所長あいさつ

南スーダン共和国はアフリカ東部、ナイル川上流域に位置する内陸国です。国土は日本の約1.7倍、人口は約1200万人とされ、60を超える民族が居住しています。

国土の中央部には、白ナイル川を中心とする世界有数の大規模な湿原地帯"スッド"があります。その面積は、雨季には10万㎢ほど、日本で言えば本州の半分に近い大きさに至ります。このスッドのため、南部スーダンへの外部からのアクセスは容易ではなく、この地への外部の人々の介入が始まったのは、他のアフリカ地域よりも遅い、19世紀以降とされています。一方、この湿原地帯を始め、熱帯雨林やサバンナなど、南スーダンには貴重な大自然が残され、そこに住む様々な民族も、それぞれの居住地の生態系に適応した牧畜、漁猟、農業などを営み、その生活は多様性に満ちています。

南スーダン共和国は、このような国土において、2011年7月に独立を果たしました。世界で最も新しい国である南スーダンですが、独立以前は南北スーダンや南部スーダン同士の争いにより約50年に渡る内戦が続き、その間の犠牲者は200万人以上とも言われています。その艱難辛苦と混乱の末の独立ではありましたが、独立後も国内の政治的、民族的な対立により、2度にわたり大きな衝突が発生しました。また、長年の戦闘で、人々やコミュニティ間の信頼関係は脆弱であるため、地方部での衝突も頻発し、洪水などの自然災害も重なって、現在も約370万人もの難民あるいは国内避難民が発生しています。

不安定な社会情勢ではありつつも、2018年9月に、国際社会の仲介のもと紛争当事者による「再活性化された衝突解決合意(R-ARCSS)」が成立し、2020年2月には暫定統一政府が発足しました。3年後の新政府発足に向け、国家の体制構築が再スタートしたところです。

その国造りにおいて、これから南スーダンが取り組まなければならない課題は膨大にあります。長い紛争のため、国家的な行政機能の整備は大きく遅れています。また、スッドの存在により人、物、情報の流通、往来も容易ではなく、交通インフラも限られています。教育、保健、水等の基礎的社会サービスも極めて低い水準にあり、生計手段の行き詰まりによる貧困の結果、現在も約750万人もの人々が、食糧や生活物資の人道援助を必要としています。

どうやってこの状況に対処していくのか。何よりも必要なのは、まずは平和と安定、そして日常の糧を得るための本来の生活を人々が取り戻すことです。そして、人々同士、人々と行政の間の信頼関係を構築し、民族の多様性を尊重しつつ、包摂的に個別の社会課題に取り組んでいく必要があります。こういった状況を踏まえ、南スーダン暫定統一政府は、その国家開発戦略ならびにR-ARCSSに示される、平和と安定、法の支配、ガバナンス、経済インフラの整備、社会サービスなどを基軸とし、国際的なパートナーシップも維持しつつ取り組むとしています。

JICAは、独立以前から南部スーダンに対する支援を本格化し、これまでに人々の生計、生活の再建に資する都市や農業の開発計画作り、教育、水衛生等の基礎的社会サービスに関する人材育成、橋梁、給水などの基礎インフラ整備等を進めてきました。また、行政の信頼回復と機能向上のための国家財政の改善やガバナンスへの協力、そして若者やジェンダー、社会的弱者への配慮に資する協力も進めています。

現在、無償資金協力により、ジュバ市におけるナイル川に架かる新たな橋(通称「フリーダムブリッジ」)の建設、そしてジュバ市の給水施設の整備が進行中です。これらのプロジェクトは、ジュバ市の人々の生活、経済活動に欠かせない基礎インフラとして、その完成に大きな期待が集まっています。また、JICAは、国民融和を目的とした全国スポーツ大会の開催に協力しています。異なる民族が相互理解を深め、平和を共感し合う場としてのこの協力は、日本社会との繋がりにも発展しています。前橋市では、南スーダンの平和促進の意義に賛同頂き、市民の皆様を始めとする多くの人々のご厚意により、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた南スーダン選手団のホストタウンとして、特別に長期事前キャンプを受け入れて頂いています。

JICAは、これらの協力、協働の積み重ねにより、南スーダン側の各機関と良好なパートナーシップを有しています。今後も、我が国の対アフリカ地域支援方針に基づき、JICAは、これらの良好な関係を礎に、南スーダンの持続的で安定的な国造りに貢献していきます。また、その国造りが紛争によって後戻りしないよう、平和の定着に資する協力を進めていきます。

現在、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、南スーダンの政府および人々は、元から直面していた多くの難題に上乗せされる形で、この新たな感染症に対処することが求められています。その厳しい状況の中でも、感染拡大防止と人々の生活・経済活動の両立を図るべく、この難局に同国は立ち向かっています。

このような難局の中、南スーダンの人々は、これから、世界のどの国も経験したことのない、新たな国造りを模索していくのだと思います。
JICAは、活動に従事する関係者の安全と健康を守りつつ、南スーダンの、この未知への取り組みに寄り添い、その希望に向けて、共に歩んでいきたいと思います。

2020年11月
JICA南スーダン事務所長
相良 冬木

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