ウクライナから研究者が来日し、福島大学で技術研修へ——被ばく線量測定の最新技術を、チョルノービリの環境評価に生かす

2022年8月19日

7月29日、ウクライナから、ウクライナ国立科学アカデミー原子力研究所の研究者、オレナ・ブルドー博士が来日しました。原子力災害後のチョルノービリの環境影響評価技術を習得するため、12月上旬までの約4か月間、福島大学環境放射能研究所(IER)等で研修を受けます。

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羽田空港に到着したオレナ・ブルドー博士

1986年のチョルノービリ原子力発電所事故から36年。ウクライナ政府は立入禁止区域の再編を計画しています。立入禁止区域では、クーリングポンド(原発への冷却水供給池)の水位低下で、環境や生態系の変化が予想されています。再編に向け、放射性物質の持続的なモニタリングが必要となります。

JICAは、2008年から科学技術振興機構(JST)と連携して、開発途上国と共同で科学技術研究を進めるプログラム「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」を実施しています。このプログラムの枠組みで、2017年4月から2023年3月まで、福島大学やウクライナ側の行政・研究機関による国際共同研究プロジェクトとして、チョルノービリの立入禁止区域の再編や活用に向けた放射性物質の持続的なモニタリング技術の支援を行っており、ブルドー博士の研修もその一環として実施されます。ロシアによるウクライナ侵攻でウクライナ国内の研究環境が悪化、日本国内で技術研修を受け入れることになりました。大きな被害を受けたウクライナの研究機関には研究機材の供与も行います。

ブルドー博士は野生動物、特にネズミなどのげっ歯類への放射線の影響を研究しています。福島大学をはじめ日本国内の大学で最新機器の利用法や染色体解析の手法について研修を受ける予定で、ウクライナ国内で野生動物への放射線の影響を持続的に評価できる技術の取得を目指します。福島第一原子力発電所や県内の被災地域で、除染や復興への取り組み、放射能汚染の現状についても学ぶ予定です。

「このような研修の機会を得ることができ、とてもうれしく思っています。初めての土地で不安もありますが、多くの人々が研修準備に尽力してくれました。新たな技術を学び、研究し、チョルノービリに生息する動物の染色体レベルでの放射線の影響を明らかにしたいと考えています。そしてこの科学者として最高の経験が、母国ウクライナへの貢献につながると期待しています。」羽田空港に到着したばかりのブルドー博士は笑顔で取材に応じ、研修への意気込みをそう話しました。

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笑顔で取材に応じるブルドー博士

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ボーリング調査中のチョルノービリのクーリングポンドに立つブルドー博士。クーリングポンドは付近の川から水を汲み上げるポンプの停止後、大部分が干上がった状態となっている

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ブルドー博士が捕獲したネズミ。ネズミはウクライナ国内に多く生息し、また比較的狭い範囲で生活し続けるため放射線の影響を測定するサンプルとして適しているという