中東・アフリカ地域の発展を支える人材を育成:日本の工学教育の知見を存分に活用

2020年12月24日

エジプトの工学教育の分野で、日本の実践的な教育システムの知見や経験を活かして、中東・アフリカ地域の発展を支える人材の育成が進んでいます。

JICAは2008年からエジプト日本科学技術大学(E-JUST)の設立に向け協力してきました。2010年の開学から10年を迎える今年秋には、新キャンパスが完成。日本型の工学教育導入で、科学技術分野のトップクラスの大学を目指します。少人数、大学院・研究中心、実践的かつ国際水準の教育の提供を目的とするE-JUSTは、エジプトのみならず、中東・アフリカ地域における科学技術の拠点大学として、さらなる成長を続けています。E-JUSTへの協力を含む、「日本・エジプト日本教育パートナーシップ」のもと、JICAはエジプトで「人づくりを通じた国づくり」に力強く取り組んでいます。

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E-JUSTで学ぶ学生たち

新キャンパスの開所式には、エルシーシ大統領も参加-JUS

新キャンパスを見学するエルシーシ大統領(前列左から4番目)ら

9月に行われた新キャンパスの開所式には、エジプトのエルシーシ大統領と14名の閣僚も参加。国内にテレビ中継された式典のスピーチで、日本人専門家や日本の大学のE-JUSTへの協力に触れ、「協調と相互理解に基づく日本とエジプトの協力のモデルである」と述べました。

エジプト北部アレキサンドリア県にあるE-JUSTの新キャンパス

エジプト政府の予算で整備されたこの広大なキャンパスには、教室・実験室棟、4つの大型レクチャーホール、図書館、学生サービス施設などが建設されています。日本の磯崎新アトリエが設計し、環境に配慮した持続可能なデザインで、JICAの無償資金協力により太陽光パネルを設置するなど、気候変動対策においてエジプト国内大学で最高の評価を得ています。

本邦大学からの支援と最先端の研究・教育用機材が揃う

E-JUSTで指導をする九州大学浅野種正特任教授(左から2番目)

2010年に大学院のみでスタートしたE-JUSTは、2017年に学部を開設。JICAは2008年から九州大学、京都大学、東京工業大学、早稲田大学、筑波大学、立命館大学、立命館アジア太平洋大学をはじめとする日本の大学(注:現在の支援大学は13大学)や日系企業などの協力を得て、大学院の開設から大学としての基盤づくりまで、E-JUSTへの協力を行ってきました。

2010年の開学からこれまで約300名の修士・博士号取得者を輩出(アフリカ6か国からの留学生も修士17名、博士4名の計21名輩出)し、現在も大学院生約230名、学部生670名が在籍しています。

(注)早稲田大学、東京工業大学、京都大学、九州大学、筑波大学、立命館大学、立命館アジア太平洋大学、広島大学、北海道大学、東北大学、慶応大学、名古屋大学、大阪大学

熱心に研究に取り組むガーナからの女子留学生

実験・実習を重視した質の高い実践的教育としての研究室中心教育を実現するため、JICAは最先端の研究・教育用機材を供与。中東・アフリカ地域で類を見ない大型の電子顕微鏡や精密加工が可能な工作機械などの機材を使って研究や学習できることもE-JUSTの特徴です。

また、E-JUSTは2019年8月のTICAD7(第7回アフリカ開発会議)で日本政府が発表した「横浜行動計画2019」および「TICAD7における日本の取組」の一環として、3年間で150人のアフリカからの留学生受入を今秋から開始。アフリカ・中東地域における科学技術の拠点大学として重要性が高まっています。

建物もなく教員もまだほとんどいない開校前の2009年から10年余にわたりE-JUSTに関わってきた東京工業大学物質理工学院大川原真一特任教授は、これまでを次のように振り返ります。

「研究資金が必ずしも潤沢ではない環境で、学生はなんでも創意工夫して自作する様子は、日本のひと昔前を見ているようでした。ほとんどの教員および学生がキャンパス内の寮に住み、研究のためのディスカッションが深夜に始まることも。熱心な指導と学生の意欲で、国際的に評価の高い学術誌への論文掲載数、各論文の引用数も当初想定を上回る実績を出すようになりました」

在エジプトの日系企業でインターンシップに参加

専門分野に限らない幅広い知識と思考能力を備え、総合的な人格を形成するための学習、リベラルアーツ教育もまた、エジプトの国立大学にはないE-JUSTの特徴です。平和学、日本語、日本文化などを通して、国際性と学際性を備え、かつ協調性と社会性のある人材を育てることを目指しています。

また、これまでにE-JUSTから累計約200名の博士課程在籍者が日本の大学に留学。本邦大学とのサマープログラムやエジプトで活動する日本企業の協力によるインターンシップの機会もあり、人的交流の機会も徐々に拡大しています。2021年には初の学部卒業生が誕生する予定で、今後の社会での活躍が期待されています。

2019年夏に2カ月間、豊田通商カイロ事務所でのインターンシップに参加した国際ビジネス・人文学部のアバノーブ・ワーセフさんは「大学で学んだことを、実際にどう産業界に役立てることができるのかを考えるきっかけとなりました」と語ります。

新型コロナウイルスに挑む研究も進める

自身が医師でもあるE-JUSTのエル・ゴハリ学長は、かつてJICAの協力で、熊本医療センターにおける血液由来感染症に係る研修を受け、帰国後はスエズ運河大学副学長やファイユーム大学学長を歴任。両大学で感染症やアフリカでの病院経営に関する研修コースを創設するなど、アフリカの保健医療の改善に貢献してきました。

新型コロナ対策に向け、バイオフィルターを試作

こうした経歴をもつゴハリ学長のリーダーシップのもと、E-JUSTは、新型コロナウイルス対策に向けた研究にも挑んでいます。3Dプリンタを活用した防護具の制作、PCRテストラボの設置、感染リスク低減のためのソフトウェア開発などの研究・取組を積極的に推進し、JICAも協力しています。

新型コロナウイルスの感染拡大により、現在、日本の支援大学の教員たちはエジプトに渡航できない状況が続いています。しかし、Web会議システム等を活用し、研究や専攻運営に関する助言、オンライン授業の一部に参加するなど、エジプト側関係者らと密に連絡を取り合いながら協力を継続してきました。JICAはこれからもE-JUSTが日本の大学や民間企業ともさらに連携しながら中東・アフリカの科学技術の拠点として確立されるよう協力を進めていきます。