子どもの学ぶ力が飛躍的に向上! データが示すアフリカ「みんなの学校」の成果

2022年11月18日

 

「子どもたちによりよい教育を受けさせたい」——世界中の子どもを持つ親の切実な願いです。けれども、アフリカをはじめとする途上国では、学齢期の子どもの9割が最低限の読解力や算数スキルを習得できていない現状があり、「学びの危機」と言われています。さらにコロナ禍で学校閉鎖などがあり、より状況は深刻になっています。

そのようななか、行政任せではなく、学校、保護者、地域社会と協働して子どもの学習環境を改善するJICAの「みんなの学校」プロジェクトの取り組みが、アフリカの子どもの基礎学力を飛躍的に向上させています。2004年にニジェールの小学校23校で始まったこのプロジェクト。現在、アフリカ9か国・約7万校の小中学校に広がり、その成果に世界の注目が集まっています。

11月20日は、世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目指して国連が制定した「世界子どもの日」。そんな願いに想いを寄せ、「みんなの学校」プロジェクトの取り組みを、データとともにみていきましょう。

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「みんなの学校」プロジェクトで支援する読み書きの補習授業(マダガスカル)

地域コミュニティ全体で子どもの成長と学びを支える

1990年にタイで開催された「万人のための教育世界会議」を受け、「万人のための教育」という国際的な目標に向けて、アフリカ各国でも政府主導のもと、初等教育の無償化が進められました。

また、地域のニーズを反映した学校運営を実現するため、各学校で教師や保護者、地域住民で構成する学校運営委員会(日本のPTAを拡大したような組織)が組織され、学習環境の改善を目指しましたが、残念ながらうまく機能しませんでした。それまでアフリカでは、政府を支える官僚を育成するエリート教育が優先されていたため、学校は一部の富裕層のためのものという意識がありました。また、村の権力者が学校運営委員会の代表を務めることが多かったため、透明性が確保できず、住民に不信感を与えていたのです。

そこでJICAは、しっかりとした話し合いの場が持てる学校運営委員会の組織づくりに着手。委員会の代表を民主的選挙で選出し、学校活動計画を住民集会で決めるなど、コミュニティ全体が情報を共有しながら、学校運営に関心を持てるようなモデルをつくりました。保護者や教員のみならず、地域住民たちが教育の重要性を理解し、地域全体で子どもの学びを支えるのです。

これが「みんなの学校」プロジェクトの始まりです。機能するようになった学校運営委員会が中心となり、コミュニティを巻き込み、教室の設置、教科書や文房具の購入などで教育環境を整備。授業の質や時間も十分ではなかったため、補習授業を実施して子どもたちの学習をサポートしました。その結果、子どもたちの基礎学力が飛躍的に向上しています。

補習授業で、算数と読み書きの力が大幅に向上

100万人規模で「みんなの学校」を実施しているニジェールとマダガスカルを例に、子どもたちの基礎学力の変化をグラフで見てみましょう。数万〜数十万規模の子どもを対象に、数か月にわたる補習授業を受ける前後で、四則演算テストと読み書きのテストを実施しました。

四則演算テストでは、足し算、引き算、掛け算、割り算のテストをそれぞれ実施。いずれの国も四則演算ができる子どもが平均24%ほど増加しています。

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マダガスカル:2021学年度、1027校7万5445名の小学生を対象に、プレテストと3~4か月の補習授業を受けた後の最終テストで比較
ニジェール:2021学年度、6758校53万9786名の小学3-6年生を対象に、3か月間の補習授業を受ける前と受けた後のテストで比較

読み書きのテストでは、長文、短文、単語、音節、文字、のサンプルを提示し、どの程度読解できるかをテストしました。補習の実施期間が異なるため両国の比較はできませんが、いずれの国も、長文と短文を理解できる子どもの数が大幅に増えています。特にニジェールでは、文字の読めないビギナーレベルの子どもが33%もいましたが、4%にまで激減しています。

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マダガスカル:2021学年度、6714校64万288名の小学生を対象に、3~4か月間の補習授業を受ける前と受けた後のテストで比較
ニジェール:2021学年度、6758校55万1441名の小学3-6年生を対象に、8か月間の補習授業を受ける前と受けた後のテストで比較

学習のつまずきを逃さず、レベルに応じた学習支援で成績向上

ここまで成果を出している背景について、「みんなの学校」プロジェクトの普及に長く携わる國枝信宏JICA国際協力専門員は、次のように語ります。

「まずは現地のニーズが高かったこと、つまり、子どもたちによりよい教育を受けさせたいという親や先生、地域の人々の想いが強かったことです。そして、その地域の願いをかなえるため、『みんなの学校』プロジェクトがアフリカの現状に合わせた具体的な解決策を示せたのだと思います」

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学校運営委員会のメンバー。黒板には学校活動計画が書かれている(マダガスカル)

2000年代から加速した初等教育の無償化で、アフリカの就学率は徐々に上がっていったものの、教育の質の改善は追いつかず低下していきました。子どもたちの習熟度を測る学習評価がきちんと行われておらず、子ども一人ひとりがどこまで理解しているのか把握されないまま授業が進み、取り残されたと感じた子どもは学習意欲を失い、学校を辞めてしまうこともあったのです。

そこで、「みんなの学校」プロジェクトでは、学校運営委員会が子どもの学びの状況を把握し、補習授業内で、その子どもの理解度に合わせた習熟度別の指導法の導入を支援。勉強内容や学期ごとに理解力を図るテストを実施するなど、学習のつまずきも見逃さないようにした結果、子どもたちの学習の質が着実に向上していきました。

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遊びながら学ぶ子どもたち。子どもの学力に合わせた教育手法を取り入れている(マダガスカル)

マダガスカルの教育モデルに、世界的な評価

「みんなと遊びながら学べるので、苦手だった算数の四則演算がうまくできるようになりました。将来はお医者さんになりたいです」(小学4年生ジェニーさん)

「物語を読むのが楽しくなりました。学んだことを家に帰ってお姉ちゃんに話して、一緒に復習しました」(小学3年生ネへミュアさん)

今年8月、首都近郊アナラマンガ県の小学校で、「みんなの学校」プロジェクトで支援する補習授業に参加した子どもたちの声です。基礎学力の向上は、子どもたちの学びたいという意欲をさらに押し上げていることもわかります。

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「みんなの学校」の補習授業について感想を教えてくれたジェニーさん(右)とネヘミュアさん(左)

米国の国際的な研究機関RTIインターナショナルは2022年、マダガスカルの「みんなの学校」プロジェクトを、アジア・アフリカ地域の算数分野においてスケールアップに最も成功した教育プロジェクトのひとつに選出。イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズでも紹介されました。

國枝専門員はこの評価について、明確な基礎学力向上のデータを示せている点に加え、コミュニティ協働型の教育改善活動という、他の地域でも展開できる汎用性のあるモデルであること、さらに、身の回りにあるものを教材として活用したり、既存の教員研修制度を利用したりすることで低コストに抑えられている点が認められたと話します。

「子どもの課題にみんなで向き合い、みんなで解決していく教育協力が、『みんなの学校』です。子どもの学びに対し、保護者や地域の人々が問題意識を持ち、コミュニティのメンバーそれぞれが協働して関わることが大切なのです」と話す國枝専門員。今後、JICAは、世界銀行やユニセフといった他の国際協力機関や各国政府と連携し、アフリカ全土にこのコミュニティ協働による教育改善アプローチを広げていくことを目指します。

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木の棒を使って計算の練習をする子どもたち(マダガスカル)