2021年6月16日
人類共通の大きな問題となってきた気候変動。地球環境と気候変動は密接に関係していて、最も大きな影響を受けるのが「水資源」といわれています(注)。
水資源分野の気候変動対策について、JICAは現在、途上国でどのような協力を進めているのか、地球環境部水資源グループ長の松本重行さんに聞きました。2019年に土木学会国際活動奨励賞を受賞するなど、JICAの職員の中で、水資源といえば松本さん、という存在です。
まず前編では、気候変動によってどんな問題が起こっているのか、その本質に迫ります。そして後編では、JICAが途上国で取り組む持続可能な開発と気候変動対策のどちらにも貢献する協力を紹介します。
- 気候変動により、どんな水の問題が起きるのでしょうか?
松本●気候変動、いわゆる地球温暖化などの影響は多方面におよびます。なかでも深刻なのが水の問題です。水は熱とともに大気圏内を循環しているので、気候変動は地球上の水の循環そのものに影響します。イメージしやすいのは降雨パターンの変化、氷河や氷床の融解、海面上昇などでしょう。
- 日本も近年、記録的な豪雨や大型台風の接近・上陸が増えています。
松本●日本の南の海水温が上昇しているからといわれています。一方、例えばアフリカ東端のソマリア、エチオピアなどの「アフリカの角」と呼ばれる地域では干ばつの頻度が高くなり、2011年には過去60年間で最悪規模の干ばつに襲われました。都市部の水需給の逼迫も年々、深刻さを増しており、南アフリカ共和国のケープタウンやインドのチェンナイ(旧マドラス)などでも記録的な水不足に陥りました。大雨や洪水被害と干ばつは表裏一体で、昔から問題でしたが、近年さらに極端化しているわけです。
- 海面上昇もよく話題になります。
松本●海面上昇は海抜が低い島嶼国にとっては差し迫った問題ですし、沿岸部に低平地を抱える国々でも地下水や河川の塩水化問題が顕在化しています。例えばベトナムのホーチミンでは海水がサイゴン川を遡上し、そこから取水している水道水がしょっぱくなるという水質の問題が深刻になっており、海面上昇もその一因であると言われています。インドネシアのジャカルタでは地下水の過剰揚水によって地盤沈下が進行し、海面上昇とも相まって、高潮などの被害がひどくなると懸念されています。
- 水資源の不足は昔から指摘されてきました。
松本●地球は水の惑星といっても大部分が海で、人間にとって使いやすい河川や湖沼の淡水は地球に存在する水の量の0.01%と言われています。とても少ないように見えるのですが、河川や湖沼の水は、雨が降り、それが流出し、海に出て、蒸発して雲になり、大気の循環によって運ばれ、また雨になって降ってくるといった形で循環しています。また、東京大学の沖大幹教授の研究グループによれば、世界の河川では、海への年間流出量のうち、人間が取水する水量はその1割に満たない量です。つまり、総量として、淡水の水量は枯渇することはなく、十分にあるのです。
— 水が不足しているわけではないのですか?
松本●なぜ水不足が叫ばれているかというと、その問題は、雨期と乾期があったり、乾燥・半乾燥地域と湿潤地域があったりするなど、水資源が時間的・空間的に偏在しているからです。また、途上国の場合、水資源を開発して利用するための資金が不足しているという経済的な理由もあります。急激な人口増加や生活水準の向上が各地の水需要を押し上げ、他方、温暖化などによる気候変動が水問題に拍車をかける構図になっています。これは「水危機」などとも呼ばれ、世界の国々が連携しなければならない人類共通の重要課題になっているのです。
(後編に続く)