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【12月3日は国際障害者デー】コロナ禍で孤独感を抱える障害児やその家族をサポート:タイからASEAN8カ国を結んだワークショップを開催

2021年12月3日

JICAはタイで、コロナ禍により多くの制限を受けている障害児とその家族へのサポートを続けています。主に自閉症や知的障害がある子どもたちを対象に開催したワークショップでは、ASEAN8カ国をオンラインで結び、家の中でもできるエクササイズに取り組みました。参加者からは「画期的で素晴らしいワークショップ」「家の中でも運動ができて楽しかった!」といった声があがりました。

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ワークショップに参加した子どもたち。最初はためらいを見せていた子どもたちも、だんだんと動きが大胆に、表情も豊かになっていきました 

合計3回のワークショップには約300名が参加

「簡単にできる運動で、楽しかった」「同じ悩みを持つ親御さんたちと知り合えてよかった」「息子がやる気になってエクササイズをしている姿を見て、とても幸せでした」

新型コロナにより先の見えない状況が続いていた今年3月、ASEAN8カ国の障害がある子どもとその家族をオンラインでつなぎ、「家の中でできるエクササイズ」をテーマとしたワークショップが開催されました。各国の会場や自宅にいる子どもたちもオンラインで参加し、ボール投げや、片足立ちなどゲーム形式の運動に夢中です。子どもたちを見守る保護者の表情には、安堵の色が浮かびました。

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エクササイズに使用する道具は家にあるビニール袋や新聞紙で作るため、自宅からの参加者も会場と同じエクササイズに挑戦できます

ガイドブックには障害がある子どもとの家での遊び方を掲載。ASEAN8カ国向けに10種類の言語に翻訳され、各国の伝統舞踊をもとにしたエクササイズも

ワークショップはタイをベースに、今年3月から4月にかけて合計3回開催されました。子ども対象のエクササイズのほか、各国の障害者家族を対象にケアの悩みを共有したり、障害がある子どもにもできるエクササイズをまとめたガイドブックの意見交換を行ったり、毎回異なる内容で、それぞれ100名近い参加者が集まりました。

深刻化する障害者家族の問題に速やかな連携で対応

このワークショップは、JICA、APCD、筑波大学などASEANで障害者支援に取り組む関係者たちの「コロナ禍の障害者達へ早期に支援を届けたい」という強い想いがきっかけで実施されました。その背景にあったのは、感染が急速に広がるなか、障害者家族に大きくののしかかる「孤立」と「ストレス」です。コロナ禍で学校や障害者向けの施設へ行けない状況は、障害がある子どもたちにとっても大きなストレスでした。また、自宅で一日中ケアをする家族も、外部の助けが受けられずに孤立し不安を抱えていたのです。

未曽有のパンデミックの中でワークショップを開催するまでにはさまざまな苦労がありましたが、過去に多くの活動を共にしてきた日・タイはじめASEANに散らばる関係者が素早く連携し、早期の実施が実現しました。

事前準備や当日の進行をリードしたのは、筑波大学で発達障害児の運動発達支援を研究している澤江幸則准教授です。これまで、JICAと共にアジア太平洋地域の障害者団体や障害者を対象に、スポーツを通した運動能力や適応性、積極性などを育む研修の講師を務めてきました。澤江准教授は、どのような状況下でも障害がある子どもや家族に笑顔で過ごしてほしいという一心で準備に務めたと、次のように話します。

筑波大学の澤江准教授。ワークショップで「鬼退治ゲーム」を実践したときは、自らが鬼役となって子どもたちを喜ばせました

「活動を進めるなかで、言葉の違いにより、ニュアンスがうまく伝わらないもどかしさを感じることがいく度かありました。しかし、お互いに嫌な顔をせず、辛抱強く理解できるまで何度もやり取りできる関係があったからこそ乗り越えられたと思います。将来的には、ASEANの国々で、障害がある人のためのコミュニティスポーツ(レジャーやエクサイズを含む)の振興を行い、地域もまた豊かになる取り組みを行いたいと考えています」

また、短期間でASEAN各国の障害者団体を取りまとめ、多くの参加者を集めワークショップ開催を支えたのはアジア太平洋障害者センターでした。アジア太平洋地域で障害者支援に携わる人材育成を目的に、JICA支援のもと設立されたこのセンターは、約20年前に設立されて以来、アジア太平洋地域の障害者支援団体や関係者と、国を超えた連携を深めてきました。

ワークショップの打ち合わせをするアジア太平洋障害者センターのメンバー(左から、シリポンさん、ワチャラポールさん、スパノンさん、総括のソムチャイさん)

「私たちは、コロナ禍でも体を動かし心身の健康を保つことの大切さを信じて、この活動を行いました。しかし、ASEAN内でも国や人により考え方や知識は異なります。例えばオンライン会議ツールを全く知らない保護者もいるなかで、一緒に活動を進めるのはとても苦労しました。さまざまなSNSツールを駆使しながら各国担当者と何度も確認し、10カ国語に翻訳して作り上げたガイドブックは私たちの集大成です」と同センター職員のワチャラポールさんとスパノンさんは振り返ります。

さまざまなパートナーと社会的弱者への協力を進める

タイでは、障害者家族に限らず、コロナ禍により多くの家庭で問題が起きています。女性が家庭内暴力を受ける、子どもが親から虐待を受ける、高齢者が必要な医療を受けられない…。そんな多くの課題に対し、JICAタイ事務所は、さまざまな協力に取り組んでいます。

女性の自立を目指した収入向上支援や子どもたちのメンタルヘルス調査、高齢者へのマスク等の物資支援をはじめ、学校で使用する感染予防啓もうのための教材作り、国境付近の移民を対象とした支援なども実施しています。

JICAタイ事務所のナショナルスタッフたち。プロジェクトの企画から実施まで主導しています

多くの活動の実現にはナショナルスタッフたちの活躍があります。コロナ禍で現場に入れない状況でも、コミュニティに近い政府機関やNGOとのネットワークを最大限活用して情報収集し、協働支援策を作り上げていったのです。

「コロナ禍では誰もが不安やストレスを抱えやすい環境にあります。家庭内の課題は外から見えにくく、人々の悩みに添う支援をするのは難しいですが、普段からコミュニティに入って活動しているNGO等と連携し、想像力や共感力を持ってプロジェクトを進めています」と、タイ事務所で社会保障分野への協力を担当する川合優子さんは語ります。これまで蓄積した知見やつながりを活かしながら、今後想定される問題を丁寧に掘り起こし、さまざまなパートナーと連携して、取り残されがちな社会的弱者への協力を続けていきます。