第5回南スーダン全国スポーツ大会「国民結束の日」の開催-平和への思いを行動に-

2020年6月16日

信頼に根差した平和と安定

約半世紀の紛争を経てスーダン共和国から南部10州が分離・独立を果たし、2011年7月に世界一新しい国、南スーダン共和国が誕生しました。しかし、新生国家としての国造りの最中であった2013年12月、2016年7月の二度にわたり政府の派閥抗争に端を発する騒擾が起こり、各派の支持基盤となる民族間の激しい争いが全国に波及しました。国内の治安、社会経済状況は急速に悪化し、国民の3分の1にあたる400万人以上が故郷を追われ難民や国内避難民となりました(UNHCR April 2020, IOM March 2020)。暴力と混乱、貧困が長期化するにつれ、異なる民族や住民の間で不信感・憎悪が増幅されていきました。

2018年9月、国内の平和と安定を促進するため「再活性化された衝突解決合意」が南スーダン関係者によって結ばれ、平和への機運が高まるなか、2020年2月にようやく新国民統一暫定政府が設立し、南スーダンは三度目の国造りのスタートラインに立ちます。今後、南スーダンが持続的な平和を実現するには、多様性と調和のある統一国家の成立に向けて、国民が信頼のもとに結束することが不可欠です。

スポーツを通じて民族融和と結束を

南スーダン文化・青年・スポーツ省(以下、「スポーツ省」)は、JICAの協力のもと、第5回全国スポーツ大会「国民結束の日」(以下、「大会」)を開催しました。「平和と社会的結束」をスローガンに掲げる本大会は2020年1月25日から2月3日までの10日間にわたり、南スーダンの首都ジュバで実施されました。スポーツ省大臣とともに開会式に出席したJICAの萱嶋理事は、「選手、審判、観客、そしてジュバ市民が、お互いを尊重し、ともにこの大会に参加することは、南スーダンの平和に貢献することになる」と、今後の南スーダンの若者たちの未来に大きな期待を込めました。スポーツを通じて国民の交流、民族間の融和を促進し、市民レベルで平和と社会的結束を後押しするべく、JICAは2016年の第1回大会から継続して大会開催に協力しています。大会の趣旨に賛同する国際機関(UNMISS、UNDP)や他国政府援助機関(スイス開発協力庁)、民間企業など6の機関・団体からも前年に引き続き資金協力や物資提供がなされました。

大会には、全国から代表に選抜された360人を超える19歳以下のアスリートが参加し、男子サッカー、女子バレーボール、男女陸上の各競技で日頃の練習の成果を発揮しました。今年は新たに南スーダンの伝統競技である男子レスリングが加わるなど、回を重ねるごとに競技の多様化が進み、より包摂的な大会へと進化しています。フェアプレーの精神に則って、連日熱い試合を繰り広げる若きアスリートの姿は多くの市民の関心を引き付け、試合会場は観客であふれかえりました。

南スーダン随一の規模を誇る本大会は、選手にとって年に一度の晴れの舞台です。そのため、スポーツ省は公平・公正な選手選抜を目指し、毎年改善を重ねています。政情不安や治安上の課題などの制約に直面しながらも、地方政府と連携して選手選考にあたりました。

【画像】

開会式で誇らしげに行進する参加選手たち

【画像】

初めて競技に加えられた男子レスリングの試合

【画像】

スポーツ省職員が開会式の進行の打ち合わせを行う様子

進む女子、障害者の大会参加

いまだ南スーダンでは「男は外、女は内」といったジェンダーにまつわる固定観念が根強く、女性の社会進出の障壁となっています。そのような状況にあって、大会は、女子がスポーツを通して能力を発揮し「外」で活躍する大切な場所であり、観客を含むすべての参加者のジェンダー意識に前向きに働きかける貴重な機会でもあります。スポーツ省は性暴力や早期結婚・出産、女性の就学率の低さなどの社会問題の解決に貢献していくことも大会の目標とし、今年も女子の参加促進に取り組むとともに、スポーツに取り組む女性のロールモデルの創出を推進しています。

さらに、今回は車いすバスケットのエキシビションマッチが初めて実現しました。選手たちの生き生きとした表情や力強いプレー、初めて見るスポーツに驚きを感じながらも夢中になって応援する観客の姿が印象的でした。今回のマッチを通して、南スーダンにおいてスポーツが障がい受容(障害者の自己受容や社会受容)ならびに社会参加に果たす役割と、その可能性が示されました。

【画像】

女子バレーで空中戦を繰り広げる選手たち

【画像】

初の試みとして車いすバスケットのエキシビジョンマッチも開催した

平和大使として平和への思いを行動に

大会期間中、競技以外にも平和と社会的結束を強める機会が随所に用意されました。全国から集まった選手たちは異なる民族的背景を持ちますが、競技会場だけでなく共同宿舎でも多くの時間を共有することで交流が活発となり、自ずと相互理解を深めていきました。長年続く争いの影響で、信頼できるのはより同質性の高い血縁や部族などの限られたコミュニティだと話す選手も少なくないなか、スポーツを通じて異なる背景を持つ同世代の若者とつながり、異質性や多様性の中にも平和な状態が維持されると身をもって学ぶ場となりました。

また、選手を対象とする平和構築、ジェンダー、HIV/AIDS啓発をテーマとするワークショップが国際機関の企画で実施されました。「自分たちにとっての平和とは何か」、「公平で平等な社会とは何を意味するのか」についてグループに分かれて議論し、カラフルな絵や等身大の言葉でメッセージボードに想いを綴りました。ワークショップの最後には女性の歓喜の表現であるウルレーションを取り入れた平和の歌も披露され大いに盛り上がりました。これらのワークショップで得た知識をもとに、選手たちは自身のコミュニティに帰った後、「平和大使」として民族間の融和やジェンダー平等のために活躍する予定です。今回作成されたメッセージボードは開会式、閉会式の入場行進で彼ら自身の手で掲げられ、「We are peacemaker(私たちは平和の作り手だ)」「Give us pen, not gun(銃ではなく、ペンをください)」「No more guns, it’s time for peace(銃はもういらない。今こそ平和をつくる時)」などのシンプルながら心に響くメッセージを来場者に伝えました。

【画像】

平和構築ワークショップで平和の歌を披露する女子選手

【画像】

平和促進ワークショップで参加選手が描いた平和メッセージの絵

このほか、スポーツ省はJICAやパートナーと連携し、コミュニティに平和と結束を呼びかけるプレイベントを3回開催し、大会期間中及び前後には、南スーダンの公営テレビ放送やラジオ局を通じて平和へのメッセージを全国に届けました。

選手は、「大会は南スーダンの青少年の人生を変えた」、「大会は青少年を結束させ、心に平和をもたらした」、「ともに歩みこの国の未来を築こう、スポーツと平和のメッセージを通して」、「私たちが『南スーダン人』として手を携えて力を合わせたなら、平和を手に入れることができる、スポーツはあらゆる場所で子どもたちからも愛されているから。私たちの間にある差別と決別しよう」と話しました。

今回、過去大会に参加したことのある選手への聞き取り調査を実施したところ、コミュニティに戻った後に平和について自分の所属するチーム、コミュニティやラジオで話しをする、学校や家庭で身近な人と語り合うなど何かしらの行動を起こした選手が8割にものぼることが分かりました。大会を通して、選手の意識と行動に前向きな変化が確かに生まれています。

【画像】

異なった部族出身でも友好を深めた

前橋で五輪代表合宿に励む先輩たち

今年で5回となる本大会の過去の参加者からは南スーダン代表選手が輩出されました。現在、東京五輪・パラリンピックに向けて、陸上選手4名(女子1名、男子2名、男子パラ1名)とコーチ1名の選手団が、ホストタウンである群馬県前橋市で長期事前合宿を行っています。いずれの選手も過去大会で活躍し成績を残した「先輩」です。陸上男子1500メートルのアブラハム選手は、この大会の開催を知った日から自身の陸上人生が始まり、大会での活躍を経て今では国を代表する選手となったこと、よりよい練習環境を求めて来日するチャンスを得たことについて、JICAそして日本国民の支援を生涯忘れることはないと語ります。五輪で活躍して母国南スーダンに平和のメッセージを届けたいと日々練習に打ち込む彼らの姿は、多くの人の心を打ち、日本国内で支援の輪が広がっています。大会から世界に羽ばたいた彼らはスポーツには人をつなぐ力があることを体現する存在となっています。

【画像】

南スーダン陸上選手団来日記者会見の様子

独立以来、南スーダン国内の対立によって多くの青少年、若者が暴力にさらされ傷つきました。JICAはスポーツを通じて一人でも多くの青少年が平和大使となり、彼らが属するコミュニティに変化をもたらす平和の担い手に育っていくよう、これからもスポーツ省や関係パートナーとともにスポーツを通じた平和促進事業に取り組んでいきます。

関連リンク