2011年7月の独立当時、世界で一番新しい国として注目を集めた南スーダン共和国ですが、その後の国づくりのプロセスは一筋縄では行かず、国としての飛躍はいまだ果たせていません。
南スーダンは、60超の民族で構成されるとされており、英語を公用語に据えてはいるものの、私の前任地であるタンザニア(スワヒリ語)やルワンダ(キニヤルワンダ語)のように一定比率の国民に通じるローカル言語が無く、それだけでも統一的な国づくりに難しさがあります。
独立後、2013年、2016年の国内騒乱を経て、2018年には再活性化された衝突解決合意(R-ARCSS、以下、「和平合意」)が取りまとめられました。その後、和平合意に基づく権力分有体制のもとで暫定的な政権運営が行われていますが、2025年2月に南スーダン北部で発生した武力衝突を皮切りに党派間対立が先鋭化し、同3月には第一副大統領が自宅軟禁されるに至りました。その後も地方部の各地で国軍と反主流派との武力衝突が頻発している状況です。
一方、和平合意でも明記されている国政選挙は、数度の延期を経て、現在の予定では2026年12月に行われることになっていますが、憲法制定や有権者登録など、選挙の前に実施すべき対応事項は順調に進んでいるとは言えず、また選挙実施に必要な予算も十分に確保されているとは言えない状況です。
そのような南スーダンに対してJICAは、独立以前からスーダン共和国への支援の一環として、南部スーダン地域への各種協力事業を展開していました。
産声を上げて15年足らずの若い国には多くの開発課題があり、JICAの協力は広範囲にわたります。
何より開発の礎となるべき国の安定が不可欠であるため、平和と安定につながる取り組みとして、地雷対策への支援や、独立後最初の選挙が公正に行われるための選挙管理委員会への支援、広く国民に公平な情報が提供されるためのメディアへの支援を実施しています。
また、国民の社会生活改善のため、教育や保健、女性の社会進出を支援する取り組みを行っている他、上水整備や廃棄物管理に関する施設や機材の整備、それらを効果的に活用するための技術的支援も実施しています。
さらに、経済活動の基礎となるナイル川をまたぐ橋梁建設(Freedom Bridge)や首都ジュバ市内道路にかかる橋梁の改修、南スーダンの物流において重要な役割を果たす河川物流の基礎インフラである河川港の建設支援と共に、これら施設を持続的に維持管理するための技術協力や貿易円滑化にもつながる税関能力を強化するための支援を行っています。加えて、農業適地としての潜在性を活かし、輸入農産物を代替するとともに農業への従事者の収入向上につながる農業分野の支援もJICAの支援重点分野の一つです。
なお、比較的治安情勢が安定している首都ジュバに比し、地方部では武力衝突が頻発するなど情勢に懸念があるため、日本人の渡航は制限されています。しかし、開発ニーズは首都ジュバ以外の地域でも同様、あるいはそれ以上に存在します。JICA南スーダン事務所としては、南スーダン人材や国連機関等と連携することにより、地方部の平和と安定、社会経済開発にも貢献して、広く南スーダン国民のより良い生活と、日本と南スーダンの人々の友好関係強化と信頼関係の構築に貢献していきたいと思います。
2025年8月
JICA南スーダン事務所長
丸尾 信
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