「JICAを通して自国の発展に関わる-ナショナルスタッフからみたJICAの活動-」マフマドフ・ショキルジョンさん

2020年1月16日

世界各地にあるJICAの海外拠点では、日本人スタッフと現地雇用のナショナルスタッフがともに支援活動をしています。今回お話を伺ったショキルジョンさんは、JICAタジキスタン事務所に入所して6年目のスタッフです。彼のキャリア、そして彼からみたタジキスタン、JICAの活動についてお聞きしました。

タジキスタンという国で

-本日はお忙しいところ、お時間を頂きありがとうございます。まずショキルジョンさんからタジキスタンがどのような国かを教えていただけますでしょうか。

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インタビューを受けるショキルジョンさん

タジキスタンは人的資源が豊富な国だと思っています。人口約930万人のうち、半数以上が将来を担う若者によって占められています。ですが残念なことに多くの人には、広い世界で活躍できる可能性があると気づくような機会が十分に与えられていません。タジキスタンの豊富な人的資源を活かすためには、教育がとても重要だと思っています。人を育てることが、タジキスタンの発展をより高めることにつながるからです。タジキスタンの様々な課題も、個人的な意見として根本には教育があると考えています。どんな国でも、発展のためには技術を持った人間とお金が必要で、その国の人々自身が経済活動を生み出せるようになる必要があります。しかしタジキスタンでは国の資金不足から、人々の健康や職不足に伴うロシアへの出稼ぎ労働の問題など、様々な問題が生まれています。

-ショキルジョンさんはどのような子ども時代を過ごしたのでしょうか。

タジキスタンは、独立直後の1992年から1997年まで内戦が起こった国です。私は当時6歳ぐらいでしたが、今でも内戦をはっきりと覚えています。内戦後も、タジキスタンでは非常に苦しい生活状況が続きました。失業者があふれ、貧困が問題となり、教育も受けられない状況でした。この経験は自分に大きな影響を与え、のちに「人々の生活の発展に関わりたい」と思うようになりました。大学時代には、世界銀行で働きながら大学に通っていました。タジキスタンでは仕事を見つけるのはとても難しく、仕事に就いている、ということは非常に恵まれたことでした。そのため、大学には時に融通してもらうことで働くチャンスをいただき、学業と仕事を両立することができ、専門的な経験を積むことができました。

日本との出会い

-日本には学生時代から関心があったのですか。

実は、日本と関わるようになったのは全くの偶然でした。大学卒業後、ドイツの修士課程への進学を希望していましたが、残念ながら様々な事情で叶いませんでした。ですが大学の推薦で、日本の大学院に進学することができたのです。その当時は、実のところ日本についてはあまり知りませんでした。全くの偶然から日本で学ぶことになりましたが、これは自分にとって人生を大きく変える経験でした。教授陣、世界中から集まる学生たち、国際的な経験、様々な点で刺激を受けましたが、何より印象的だったのは日本人の世界観でした。例えば、日本人の物事の考え方やルールをきちんと守る姿勢、仕事のマネジメント、意思決定の仕方などです。今でもこれらは私にとって難しいパズルのようなものですが、非常に大切なものだと考えています。日本に行って物事の見方が変わった今では、ドイツではなく日本に行くことができて本当に良かったと思っています。

JICAとの出会い

-大学院修了後も含め、日本での就職やその他の国で仕事をすることも可能だったと思います。国外で働くということは考えなかったのでしょうか。

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東京のJICA本部にて(2016年)

タジキスタン国外で仕事をすることは考えませんでした。「自国の発展に貢献したい」という想いがあったからです。大学院で国際関係学を学んだこと、そしてその学びと子ども時代の内戦の記憶を重ね合わせて考えるようになったことで、「自国の人々の生活の発展に関わりたい」という考えが強くなりました。大学院を修了後は、中央アジア大学で、教師の教授能力の向上や授業の魅力向上のためにFDP(Faculty Development of Program Coordinator)として働きました。また、タジキスタンで実施されていた米国支援による国境管理計画に携わり、将来、国境警備に携わる学生たちに国境警備について教えるなどの仕事をしました。

-その後JICAに。

はい。その後偶然にも、JICAが人材を募集しているということを知りました。もともとJICAが援助機関の一つだということは知っていましたが、JICAが実際に自分の国でどのような活動をしていたのかは知りませんでした。日本との関わりを持ちながら、タジキスタンの発展に貢献できるということを知ったときには「これだ!」と思いました。様々なアプローチでタジキスタンの発展をサポートできるJICAで、タジキスタンと日本の懸け橋のような働き方ができると思ったのです。

JICAの支援とタジキスタン

-JICAの支援方法についてはどのように思われますか。

入所してからの6年間、JICAの支援が拡大する様子を目にしてきましたが、それらはタジキスタンの人々の考え方や生活に資するものです。そしてその支援方法は“ハード”と“ソフト”が組み合わさったもので、非常にユニークです。JICAは無償資金協力として、例えばインフラ支援や機材供与を実施します。これは“ハード”の部分ですね。さらにそれで終わるのではなく、“ソフト”の部分として、技術協力やボランティア事業などを実施し、使い方や維持管理の技術を教えます。この組み合わせがJICAのユニークな点です。よく「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」と言いますが、これがJICAの哲学です。単に何かをもたらすだけでなく、その使い方を教える。これは長期的な視野で行われる支援であり、将来における効果が十分に期待されるものです。人的資源の豊富なタジキスタンにおいて、こういった支援を通して人々の能力を育てることには大きな意味があると考えています。

JICAでナショナルスタッフとして働くことについて

-JICA事務所においてナショナルスタッフとはどのような存在だと思いますか。

ナショナルスタッフは日本人スタッフと対等なパートナーです。タジキスタンのニーズに即した支援を、日本の知見や技術、資金と調整を図りながら進めます。そしてナショナルスタッフは、事務所の“メモリー”として日本人スタッフを支える役割も担っています。日本人スタッフの任期は2年から3年です。例えば、私は運輸セクターを担当していますが、この6年間に担当の日本人スタッフが順に3名派遣されてやってきました。私は初めから関わっているからこそ、日本人スタッフに今までの仕事の状況を伝え、円滑にプロジェクトを進めるために手助けすることができました。そして何よりナショナルスタッフは、すでにタジキスタン政府や様々な人々との関係を構築しています。新たにやってきた日本人スタッフと彼らをつなげることも、ナショナルスタッフの重要な役割だと思っています。

-JICAでの仕事はご自身にとってどのようなものですか。

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帰国研修員年次総会にて司会を務めるショキルジョンさん(右)(2017年)

JICAでの仕事を通して多くのことを学び、成長することができたと思っています。なによりJICAは多くの機会を与えてくれました。私はタジキスタンの大統領であるラフモン大統領に二度会っています。JICA理事長とラフモン大統領の面談時には通訳も担当しました。また、JICAとタジキスタン政府高官の会議など様々な仕事を経験することで、自分のスキルを磨き、自信を持てるようになったと思っています。翻ってみると、これはJICAがナショナルスタッフにも十分な機会・権限を与えてくれているということです。この6年間で日本に出張する機会が何度かありました。これらの出張は私にとってJICA全体の事業を知る機会でもあり、タジキスタンでJICAのことを人々に伝える時にもとても役立ちました。もちろん日本だけでなく、韓国、インドネシア、タイ、アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンなど様々な国へ出張に行く機会がありました。自分のキャリアアップにおいても、これらはとても大切な経験だと思います。JICAでの仕事を通して様々な機会を得、自信を持つことができ、また自国の発展にも貢献する働き方ができているのではないかと思います。
最後に、私は日本の皆さんに感謝を伝えたいです。日本の支援は多くの途上国にとって必要なものです。そして日本の支援は、タジキスタンの発展に大きく関わっています。だからこそ私は、JICAナショナルスタッフとしてではなく一人のタジク人として、日本の皆さんに感謝をしています。そしてJICAとタジキスタン事務所の皆さんにも、日々支えてくれ私に成長の機会を与えてくれることに感謝しています。

おわりに

JICAの活動はタジキスタンの発展を支援しているものですが、同時にそのタジキスタンでのJICAの活動には、ショキルジョンさんを始めとするナショナルスタッフの皆さんの力が不可欠です。その意味で、JICAの支援は支援対象国とのパートナーシップのもとに成り立っているといえるのかもしれません。JICAは開発途上国を支援する組織です。しかしナショナルスタッフにとって、JICAは自国を支援する組織の一つ、という捉え方もあるということに気づかされました。今回のショキルジョンさんのインタビューを通して、支援対象国におけるJICAの役割、そこで働く方の想いをお伝えすることができれば幸いです。

プロフィール

マフマドフ・ショキルジョンさん
タジキスタンの大学を卒業後、筑波大学で国際関係学の修士号を取得。2014年にJICAタジキスタン事務所に入所。JDS(人材育成奨学計画)、広報活動を担当したのち、現在、シニアプログラムオフィサーとして、運輸・保健・国境地域開発・KCCP(研修員受入事業)の分野に携わる。

聞き手
土居 奈津美
JICAタジキスタン事務所インターン
活動期間 2019年12月~2020年1月