【6月18日は持続可能な食文化の日】高地ギニア:「おかず養殖」で女性の活動や村の発展を後押し

2020年6月18日

6月18日は、国連が定めた「持続可能な食文化の日」です。持続可能な食料生産や生物多様性の保全を促進し、貧困の削減や環境保護などに向け、持続可能な食文化の重要性を多くの人々に認識してもらうため、2016年に制定されました。

JICAは、ニジェール川の流域に位置する西アフリカ、ギニア共和国の高地ギニア地方で、川の氾濫によってできる沼に流れ込んだ魚を採る伝統的な漁法に、養殖の技術を取り入れた「おかず養殖」を普及させる取り組みを約15年にわたって続けています。

主に女性たちによって継続されているこのおかず養殖は、食料自給の向上だけでなく、女性のエンパワーメントを推し進め、さらに今後、養殖産業として発展することも期待されています。

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JICAの協力で造成されたおかず養殖用の共有池での収獲の様子。主役は女性たちです。頭に載せているのは魚を入れるためひょうたんの籠(ダボラ県ニャンカンバ村、2005年4月)

氾濫沼を改良して収獲量が増加

「収獲祭は村の伝統です。年に一度、村中総出で皆といっしょに活動できるから楽しい!」と、おかず養殖用の沼での収獲祭について話すのは、高地ギニアのシギリ県レンバ村で暮らすバングラさんです。西アフリカの内陸地域では、伝統的に女性が中心となって漁猟を行い、ナマズやティラピアなど村人のおかずとなる魚を収獲します。特別な漁業技術が必要なく、村の近隣に雨期に発生する天然の氾濫沼を活用して行うため、農作業や子育て中の女性でも生活の合間に行えるのが特徴です。

3~5月の農閑期(乾期)に、氾濫時には沼地となる底面部を水泳プールのように深堀りして魚飼育用の共有池を造成します

しかし、「魚は天の恵み」とされており収獲量は天まかせでした。気候変動などの影響で1990年代より高地ギニアでは、氾濫による天然沼が減少し漁獲量は低下。JICAが2005~2009年に派遣した専門家は、伝統的な漁法スタイルを守ったまま、飼育池を掘り、肥料となる脱穀殻や乾燥牛糞をまいて魚を育てるといった養殖技術との組み合わせを普及推進しました。そして、乾期に水がかれる沼を約40ヵ所選定し、共有池に改造することで魚の成長や繁殖を促して、安定的に2倍以上の収獲が可能な漁場(沼地)へと発展させました。

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おかず養殖の導入で収獲量を取り戻して賑わうダボラ県モリベヤ村の収獲祭(2007年4月)

その後、クーデターやエボラ熱の流行により、JICAの支援は中断を余儀なくされましたが、2019年3月にようやく再開。専門家がギニアを再訪すると、そこには、村の女性たちが自立的におかず養殖を続ける姿がありました。

「自分の家族の食生活を守るため、女性たちは途切れた支援を待つのではなく積極的に沼を掘り、村民全員参加の収獲祭に加え、女性だけが参加する収獲活動を複数回実施して生産量を増やす工夫をしていたのです」と、2005年の初期プロジェクトから参加している村井正専門家は語ります。

村の活性化や意識改革のきっかけにも 

おかず養殖は村の活性化にも大きな影響を与えています。「沼での収獲祭が復活したことで、村のアイデンティティを再確認することができました。出稼ぎ中の人も帰郷して参加するので村民の絆が強まります。食料の確保と伝統文化の維持は農村生活の中心的な要素です」と、マンジャナ県ドゴレン村の農民ディアロさん(池管理委員代表)は話します。

ギニアでは、地球温暖化等の影響による雨量の減少や、高地での森林伐採による土砂の増量などが原因で、沼だけでなく、森林も減っています。おかず養殖による沼の維持活動は、水源の確保という観点から地域の環境保全、また家畜飼育や農業生産性の向上にも貢献しています。

おかず養殖をきっかけに村民の意識にも変化がみられます。自然の変化を受け入れながら自ら行動し、水を治める目標を持つなど、人々の意識を変えるきっかけにもつながっているのです。

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(左)住民への啓発、説明活動の様子。おかず養殖は、村の活性化や人々の意識改革にもつながってきています
(右)「魚は樹木の下を好むから今後は植林にも取り組みたい」と話すマンジャナ県ドゴレン村の池管理委員会メンバーと養殖普及員(中央)

商業的な養殖への展開を目指す

ギニア政府は魚養殖の将来性を確信し、養殖庁を設立して普及促進を本格化させ、2020年1月現在、高地ギニア地域83ヵ所の共有沼におかず養殖が広がっています。また、養殖庁は、村の共有池で行われるおかず養殖とは別の事業として、商業的な外売りを視野に入れた個人所有の養殖池造成も奨励しています。

高地ギニアのダボラ県ソマヤ村での調査活動。住民や行政官と語り合う村井正専門家(左)

「おかず養殖が見込める沼は高地ギニアだけで500ヵ所以上、ギニア全土では未調査ですが700ヵ所以上と想定しています。技術的にも1年を通した漁へ発展できる可能性は十分あり、時間をかけて次のステップへ向けた指導を続けていきます」と村井専門家はおかず養殖の今後を見据えます。