【2022年TICAD8開催】コロナ禍を乗り越え、アフリカとの新たな共創を目指す:アフリカ部増田淳子部長に聞きました

2022年1月4日

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が今年2022年にチュニジアで開催される予定です。3年に一度開かれ、2019年に横浜で開催されたTICAD7に続く今回は、まさしく世界がコロナ禍を経験してから初めてのTICADになります。

「これからは、アフリカ自らが持つ課題を解決する力を底支えし、どのような危機に対しても強靭な社会を共に築いていくことが重要だと再認識しました」

JICAアフリカ部増田淳子部長は、今後のアフリカとの向き合い方について力強く述べます。幼い頃の経験からアフリカに寄り添う仕事がしたいと思い描き、まさしく実行に移してきた増田部長にアフリカへの熱い想いを聞きました。

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JICAアフリカ部増田淳子部長

新型コロナの感染が拡大するなか、カメルーンにとどまり、現場を指揮

コロナ禍でも協力を継続したJICAに対し、増田所長(当時)の離任時には、カメルーン中小企業庁大臣から感謝の言葉が寄せられました

「2020年に新型コロナの感染が蔓延し始めた時、カメルーンにいました。ほとんどの日本人関係者は感染初期に一旦帰国しましたが、現地での事業は止めないというJICAの方針のもと、所長としてカメルーンにとどまりました。新型コロナの実態もわからず、国中で不安が高まるなか、『私たちJICAはカメルーンにいて協力を続けていきます』という姿勢を示すことで、現地の政府関係者など協力相手の方々にも安心してもらえたかと思います」

次長と現地スタッフだけで事務所を切り盛りするなか、新しい気づきもありました。例えば、コメ作りの技術協力の現場では、協力相手の農業省の職員たちが、日本にいる専門家から遠隔でサポートを受けつつ、これまでの協力を通じて得た知見・経験をもとに自ら積極的に農業普及員や農民に指導を行うなど、より自立的に取り組む姿勢が見られました。

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新型コロナ感染症が拡大する前は、地方部にあるコメ作りの技術協力の現場にも出張していました

また、現場に赴くことができない代わりに、デジタルツールを活用することで、協力の幅が広がりました。零細中小企業に対するカイゼンアプローチを通じた協力では、日本人コンサルタントが研修内容を動画で配信。リモート研修になったことを機に、これまでは現場研修に同席する機会のなかった政府の幹部にもWeb会議システムを通じて参加してもらい、研修の成果を実際に見てもらうことができました。

「治安が悪く日本人が現場に入れなかった地域の人々にも、リモートなら研修が実施できます。日本から多様な講師にも参加してもらえます。安定した通信網の確保という課題はありますが、これまでの『現地に行かなくてはできない』といった常識が覆り、距離を超えた新しい協力の形が一気にできあがりました」

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コロナ禍で、日本とカメルーン4州を結んで実施されたカイゼンアプローチに関する研修。上段右から3番目が増田部長

お互いを知り、信頼し合うこと、わかり合うことの大切さを肌で知る

モロッコ、セネガル、カメルーンとアフリカ駐在は通算で10年以上に及ぶ増田部長ですが、アフリカとの縁は約40年前にさかのぼります。小学校3年生の時、鉄道会社に務めていた父親がJICAの専門家として、当時のザイール(現在のコンゴ民主共和国)に派遣され、家族も一緒に現地で1年間暮らしました。

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ザイール(当時)のインターナショナルスクールでの思い出の1枚(上列右から4番目が増田部長)

「ザイールに行く前は、『アフリカの人たちは手助けをしないと生きていけないので、援助をするためにやってきた私たちは歓迎される』と勝手に思っていました。しかし暮らし始めた当初は、東洋人としてからかわれ、嫌な思いをすることも。ただ、日々現地の人たちと接するなかでお互いを知ることにより、信頼関係が生まれ、関係性が変わっていったのです。実は現地で出会った人たちは明るくたくましくて、自分自身もアフリカの人たちをステレオタイプでみていたと気付かされました」

そんな経験から、日本から縁遠いと思われがちなアフリカ、そのなかでもフランス語圏アフリカと日本との橋渡し的な役割を果たしたいという思いが芽生えました。そして、自らがアフリカの社会に身を置いて、人々と直接関わりながら、アフリカの人たちにとってよりよい社会を築く取り組みに携わりたい、という気持ちが強くなっていったのです。その後、大学ではフランス語を専攻、国際協力の仕事を志し、JICAへ。これまで主にアフリカに関わる業務を進めてきました。

アフリカ自ら社会課題の解決へ。コロナ後の新たな国際協力の在り方

「新型コロナという世界的な危機のなか、強靭な社会をつくり、人々の命と暮らしを守る『人間の安全保障』という考え方がいかに大事であるか改めて痛感しました。そして、JICAがこの考えのもと、積み重ねてきた『人』に焦点を当てた協力が危機下で実を結んだことを実感しています」

JICAが長年、人材育成などで協力してきたケニアの医学研究所やガーナの野口英世医学研究所は、周辺国も含めた感染症対策の拠点になるなど、コロナ禍で大きな役割を果たしました。また、かつて暮らしていたコンゴ民主共和国(当時はザイール)を訪ねた際、40年近く前に父親らが技術指導した現地の人たちが、長年の内戦を経ても日本の支援で建設された近代的な橋梁を守り続けている姿に触れ、当時の日本の協力が脈々と息づいていることも目の当たりにしました。

【画像】ロックダウンなどにより、人やモノの往来に制限がかかったことから、アフリカでは今、先進国に依存するのではなく、デジタル技術なども駆使し、自分たちの力で社会課題を解決していこうという機運が高まりつつあります。また、アフリカを各国単位で捉えるのではなく、一つの大陸としてハード・ソフトの両面で連結性を強化し、アフリカの経済的統合を目指すイニシアティブがアフリカの人々によって進められています。

このような状況のもと、JICAはアフリカの新型コロナ対策に取り組むスタートアップ企業を支援し、また、アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)と連携して、アフリカの地域統合を推進する協力を強化するなど、新たなニーズに取り組むアフリカの人たちに寄り添い、そのポテンシャルを最大限発揮できるようサポートしています。

「アフリカのオーナーシップを尊重し、これからも日本がアフリカにとって信頼できるパートナーであることをしっかり示していきたいです。そして、これまで国際協力とはあまり縁がなかった人々ともつながり、新しい方法でより柔軟に、アフリカとの関係を広げていければ。最近では、日本の高専生のモノづくりの力をアフリカの課題解決に活かしつつ、日本の地方創生にもつなげるような取り組みも行っています。これからもアフリカと日本をつなぐイノベーティブな協力にチャレンジしていきます」

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日本の高専生とケニアのスタートアップ企業が連携して、家畜飼料の分別装置の試作品を制作。ケニアで実証実験も実施(2019年撮影)

コロナ禍は、アフリカ、日本、世界が共に、同じ課題に向かって解決策を探っていく機会になりました。ともすれば、今後、アフリカから解決策のヒントを得ることもあるかもしれません。「ほんとうはできるだけアフリカの現場にいたいんです」と優しい笑顔ではにかみながら、熱い希望を胸に、アフリカの未来を見据えます。

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プロフィール
増田淳子 JICAアフリカ部部長
1994年国際協力事業団(旧JICA)入団。モロッコ、セネガルでの勤務を経て、2017年から2020年は事務所長としてカメルーンに赴任。東京都出身。