「国際女性デー」ケニアの企業に見る、男女共に幸せな職場の作り方

2023年3月8日

3月8日は国連が定めた「国際女性デー」です。ジェンダー平等は「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標の一つにもなっており、各国がさまざまな取り組みを行っています。しかし、その道のりはまだ長く、現在のペースでは格差解消に300年近くかかるという衝撃の予測も。ジェンダー平等は決して女性だけの問題ではありません。女性の活躍によって経済活動が活性化し、男女が共に幸せになる——そんな未来を目指して一歩を踏み出したケニアの企業を紹介します。

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ジェンダー平等は貧困撲滅と経済成長に不可欠

近年、国際社会の取り組みによって、女性の健康や教育水準は向上し、女性の経済活動や政治への参画も徐々に進んできました。ジェンダー格差は以前より改善しつつあるものの、その速度は遅く、法整備を含む完全な実現には286年を要するという国連の報告もあります。女性や女児への暴力はいまだ止まらず、女性の社会進出の前には多くの壁が立ちはだかっています。

とくに開発途上国では、女性たちが世帯の生計維持や地域の経済発展に大きく貢献している一方で、市場や社会のさまざまな制度や慣行に潜む偏見や差別によって、相対的に安い労働力として扱われ、不安定な労働に従事しているのが現状です。国連貿易開発会議(UNCTAD)の調べによると、例えばサブサハラアフリカの非農業に従事する女性の74%、南アジアでは80%の女性は非正規労働者であり、小規模な行商人や商店の経営者、出稼ぎ労働などを含む自営業者や低賃金労働者となっています。

しかし米マッキンゼーが行った調査によると、世界における女性の経済参画を男性と同等レベルに拡大すれば、GDPが10年で26%(28兆ドル)も増加。国際労働機関が70カ国13,000社を対象に行った調査でも、経営層におけるジェンダーの多様性を推進した企業では利益が平均で10~15%も増加したという結果が出ています。経済を活性化させ、人々の暮らしを豊かにするには、ジェンダー平等が必須なのです。

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(出所)マッキンゼー・グローバル・インスティテュート “The Power of Parity: How Advancing Women’s Equality can add $12 Trillion to Global Growth” (2015)、国際労働機関 “Women in Business and Management: The Business Case for Change” (2019)

農業大国ケニアを支える女性たち

農業がGDPの約34.1%を占めるアフリカ東部の農業大国ケニア(2019年、世銀、外務省サイト参照)。それを支える農民の約7割が女性です。ケニアでは女性の社会参加が比較的進んでいるものの、責任ある職は伝統的に男性が占めており、また児童結婚の問題や健康・福祉・教育面の遅れから、国連開発計画の「ジェンダー不平等指数(2021年)」では191か国中128位。ジェンダー格差や差別の解消はケニアでも大きな社会課題です。

その首都ナイロビに、JICAが海外投融資により支援するリージェンオーガニックス社(運営会社はサナジー社)があります。2011年設立の同社は、農業ビジネスや市場、飲食店、食肉処理場、市中の衛生トイレから回収した残留有機廃棄物を、昆虫を活用してリサイクルすることで、農業用の有機肥料や飼料用たんぱく質、バイオ燃料などを生産・販売しています。循環型の肥料製造ビジネスを通じ、スラム街などの公衆衛生や食糧増産など複数の社会課題の解決に貢献しています。

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ナイロビ郊外にあるリージェンオーガニックス社のリサイクル工場と、主力製品の有機肥料「Evergrow」

顧客である農家や、製品の販売ネットワークである農業資材店に女性従事者が多いことから、女性を積極的に登用してきたリージェンオーガニックス社は、その取り組みをさらに推進するため、2021年4月から1年間、工場運営や販売・流通における女性の採用・研修を強化する女性のエンパワメント推進プロジェクトを実施しました。

女性の活躍で職場のワークライフバランスが改善

「自分の能力に限界を作ってはいけません。自分を信じていれば道は開きます」そう語るのは、リージェンオーガニックス社で工場長を務めるアガタ・キヒウさん。教育熱心な家庭に生まれた彼女は、製造業でのキャリアを通じて生産性を向上させる“KAIZEN”の知識とスキルを学び、現在の地位に就きました。今では120人のスタッフを率いています。

「2年前までは工場全体で10%以下だった女性スタッフの比率も、今では30%を超えました。今後はさらに増やすことを目標にしています。女性は細やかな作業、例えばパッケージ作業などのスピードや正確性が非常に高く、実際に女性のいるチームの方が生産性が高いのです。女性の採用が増えたことによって工場全体の作業時間が短縮して残業が減り、男性を含む全社員のワークライフバランスが改善しました。この取り組みに誰もが満足しています」(アガタさん)

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「才能ある女性たちの力を最大限に引き出していきたい」と語るリージェンオーガニックス社工場長のアガタさん

販売・流通においても女性スタッフを12名から57名に増やし、営業スキルや商品知識を学ぶ研修を実施。これに伴い取引先の数は、女性による農業団体が54団体から138団体へ、女性が経営する農業資材店は104店舗から184店舗に増加しました。リージェンオーガニックス社の製品を購入する女性農家数も334人から977人と約3倍に大幅増加し、自社製品の有機肥料「Evergrow」の売上高も倍増するなど、わずか1年の試みが会社に大きな成長と変革をもたらしたのです。

プロジェクトの実施にあたり、アガタさんが担ったのは工場で働く女性の技術力やリーダーシップスキルを高めるためのコーチングでした。自身がメンターとなって現場の士気を高め、生産性向上や女性のキャリアアップを実現できたと言います。また男女皆が助け合いながら、高いパフォーマンスを発揮できるよう、より柔軟なワークスケジュールの作成や、出産後の女性が授乳や搾乳できるスペースの整備など、誰もが働きやすい職場づくりに注力しました。

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工場内にある3つの製品ラインをすべて管理するアガタさん

今後は人材の教育を通じて、より高いポジションに立つ女性リーダー、とりわけ理系女性を増やしたいというアガタさん。「製造業においてはイノベーションが非常に重要です。ジェンダーインクルージョンによってイノベーションをさらに加速できるはずです」。

誰もが生きやすい社会の実現のために

日本を含め、ジェンダー平等を完全に達成した国はいまだ存在しません。だからこそ各国は相互に学び、ジェンダー平等を実現するための協力を共に推進していく必要があります。 JICAではさまざまな分野の政策や事業にジェンダーの視点を取り入れる「ジェンダー主流化」の推進に注力しており、国内外の組織や有識者、民間、市民社会などとの連携を構築・強化しながら、その相乗効果を通じて、よりインパクトのある成果を目指しています。

ジェンダー平等の問題は女性の生きづらさに焦点が当たりがちですが、幅広い視点で見てみると、ステレオタイプな男らしさの価値観によって男性も生きづらさを感じています。本来は誰もが性別にとらわれず、人間としての尊厳をもって生きられる社会を目指すべき。そのためにジェンダーにかかわらず皆が共に協力し、行動を起こしていくことが大切です。

学び合いと助け合いで、誰もが生きやすい社会を実現する。国際女性デーをきっかけにぜひ一緒に考えてみませんか。