とCBRMに関する意見を交換しました。また、ティアロ湾に実施中の、ソーラー冷蔵庫による漁獲魚の流通促進や、女性グループによる裏庭栽培(バックヤードガーデニング)活動、海洋保護区(MPA)内のタカセガイ資源のモニタリングなど、実際の活動現場を訪問しながら、コミュニティ主体の資源管理の取り組みについても学んで頂きました。
ティアロ湾コミュニティは、共同で保全する湾内サンゴ礁の水産資源を活かして、積極的に海外の観光客に受け入れに取り組みたいと考えています。今回のバヌアツチームの訪問は、将来の観光客受け入れのリハーサルとして、コミュニティの伝統ダンスの披露、現地の産物を活かした料理の提供、設営したばかりのゲストハウスの利用など、現地リソースを活用した観光事業を実践してみました。ティアロ湾は首都ホニアラからボートで2時間ほどと、位置的には首都から遠距離ではありませんが、陸路が繋がっていません。そのため、海外の客人が訪れる機会はほとんどありません。今回は、海外の客人と触れあう良い機会になり、CBRM活動の紹介を通じて、コミュニティ関係者が自らの取り組みに自信を得て頂いたように思います。

実は今年3月に、漁業省職員、マライタ州の漁業普及員、ティアロ湾の資源管理委員長を連れてバヌアツを訪問して、今度はソロモン諸島側の関係者が、バヌアツで実践中のCBRM活動を学んでもらう計画でした。残念ながら、コロナウィルスの感染拡大により、この技術交換プログラムは中止せざるを得ませんでした。現地業務を再開しましたら、このプログラムも再調整したいと考えています。
コロナウィルス感染は徐々に収束してきたと感じています。ソロモン諸島のカウンターパートは3月から地方出張を自粛していましたが、先月8月から地方出張を再開しています。来年、2021年の早い時期には、JICA専門家やボランティアの再派遣が実現になることを希望しています。その日に備えて、日本で準備・対応できることを、こつこつと進めていきたいと思います。

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第2回CBRM経験共有セミナーにて、漁業省カウンターパートのCBRM課長のピーター・ケニロエラ氏が、漁業省のCBRM推進の取り組みについて発表した。

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CBRM経験共有セミナーには、漁業省、JICAだけでなく、関連省庁、国際機関、NGOなどから、計50人が参加した。

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バヌアツ水産局の漁業開発課長代理のジョージ・アモス氏より、豊かな前浜プロジェクト・フェーズ3の取り組みについて発表した。

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CBRM経験共有セミナーの参加者の全体写真

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バヌアツチームはティアロ湾を訪問・滞在して、CBRM活動経験を意見交換した。コミュニティから大歓迎を受けた。

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ティアロ湾コミュニティの女性グループは、バヌアツチーム歓迎として、伝統ダンスを披露した。

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ボートでティアロ湾内を移動して、浮き魚礁(FAD)、ソーラー冷蔵庫、裏庭栽培のモデル圃場など、統合型CBRM活動サイトを視察した。

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バヌアツチームは、ティアロ湾コミュニティと積極的に意見交換して、お互いにCBRMの取り組みを学び合った。