つながる・ひろがる人の輪 -JISR就労伴走支援サポートチーム-

2022年9月15日

夢や希望に寄り添い、新しいステップへと導くお手伝い

JISR研修員の多くは、祖国の状況から、卒業後も母国への帰国が難しい現実に直面しています。このような状況を踏まえて、JISRプログラムでは、大学院での就学機会の提供に加え、日本企業との面接や就労を視野に入れた就職活動のための研修、インターンシップ受け入れ企業の開拓、ジョブフェア等就労情報の紹介を研修員に対し行っています。
ただ、希望する職種や専門分野は人それぞれ異なるため、より確実に就労機会を得るためには、研修員一人ひとりに寄り添った個別の伴走支援が理想的です。
そこで、各研修員に対し2名程度のサポーターが付き、日本特有の履歴書やビジネスメールの書き方の指導と添削、自分のスキルや強みを見つける自己分析、各自の専門分野に応じた仕事の探し方、応募するポストの要件に沿った自己PR方法等のアドバイスを行っています。
この伴走支援にご協力いただいているのは、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社や株式会社LIFULL等の社内プロボノ(注1)募集案内を通して、参加を希望してくださった方々等から成る「サポートチーム」の皆様(現在約30名)です(注2)。
今回は、サポートチームの皆様と、その支援を受けた研修員からお話を伺い、就労伴走支援の内容やそこに込められた想いをお伝えします。

(注1)社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動

(注2)デロイト トーマツ コンサルティング合同会社のボランティアにより難民支援のプロジェクトが形成。同プロジェクトがUNHCR駐日事務所と「難民とともにインクルーシブな社会を実現するためには何が必要か」を検討していた際、UNHCR駐日事務所からJICAのJISRプログラムについて紹介をいただきました。JISRプログラムの就労支援活動の課題を知った同プロジェクトとJICAのJISRプログラム担当者との話し合いの結果、同社内で協力者を募ることになり、希望者がボランティアとしてJISRプログラムの研修員の就職活動をお手伝いしてくださることになりました。その後、株式会社LIFULLにもこの活動にご協力いただけることになりました。

お話を伺ったサポートチームの皆様

【画像】

玉川 朝恵 氏

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 コンサルタント

【画像】

新田 周平 氏

株式会社LIFULL LIFULL HOME'S事業本部 マーケター

【画像】

西山 みなみ 氏

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 コンサルタント

【画像】

長谷部 志保 氏

株式会社LIFULL シニアデザイナー

社会で活躍し幸福に生きられるためのサポートをしたい

Q:就労伴走支援は全てボランティアで実施されています。この活動に参加された動機は何ですか。

玉川氏
きっかけは、難民支援についてデロイトとして何かできることがないかを当時の上司と考えていた際に、UNHCR駐日事務所の担当者からJISRプログラムの担当者をご紹介いただいたことです。その後、JISR生の就職活動のための研修に模擬面接官として参加した際、経験や技術レベルが高く優秀なのにも関わらず、社会で思うように活躍できていない状況を目の当たりにしました。そこで、就労伴走支援を行うことで、JISR生の内定獲得の力になりたいと思い、活動を始めました。

長谷部氏
自社のCSR事業の寄付先に難民支援の団体が含まれていたこともあり、以前から難民問題などの社会課題解決に興味がありました。社内でボランティアの募集があったので、それに応募しました。

新田氏
私は、境遇に左右され、人が幸福に生きられない状況に疑問を感じ、そういった方を支援したいという思いで参加しています。社員のボランティア活動参加を支援する委員会の一員として社員のサポートをしていますが、今は直接就労支援にも関わっています。

西山氏
私はトルコ留学中、実際シリアからトルコに逃れてきた人々を身近に見ていたこともあり、難民問題に興味を持っていました。私も社内でボランティア募集があったので参加しました。社内募集だと参加のハードルが低く、気軽に参加できます。もっとこの支援に参加する企業が増えるといいなと思います。

人と人のつながりが生まれる、やりがいのある活動

Q:これまでの就労支援で、よかったこと、困難だったことを教えてください。

西山
よかったことは、やはり支援した研修員が内定を獲得したことです。「ありがとう」と感謝の言葉を言われることもうれしいです。面談の度に前回よりも研修員のスキルが向上しているのを感じた時は、やってよかったと思います。

新田
他の企業の方と一緒にチームを組んで研修員1名を担当しています。通常であれば交流することのない企業の方々と活動できることがよかったことで、チームで共同して「研修員の内定獲得」という一つの目標に向かって活動するという貴重な機会に感謝しています。サポートチームのメンバーは、一度活動に参加すると、ほぼ全員が活動を継続しています。これはこの活動が「やりがいを感じられる続けたい活動」であることを示していると思います。

玉川
サポートをしていく中で進め方に悩むこともありますが、定期的にメンバーの懇親会を開催して情報共有をしたり、チャットツールで困りごとの相談や問題解決の話し合いをしたりしています。その中で、参加メンバーに話を聞くと、活動に参加してよかったと言う人が多いです。リモートの勤務が続き、社内で繋がりが形成しづらい中で、この活動がきっかけで知り合ったメンバーも多く、社内に輪が広がっています。今後はより多くの企業にも活動に参加いただき、サポート企業の輪が広がっていくと良いなと思っています。

長谷部
就労支援に参加して他の文化的背景を持つ人と知り合って、会話していくうちに、実は人は一人ひとり「違う」のが普通なのでは、と感じるようになりました。日本では「同じであること」を前提にお互いを「察する」ことが期待され、他者を理解しようとする努力や面倒といったコストを必要とせずうまく回っている社会だと思うのですが、多様性を理解することはコストではなく、実は私たちの視野を広げ、笑顔で平和に生きるための大切なプロセスではないかと思うようになりました。そういう気づきを得られてよかったです。

玉川
就活に割ける時間が限られる中、早めの就活準備に向けて行動していただくのは難しいかもしれません。研修員の皆さんは、修士課程での研究に加え、初めて学ぶ日本語の勉強があり、非常に多忙です。日本語は習得が難しい言語と言われますが、それをビジネス・レベルにまで磨くというプレッシャーもあり、想像を絶する努力をされていると思います。それだけで十分大変なところに、異国での就職活動は時間的・心理的にも大変なことだと思います。そのため、就労伴走支援はできる限り早い段階で開始し、なるべく定期的にミーティングをして無理なく進めていくことが大切かと思っています。

過酷な環境を乗り越えて、日本で努力する姿に共感

Q:JISR研修員の印象を教えてください。

新田
シリアの研修員は優秀な方が多いという印象を受けます。計り知れない過酷な環境を乗り越えて、全く新しい環境で努力し続けることは、きっと自分ではできないことだと思います。そんな状況で活動されている皆さんのことをとても尊敬しています。

長谷部
研修員は皆、母国で高いレベルの教育を受けていて、視野の広い人達だなという印象を受けます。母国でボランティア活動をされていた経験もあるような、他者を思いやる親切な人だなという印象です。一人の人間として「いい人」と知り合いになれたなと純粋に嬉しく思い、この機会に感謝しています。

私の背中を押してくれたサポートチームに感謝

サポートチームの支援を受けた研修員にお話を聞きました。

【画像】

Mr. Asaad Mahmoud アスアド・マフムード氏

足利大学大学院 工学研究科 修士課程 情報・生産工学専攻 電気電子工学専修。2022年9月修了予定。専門技術や知識が生かせるA社から内定を獲得。シリアではエンジニアとしての就労経験を持つ。

伴走支援を受ける前に自分で見つけていた求人情報の中で、A社は特に興味がありましたが、求める日本語レベルがN2(上級)以上と高く、最初からダメだろうと諦めていました。ところがサポートチームの方々に相談すると、「このポストはアスアドさんに向いている」と応募を勧めてくれました。「今の日本語レベルだけで諦めることはなく、そのポストに合う自分の強み・スキルに焦点を当てて考えるべき」と教えてくれました。この会社が求めている人材像に自分がどうフィットするのか、自分がこの会社で働くことでどのように会社の成長に貢献できるのか、そして同時に自分も成長できるのか、という点が就職活動では大切ということです。

この考え方に基づいて、サポートチームは面接練習でも「自分がいかに役に立つか」について私が語れるように指導してくれました。また履歴書の添削では、以前シリアで働いていた時に作成した電気回路図も添付して、自分のスキルと会社の求めるスキルのフィット感を明確にアピールするように指導してもらいました。サポートチームの具体的な指導がなければ、A社からの内定は獲得できていなかったと思っています。私の背中を押してくれて、とても感謝しています。

編集後記

JISR研修員が日本で経済的自立をするための就労伴走支援。サポートチームの皆様は異口同音に「やってよかった」「やりがいを感じた」という感想をお持ちでした。また研修員も感謝の気持ちを持たれていました。この活動を通して、今までになかった人との出会いが生まれ、人の輪が広がり、そしてつながり、サポートする側とされる側のどちらにも笑顔の輪が広がっていました。今後も研修員の就職活動は続きます。JISRプログラムはサポートチームの皆様と一丸となって、研修員の就活の成功を願いつつ、その支援を行って参ります。

JISR研修員の就労伴走支援活動にご賛同いただき、社員のプロボノ参加を推奨いただける企業様がおられましたら、ぜひ下記までご連絡ください。
また、JISRプログラムでは引き続き、研修員のインターンシップ受入や雇用にご興味のある企業様を募集しています。詳細は、以下の連絡先までお問合せください。

お問い合わせ先

JISR運営支援機関(株)日本開発サービス/(特活) 難民支援協会(JAR)
担当:JISR担当者 email:jisr-kouryuukai@jds21.com
(注)就労伴走支援プロボノ参加は、件名に「プロボノ伴走支援」と、インターンシップ受け入れは、件名に「インターンシップ」とご記載ください。

関連リンク