デジタル国家を目指すモンゴルで、起業家育成をサポート

2021年11月25日

果てしなく草原が広がるモンゴル。今でも多くの人が牧畜生活を営み牧歌的なイメージがあるかもしれませんが、実は、都市部ではインターネット環境の整備が急速に進み、携帯電話の普及率は100%を超えています。モンゴル政府はデジタル国家の推進を掲げ、モバイルアプリの活用などによる公共サービスの電子化やスタートアップ支援に注力し、IT分野では起業がとても盛んになっています。

そんなモンゴルで、JICAはITを活用してコロナ禍の問題解決を目指すスタートアップ企業をサポートしています。9月には起業家がそれぞれのアイデアを競い合うピッチイベントも開催されました。

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(左):ピッチイベントにはオンラインで各国の投資家や有識者らも参加
(右):ベストアワード賞を受賞したのは、遠隔医療サービスを提供する企業

スタートアップ企業の育成を支えるプログラム

デジタル化が急速に進むモンゴルですが、1990年に社会主義体制から市場経済に移行してから、まだ約30年しか経っていません。産業界におけるロールモデルが少なく、実態として、ベンチャーキャピタルや個人からの投資も不足しており、多くのスタートアップが資金調達に苦戦しています。

そんな課題を解決するため、JICAはモンゴル通信事業大手でKDDI株式会社傘下のモビコムコーポレーションやモンゴル日本人材開発センターと連携して、海外投資家とのネットワーキングや事業拡大支援に向けた資金提供を含む支援プログラム「MonJa Startup Accelerator Program」を開始しました。全6か月のプログラム期間中には事業成長のための講義が受講できるほか、メンターからの助言、ネットワーキングの機会が得られるなど、スタートアップ企業の育成が目的です。

広大な国土にオンライン診療を! 遠隔医療サービス提供企業がベストアワードを受賞

このプログラムの最終報告会として9月に開催されたピッチイベントでは、プログラムに参加した4社が事業の最新状況についてプレゼンテーションし、投資家や有識者が審査を行いました。

そのなかから、コロナ禍の課題への貢献度と今後の成長性といった観点でベストピッチアワードに選ばれたのが、遠隔医療モバイルアプリ「クリニカ」を開発しているエイサップケアです。

2020年6月に設立、従業員6名からスタートし、現在41人の医者、19の医療機関と提携を結び、アプリを通じて遠隔医療を提供しています。国土が広いモンゴルでは地方への医療提供が社会課題。コロナ禍で遠隔医療の重要性はますます増しています。

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エイサップケアが開発しているオンライン医療診断アプリ

「エイサップケアが遠隔医療の安全な提供に向け、着実に努力を重ねているのがよくわかりました。医療機会の不平等はモンゴルだけの問題ではなく、アメリカでも深刻化しています。今後の海外展開に非常に期待したいです」

そう述べるのは、日米を中心としたベンチャー企業への出資および事業支援を行っているワールドイノベーションラボ(米国拠点)のアキ・ジャンさんです。

また、アジアの有望なベンチャー企業に対する投資と経営支援に取り組むグローバル・ブレインの池田翔氏は「登壇した4企業に大きなポテンシャルを感じました。モンゴル国内にとどまらず、グローバルな成長戦略を描いてほしいです。日本にも似たような事業例があるので、外国の投資家と連携して多様な意見を取り入れてほしいと思います」と話しました。

エイサップケアにはトロフィーと、ワールドイノベーションラボとグローバル・ブレインとの個別オンラインミーティングチケットが贈られ、今後の成長をサポートします。

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バクシン・トスラフが手掛けるモバイルアプリ・プラットフォームにより、モンゴル全土の小学生~高校生がどこでも格安で質の高い教育コンテンツにアクセス可能

さまざまなパートナーと協同し、モンゴルの持続可能な産業発展を支援

JICAはMonJaのほかにも、モンゴル通信・情報技術庁やウランバートル市と協力して、大企業や研究機関、公的機関、教育機関のネットワークの強化を通じたエコシステムの醸成に関する取り組みを進めており、モンゴル発のイノベーションに向けた動きを加速させています。

また、これまでモンゴルでの工学系人材の育成に取り組んできたほか、近年は、モンゴル政府が掲げているデジタル国家推進に向けて、IT分野に特化した協力を強化。安全なデジタル経済の推進のための調査や、デジタル国家の基盤となるサイバーセキュリティ関連の人材育成に向けたプロジェクトも展開していく予定です。

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工学人材の育成に向けたプロジェクトで、電気関連の実験を行うモンゴルの学生たち

さらに、日本のIT企業のモンゴル進出やオフショア開発(情報システムやソフトウェア開発の海外委託)を促すビジネスセミナー、モンゴル国内にある日本式の高等専門学校と連携し、人工知能(AI)の主要技術であるディープラーニングとモノづくり(エンジニアリング)を掛け合わせたビジネスコンテストもこれから開催していきます。

今後の取り組みについて、JICAモンゴル事務所にてスタートアップ支援を担当する小泉泰雅さんは次のように述べます。

「モンゴルは国際数学オリンピックで毎年メダリストを輩出するなど数学に強く、IQが高いという調査結果もあり、IT分野の人材にポテンシャルがあると感じています。労働人口が少なく、市場規模が大きい訳でもないので、海外展開しやすいIT産業の強化が必要です。一方で、多くのスタートアップが資金調達に苦戦し、海外展開できずにいます。JICAが海外市場・海外投資家とのつなぎ役を担い、IT産業の発展に貢献できればと思っています。今後はスタートアップそのものの支援だけでなく、複数のステークホルダーを巻き込みながら、エコシステムの構築に向けた取り組みを行っていきたいです」