気候変動は今そこにある危機、途上国への支援拡充が不可欠—COP27でも合意

2022年12月8日

エジプトで11月に開催された気候変動対策の国連会議COP27では、すでに深刻な影響を受けている途上国への支援を拡充していくことで各国が合意しました。近年、アフリカ北東部で長期化する干ばつや、パキスタンでの大規模洪水など、気候変動による被害は甚大化し、人々の生活に重大な影響を与えています。

気候変動はまさに緊急かつ重要な課題。今こそ世界各国がパリ協定の目標達成、気候変動に強じんな社会の構築に、途上国と一丸となって取り組む必要があります。JICAではエネルギー、運輸交通、農業、森林など幅広い課題に「気候変動対策」の視点と知見を組み込み、途上国に向けた取り組みを加速させています。

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2022年の記録的な豪雨による洪水で、国土の多くが水没したパキスタン

重要なのは、気候変動対策をいかに実行するか

第27回となる今回の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)では初めて、洪水や海面上昇、干ばつといった気候変動による災害に見舞われた途上国の「損失と被害(ロス&ダメージ)」に対する資金支援のあり方が正式な議題になりました。交渉は難航しましたが、最終的に途上国に向けた新たな基金の設立で合意しました。

JICAで気候変動対策分野を担当する国際協力専門員の川西正人さんは、COP27を振り返り、気候変動対策の「実施に向けたCOPでした」と強調します。

国際協力専門員の川西正人さん

2015年のCOP21で合意されたパリ協定では「産業革命前と比べた世界の平均気温上昇を1.5度に抑える」と唱えているものの、現在の各国の取り組みでは、その目標には遠く及びません。そのギャップを認識し、実際にどんな対策を実施していくのかが問われたCOP27だったと川西さんは言います。

国連環境計画(UNEP)がCOP27の直前に発表した報告書『排出ギャップ報告書2022』は、各国が現在掲げている目標を達成しても、今世紀末までに世界の平均気温上昇は産業革命時と比べて2.4~2.6度上昇する可能性が高いと指摘。世界銀行は、具体的な措置をとらなければ、2050年には気候変動により移住せざるを得ない人が2億1600万人に達すると試算します(注1)。今、まさに行動を起こしていくことが求められているのです。

注1:Groundswell Part 2: Acting on Internal Climate Migration, World Bank

JICAはCOP27の会場で、「パリ協定達成に向けたJICAの気候変動対策」といったサイドイベントを開催するなど、各国の関係者ともさまざまに協議しました。そのなかでもキーワードになった言葉が「適正な移行(ジャスト・トランジション)」。パリ協定での目標達成には、温室効果ガスの排出削減といった物理的な要素だけでなく、社会全体の変革という意識の改革が必須となります。今回のCOPは、前回に引き続き対面でのコミュニケーションが可能だったこともあり、各国の関係者が互いの意識合わせや方向性を直接確認し、同じ方向を向いて進んでいこうという機運の高まりも会場にありました。

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COP27で、開発金融機関のネットワーク「国際開発金融クラブ(IDFC)」の関係者と適応策にについて議論するJICA気候変動対策室の渡邉太二さん(右端)

気候変動対策と持続的な開発の両立を目指す

JICAは、開発途上国の課題に取り組む20の事業戦略「JICAグローバル・アジェンダ」のひとつとして「気候変動」を取り上げています。そこで掲げているのが、「パリ協定の実施促進」と、温室効果ガスの排出を抑えつつ持続的な開発で社会経済を発展させる、つまり、その両立を目指す「コベネフィット型気候変動対策の推進」です。温室効果ガスの排出削減・吸収増進に取り組む「緩和策」と、それでも避けられない気候変動の影響への対応を図る「適応策」の両方の対策を取り入れたアプローチです。

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「気候変動対策をいま講じなければ、甚大な影響が生じます。しかし同時に、影響を免れるために行動すること自体が、ときに開発成果を損ねる場合もあり、大変難しい問題です。そのため、気候変動への対策と持続可能な開発目標を両立させ、負の相関関係(トレードオフ)を抑え込みながら気候変動への効果を出していくアプローチが必要なのです」

かつてインドネシア政府の気候変動対策能力を強化するプロジェクトに携わっていた川西さん。気候変動を直接には担当しない省庁関係者も認識を共有し、気候変動への対策をそれぞれの分野に取り入れていくよう、丁寧な対話の継続に協力したことを振り返ります。「気候変動対策と持続可能な開発を両立していくためには、皆が同じ方向を向けるよう、必要なエビデンスの提供や対話を続け、きめ細かな対策を途上国と一緒に実施していくことが重要です」。

JICAは現在、エネルギー、運輸・交通、都市開発、農業、防災、森林保全など、あらゆる開発課題に取り組む際、プロジェクトの計画段階から気候変動の緩和策・適応策の視点を取り入れて進めています。例えば、農業分野におけるかんがい設備を進めるプロジェクトでは、洪水や干ばつといった気候の変化も加味して整備計画を策定。気候変動への配慮・対策を事業計画に盛り込むことで、組織全体としての意識の醸造と底上げを図っています。

途上国で取り組むコベネフィット型気候変動対策

JICAは2021年に67カ国で気候変動への対策を進めました。例えばインドネシアでは、国による今後の開発計画において、気候変動の影響による経済損失額を算出し、これを最小化するための適応策を盛り込むなど、気候変動に強じんな開発計画の策定を支援しています。また、海面上昇により国の存続が危ぶまれる大洋州の島嶼国に向けては、サモアに太平洋気候変動センターを設置。大洋州諸国における気候変動分野の関係省庁・機関を対象に、気候変動への対応策をつかさどる人材を育成しています。

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川西さんは今後の取り組みへの課題について、次のように述べます。

「COP27に関連する報道では、先進国と途上国との間に溝があるとの声もありましたが、現場レベルでの協力は着実に進んでいると感じます。ウクライナ危機や食料・エネルギー問題など、世界中で他の開発課題も深刻化するなか、気候変動への対策を推進していくのは非常に難しい状況です。パリ協定が掲げる大きな目標に向けて、革新的な技術開発や普及などが求められますが、それだけでなく、官民から個人まで、すべてのアクターを巻き込み、気候変動への取り組みのすそ野を広げていく、地道な積み重ねも必要です」